バッテリーカー遊びを巡る考察
以前Facebookに書いた文章です。大切な友人から「ちゃんとアクセスできるようにどこかに置いておいた方がいい」と助言をいただいて、自分のFacebookの記事を検索して、再度原稿に起こしました。
スイッチ遊びのバリエーションとしてのバッテリーカーは、東京の特別支援学校で一時活用されていましたが、現在は著しく衰退していることを感じています。バッテリーカーだけではなく、AACもATも、教材を作ることも、授業作りも衰退していることを強く感じています。その原因についてはまた別稿で。
バッテリーカー遊びは、たぶん子どもたちの見ることやコミュニケーションにも強く関係していることをずっと感じており、価値があるとも思っています。
1から12まであります。また、ご意見をいただければ嬉しいです。なお、ダウンロードできるファイル版には画像を貼り付けています。ご活用いただけたら嬉しいです。
(付記 2019年に書いたものに手を加えました。2023年2月作成)
①考察の動機
年末年始の休暇中の宿題のひとつとして、スイッチ遊びの大切なメニューのひとつであるバッテーリーカー遊びのことをまとめようと考えた。
そう考えたのには二つの理由がある。ひとつは、私が1990年代から興味を持って取り組んできたAAC(Augmentative and Alternative Communication)やAT(Assistive Technology)の領域の情報が、私が仕事をしている東京都では「盛衰」の「衰」であることと、もうひとつは、そういう「衰」の一方でバッテーリーカーそのものの性能の向上や可能性を感じるからだ。大げさに言えば「引き裂かれるような」二つの局面といってもいいかもしれない。
しかし、諦めたわけではない。栄えたり衰えたりするのはよくあることだし、今や「右肩上がり」は決して良いことではなく、「持続可能」の方が真理により近いと感じている。
でも、ここでアタマの中にある情報を整理しておくこと。これが宿題。
② すごいぜ!COOPER CAR
バッテリーカー遊びとの最初の出会いは、ATACカンファレンスに先立って1995年に東京で行われたCoup de Tech(クーデテック)だった(クーデテックの開催時期の情報をブログに残しておいてくれた金森さんに感謝)。
中邑賢龍さんがかっ飛ばす様子を今でも覚えている。ワクワクした。
そこで見たのがGOBOTという立位のバッテリーカーで、この会場でもらった(記憶曖昧)のが、RJ COOPER社のカタログ。そこに載っていたバッテリーカーこそ6輪のCOOPER CARだった。
このCOOPER CARの画像を探すのに苦労した。探しに探してやっと「RJ COOPER社」の名前を探し出し、COOPER CARが今でも現役で販売していることがわかった。すごいぜ、RJ COOPER社!(場所はカリフォルニア、価格は22万($1999)。
COOPER CARは6輪のバッテリーカーで、独自のシーティングシステムを備えている。
このCOOPER CARの仕組みを知りたくて、カタログの諸元から推測したところ、どうやら「電動乗用玩具」として販売されているおもちゃで、6Vのバッテリーとモーターで動くらしいということを知った。
③ 1996年第1回ATACで九州産COOPER CARに出会う
時代や細かい記憶に間違いがあるかもしれませんがお許しください。
翌年、高松で第1回ATACが開かれた。実はこのとき中野泰志さんが開講した「弱視疑似体験実習」に参加したことが、その後、見ることの支援の勉強を続けるきっかけになった重要な土地でもある。
記憶が曖昧なのだが、福島勇さんの発表だったような記憶がある。「九州すげー」と思ったから。COOPER CARを手作りしてスイッチ遊びに使ったという報告。すごく興奮しながら聞いたことを覚えてる。
日本で手に入る電動乗用玩具を土台にして牛乳パックでシーティングシステムを作った力作だった。子どもたちがスイッチ遊びで移動の経験ができたらどんなに喜ぶだろうと思った。
東京に戻ったら自分もエンジン始動しようと心に決めた。バッテリーカー遊び取り組んでやろうと。
しかし、ここで課題がひとつ。近くのおもちゃ屋には電動乗用玩具は置いてなかった。東京は店舗の広さも住宅事情も限られているので「実物」を見ることができなかったのだ。
④ 1997年夏、バッテリーカーを手に入れる
よくやくバッテリーカーを手に入れたのは、翌年の夏。函館のハローマックでだった。夏休みに帰函した祭に、ハローマックに立ち寄ってみたらそれはあった。さすが、北海道。新幹線型で処分価格が1万ちょっとと記憶している。
2学期が始まるのが待ち遠しかった。あることを試してみたかったからだ。
COOPER CARはシーティングシステムを導入しているが、子どもたちの多様な身体の状態を考えると、シーティングシステムがあるが故にCOOPER CARに乗れない子どももいることが課題だった。それに30kgまでという電動乗用玩具の体重制限のこともあった。
