森山直人 / 『小町風伝』 応援コメント
太田省吾は、曇りの日のほうが物がよく見える、というセザンヌの言葉を好んで引用していた。
それにしても、〈曇り〉を描き出すことは、ダンスや演劇にとって、この上もなく難しい、永遠のテーマのようなものではないだろうか。
「晴れ」や「闇」は、意外と簡単だ。そして、多くの演劇やダンスは「晴れ」か「闇」に還元できてしまう。
〈曇り〉がとてつもなく困難なのは、〈曇り〉が一瞬として同じ表情にとどまることがないからだ。そこでは、さまざまなレベルの明るさと暗さが混在しながら、たえず変化する。
〈曇り〉という言葉で人がだらしなく思い浮かべるのは、たいていは、どんよりとした自分の心の状態でしかない。そうやって、人は〈曇り〉のほんとうの豊かさを見ないで終わってしまう。
身体も〈曇り〉の無限の変化をたたえている。それなのに、人はそれを見ようとはしない。
太田省吾の『小町風伝』を、身体の闇を描いた作品というのは充分ではない。
正確には、それは身体の〈曇り〉の空をえがこうとしている。
しかも、たとえていえば、夜の空の曇り空だ。
曇った夜空は、満天の星空以上に、人の心を惹きつける。
そんな曇り空に挑戦できるのは、身体の闇の魅力を熟知している、きたまりしかいないだろう。
森山直人(多摩美術大学教授/演劇批評家)
きたまり / KIKIKIKIKIKI『小町風伝』公演詳細はこちら
2024年11月2日(土)3日(日) 両日とも17:00開演
会場:大江能楽堂 (京都市)
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