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天野文雄 "帰納と演繹" / 『小町風伝』 応援コメント

きたまりさんの舞台は舞台芸術研究センターの企画で二度ほど観たくらいだろうか。タイトルがすぐ出てこないのは申しわけないが、さいしょに会ったのは、何かの公演のアフタートークのあと、よく行く『猫町』で恩師の山田せつ子さんが連れてきたときだった。言葉はほとんど交わさなかったが、そのきたさんが、これも師にあたる太田省吾の『小町風伝』をダンスにするという。 この十数年、きたさんのような現代の舞台芸術に関わる人に多く接してきて思うのは、研究と創造、いわば帰納と演繹(えんえき)の関係であり、そのちがいである。
公刊されている『小町風伝』のテキストには、さいしょのほうに海軍少尉が登場しセリフもある。しかし、現代日本文学大系によれば、大笹吉雄さんがみた舞台では老女も少尉も一言も発せず、冒頭からそこまでの20分ほどはまったくセリフなしだったようである。セリフのある舞台が初期にあったのかどうかは知らないが、戯曲には少尉のセリフも載っている。このちがいから、その演出の発見が無言劇のきっかけになったのかと思ったりしたが、そうした系譜論はどちらかといえば、帰納的であり研究というものの営為である。海軍少尉は能の深草少将のモジリであることなども誰にも分かるし、またそこに近代能楽集の影響をみようとするのも研究であって、創造はもっと本質的な要素を汲み上げるものである。
もちろん、こうした系譜論を超えて圧倒的に創造・演繹の要素が多いのが現代芸術なのだろう。
きたさんは、「小町風伝に向けて」で、太田省吾が考えたそのさきを現出したいという。わたしとしては、きたさんが『小町風伝』に何を見出したのか、また何を見出そうとしているのか、それを楽しみにしている。

天野文雄(大阪大学名誉教授/能楽研究者)


きたまり / KIKIKIKIKIKI『小町風伝』公演詳細はこちら
2024年11月2日(土)3日(日) 両日とも17:00開演
会場:大江能楽堂(京都市)
 チケット絶賛発売中!!

デザイン:升田学 『小町風伝』フライヤー全体図 下絵4


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