そこで、シーティングシステムを使わないで、バッテリーカーで車椅子を押したり引っ張ったりすることを考えた。スイッチを接続できるようにバッテリーカーを改造するときに、びっくりするほどモーターが小さいことも見ていたのでできるかどうか確信がなかった。だから早く試してみたかった。
2学期が始まって早々に試した。当時、小学部2年の担任だった。小2で一番大きいお子さんの車椅子を押す形にして自転車の荷台のゴムで取り付けてみた。動いた。
このときの興奮は今でも忘れない。
このときからバッテリーカー遊びを本格的に始めた。
子どもが乗った車椅子を押したり引っ張ったりする他、車椅子の前輪に対して直角の位置にバッテリーカーを取り付けて、車椅子が回るようにもした。
⑤ バッテリーカーは片輪駆動 初期の取り組み
バッテリーカーを改造するために駆動部を開けてみると、バッテリーカーの動力モーターは後輪の片方にしかつながっていない。
子どもがバッテリーカーに直接乗って、ハンドルを操作する分には問題ないが、車椅子を押したり引っ張ったりすると、モーターがついていない方の方向に曲がっていく。そのために随時手で動かして方向修正をする必要がある。
これを何とかしたくて、当時「ニコイチ」をやった。バイク型のバッテリーカー2台を使って、両輪が駆動輪になるように改造した。このときに二つのモーターを一緒に動かすために「リレー」というものが必要(使える)ことを知った(当時はよくわからずキットを利用)。ボタンを三つ用意して、真ん中が前進ボタン。左右が方向変換ボタンにして作ってみたが、そもそも三つのボタンを押す(押し分ける)ことができるお子さんがいなかった。全くのアイデア倒れだった。
⑥ アメリカの二人乗りバッテリーカー
時は2000年代に入る。この頃になるとバッテリーカーの入手先がヤフオクになる。子どもが大きくなって乗らなくなったバッテリーカー、あるいはバッテリーがあがって使えなくなったバッテリーカーが安く出ていた。
この頃、ヤフオクで知ったのかネット検索で知ったのかは思い出せないが、アメリカのフッシャープライスで大型のバッテリーカーを作っていることを知った。従来の倍以上もある。二人乗りのものもある。でもすっごく高い。そこでヤフオクをずっとウォッチしていたんだっけ。バイク型の大型バッテリーカーとジープ型の二人乗りバッテリーカーを手に入れた。
ジープ型の方は後輪の両方にモーターがついていて、まっすぐ走る優れものだった。バッテリーは12V。
当時は高等部の担任で、直接乗ってハンドルを操作できる生徒がグランドで運転を堪能したのを覚えている。
運動会の花形種目の紅白リレーは、それまでは自分で車椅子を操作できる生徒の独壇場だったが、コミュニケーションが難しくて運動の制約の大きい生徒もバッテリーカーで参加して活躍するようになった。
数年後には多くの都内の肢体不自由の特別支援学校でバッテリーカーで活躍する子どもたちの姿を見ることができるようになった。
⑦ 車椅子とバッテリーカーの接続方法の改良
当初、車椅子とバッテリーカーの接続には、自転車の荷台用のゴムを使っていた。手軽で安い反面、その伸縮性故に接続までに試行錯誤を繰り返して時間がかかっていた。
ちょうど、2005年前後の頃だと思うが、スイッチの固定にヤザワのどっちもクリップを使うことが多くなってきた。これをバッテリーカーの接続にと最初に思いついたのは、同僚の松本健太郎さんだった。それ以降、車椅子とバッテリーカーの接続はとても簡単になった。
⑧ バッテリーカーのバッテリーの充電について
バッテリーカー遊びをはじめてみると、バッテリーが1年程度で使えなくなってしまうことに出会った方は多いはず。4Ah程度のバッテリーがのっていて、付属のACアダプタで充電するようになっている。
当時、このバッテリーを安く仕入れる方法を知らなかったので、ヤフオクで買っていた。1ヶ2000円程度。今は秋月電子で700円で購入(現在バッテリー価格は上昇。2023年2月現在秋月で7Ahのものが1800円)
密閉型鉛蓄電池について調べてみたら、充電方法によって寿命が変わるらしいということを知った。そこで試したのが無停電電源装置UPSを使った充電。UPSには6Vバッテリー内蔵のものと12Vバッテリー内蔵のものがある。ヤフオクで500円程度で多量に出ている。
UPSを使うようになってから、バッテリーは数年使えるようになった。
⑨ 改造にリレーを使う
バッテリーカーを改造してスイッチを接続して使っているうちに、メーカーによってラインが熱くなってくるものがあることがわかった。15年位前のこと。
対処方法を教えてくれたのは、当時学校に来ていた「教材製作アドバイザー」の方。その方は電気関係が得意だと聞いたので早速相談に行った。
そこで教えてもらったのが「リレー」という部品。「自動車でウィンカー出すとカチカチいうでしょ。あれ。」といわれたものの、実物を見るとなんだかわからないピンが出ていて全く分からない。その全く分からないところから教えていただいて自力で使えるようになった。
モーターを動かす回路とスイッチの回路を電気的に分けるという説明だったようにうろ覚えしている。
このとき以来、リレーにはお世話になっている。バッテリーカー以外でも、ひとつのスイッチで複数のものを動作させたいときなどに使っている。ずっと使っているのが「941H-2C-5D 5V小型リレー、接点容量2A、2回路C接点」というリレー。秋月電子で150円(2023年2月現在)。
経年劣化があるようで、時々機嫌が悪くなって動かなくなることがある。その場合は交換。
⑩ 新しい世代のバッテリーカー
ここ数年の間にモノ探しに使うのがAliexpress。中国のアリババが運営するショッピングモールだ。PCのサイトよりもスマホサイトの方が軽いのでそちらを使っている。
中国からの輸入ってどうなのと思われる方もいるでしょうが、ちゃんと届くし送料無料のものも多い。品質も大丈夫。
バッテリーカーそのものの生産国だということで、この暮れにバッテリーカーの現状を調べてみた。
数年前からリモコンつきのバッテリーカーが登場している。子どもが運転しているときにリモコンで制御できるように。Aliexpressを調べてみると、リモコンつきが主流になっている。Bluetoothを使う。リモコンで方向も制御するためには、両輪にモーターを仕組んで回転差を使うか、ステアリングをモーターで制御するか。両方ともあるらしい。「らしい」というのはまだ現物を拝んでいないから。(→その後現物を確認しました。両輪にモーターがついているタイプでよかったです)。
トイザらスのサイトには見当たらなかったが、楽天やyahooでは見ることができる。
リモコンつきというのは改造する上でも簡単になるのではないか。リモコンの前進スイッチから引き出せばいいのだから。
Aliexpressでは駆動モーターをシングルか、ダブルか選べるようになっていた。リモコンがいるかどうかなど。バッテリーカー遊びの選択肢が広がったということだと思う。価格は15000円から60000円程度。
RJ COOPER CARを検索しているとき、アメリカのバッテリーカーに関する論文が出てきた。そこにでてきたのはすべてシーティングシステムで「乗る」タイプで押したり引っ張ったりする写真はなかった。中身まだ読んでいないけど。
⑪ これが今、一番共有したい情報 バッテリーカーのDIYキット
バッテリーカーの「今」を探るべく、Aliexpressを調べていると、とんでもないものが続々とヒットして出てきた。それがバッテリーカーのDIYキット。
モーターの種類を選び、片輪駆動か両輪駆動かを選び、リモコンを使うかどうか選ぶことができる。タイヤは別売だが、どれも適当な価格。
今ある駆動系の修理や載せ替えもできるということだ。それぞれのパーツを単独で購入することが可能。
特別支援学校では時々工業高校や高専の生徒とタイアップして教材作りをする機会がある。バッテリーカー、やりたいなー。子どもの車椅子を押したり引っ張ったりすることによりよいスタイルのもの。コンパクトサイズにできたら、車椅子やストレッチャーにひっかけて、家族で公園に行って遊んだりできる。
友人や後輩数人にこの情報を教えたが、飛び上がる人にはまだ出会っていない。
⑫ 見ることの支援とバッテリーカー
バッテリーカーの取り組みを始めた時期と、視機能支援に取り組み始めた時期はほぼ重なっている。そのこともあって、バッテリーカー遊びは、子どもの目の使い方を育てる上で何らか寄与するところがあるだろうとずっと思ってきた。
東京都肢体不自由教育研究会の視機能支援部会では、毎年年末に筑波大学の佐島毅さんに講義をしていただいている。その中でバッテリーカーの話をしてくれるようになったのは10年くらい前からだっけ(記憶不十分)。
久里浜の研究所で小学生のお子さんがバッテリーカーを操作している映像。自動ドアの前にきてドアが開くとお子さんがびっくりする様子を捉えている。車椅子を押してもらっている状態で驚くことはないのに、自分でスイッチを押して動いていると驚く。視覚的な注意の向け方が異なるということ。
Linda Burkhartさんが1993年に出した「Total augmentative communication in the early childhood classroom」には「電動車椅子」という章があり、早期から自分で移動する経験とコミュニケーションの関係を示唆している。
そういうこともあって、できるだけ早期からバッテリーカー遊びの経験をさせてあげたいと思うのである。
最後に。
バッテリーカー遊びの楽しさを多くのお子さんに味わって欲しい。心からそう思う。