奥山敬

2021年3月まで特別支援学校に務めていました。運動やコミュニケーションに大きな制約があるお子さん(重度重複障害児という表記には違和感を感じるようになりました)からとても多くのことを学びました。そのことを書き綴っていきたいと思います。

奥山敬

2021年3月まで特別支援学校に務めていました。運動やコミュニケーションに大きな制約があるお子さん(重度重複障害児という表記には違和感を感じるようになりました)からとても多くのことを学びました。そのことを書き綴っていきたいと思います。

最近の記事

聴覚障がいの方はどうやって英語を学ぶ

 大学で教職課程の特別支援教育の授業を担当しています。毎回簡単なコメントを学生に書いてもらうのですが、そこからの学びがとても大きいという話。  学生から情報を提供されることがあります、こんなことがあった、とか、こんな動画を見たとか。  また、いろんな質問が「お気軽」に書き込まれます。お気軽は私が奨励しています。  今回も学生の質問から学んだこと。  全く聞こえない人はどうやって英語の勉強をしているのかということ。  私はろう学校での教育実習の経験はあるものの、教員となってか

    • ゲームのアクセシビリティに関する覚え書き 〜感覚や運動の制約が大きいように見えてもゲームを楽しむことができる時代がそこまできている件〜 その2

       前回の続き。(私にとって大切な情報の魚拓を取っておくという意味も含めて書いています)。  そう、8月8日に学生が教えてくれたこと。スト6(ストリートファイター6)の世界大会予選で全盲のプレーヤーが勝って話題になっているという話。  そして「サウンドアクセシビリティ」って機能があるんです、と。すぐにググってみた。  今年の5月の記事だ。「株式会社ePARAは5月1日、カプコンの対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』について、本作に導入されるサウンドアクセシビリティの改善に

      • ゲームのアクセシビリティに関する覚え書き 〜感覚や運動の制約が大きいように見えてもゲームを楽しむことができる時代がそこまできている件〜 その1

         それは8月8日(火)のことだった。私の担当している教職課程の特別支援教育の対面セッションでのこと。  視線入力やPPSスイッチ等の支援機器を学生に実際に操作してもらったり、Keynoteで画像や動画を使った教材を作ったり、「のじぎく」「ひなぎく」でデイジー図書を作ってみたり。そんな中で参加した学生が「格闘ゲームが好きで」「そういえば先日スト6(ストリートファイター6)の世界大会で全盲の人が予選通過して話題になっていました」と教えてくれた。  「え、何?それ?ちょっと待って。

        • バリエーションを巡って YOASOBI「アイドル」

           コミュニケーションや運動に大きな制約がある方の主体的な学びの支援を考える中で、いつも頭の中にあるのは「バリエーション」という言葉。  思い返せば物心ついたときから私のおへそはちょっと横にずれていたように思う。「人と同じ」に納得できなかった。何かちょっとアレンジしたい、変えてみたい。そういう衝動が常にあったのかな。  この業界に入ってもそれは大きくは変わっていないと思う。師の後についていくということをしなかった。自分で選んで自分のアタマで考えたかった。  そして現在も、コミ

        • 聴覚障がいの方はどうやって英語を学ぶ

        • ゲームのアクセシビリティに関する覚え書き 〜感覚や運動の制約が大きいように見えてもゲームを楽しむことができる時代がそこまできている件〜 その2

        • ゲームのアクセシビリティに関する覚え書き 〜感覚や運動の制約が大きいように見えてもゲームを楽しむことができる時代がそこまできている件〜 その1

        • バリエーションを巡って YOASOBI「アイドル」

          「自立活動を主とする教育課程」の罪

           特別支援学校には複数の教育課程がある。地域によってその呼び方は異なっているようですが、私がいた自治体の場合は3つの教育課程が存在しています。  ひとつは「準ずる課程」といわれるもの。教科の学習に取り組む課程。教科書を使って学習に取り組みますが、学習の進度によっては学齢より下の学年の内容に取り組むこともありです。  ふたつめは「知的代替の課程」。これは長い間特別支援学校にいましたが、よくわからない部分が多かったです。文科省著作の知的障がい用の教科書を使って学習に取り組む課程。

          「自立活動を主とする教育課程」の罪

          「重度」という言い方

           大学の教職課程の特別支援教育の授業を担当するようになってか学んだことがたくさんあります。それは当然なことだとも言えます。それまでの私の背景は、主に運動障がいのお子さんで、コミュニケーションが難しいお子さんの支援でした。一方、特別支援教育の授業では、その他のいろいろな困難さについてやインクルージョンについても学生に伝えなければなりません。そこは私が新しく学ぶべき部分でした。また、学生のふとした疑問や質問から私が新たに学ぶタネをもらうこともとても多かったです。  その新たな学び

          「重度」という言い方

          バッテリーカー遊びを巡る考察

          以前Facebookに書いた文章です。大切な友人から「ちゃんとアクセスできるようにどこかに置いておいた方がいい」と助言をいただいて、自分のFacebookの記事を検索して、再度原稿に起こしました。 スイッチ遊びのバリエーションとしてのバッテリーカーは、東京の特別支援学校で一時活用されていましたが、現在は著しく衰退していることを感じています。バッテリーカーだけではなく、AACもATも、教材を作ることも、授業作りも衰退していることを強く感じています。その原因についてはまた別稿で。

          バッテリーカー遊びを巡る考察

          今やること。

          やるべきことを溜めてしまっている。 コミュニケーションや運動に制約がある方に年齢相応の学習を用意する必要性と利点をレポートにする約束をして数ヶ月が経過してしまった。 書くべきことは頭の中で整理できている(はず)。 文字数の制限がない前提であれば。しかし、なるべく多くの人に伝えるためには伝える努力、即ちわかりやすく手短な文章にまとめることが必要だ。そこで滞っています。 表面的に見てどんなに運動やコミュニケーションの困難さが大きいように感じたとしても、内面の豊かさに注目して「年齢

          今やること。

          再起動します

          ここに書き始めてしばらくして中断してしまいました。 書き留めたいことはたくさんあるのに、指を動かすことを怠っていました。 そろそろ再起動しようと思います。 徒然なるままに書き綴っていきます。

          再起動します

          聞いて欲しい

           Nさんは運動の制約が大きく気管切開しているために声を出して何かを伝えることは難しいお子さんでした。そのために、Nさんにこれから尋ねることの選択肢を事前にことばで提示して、ひとつずつ順に尋ねたときのわずかな発信を受け止めて再びことばにして返すということをしていました。  また、当時は医療的ケアの対応の多くを教員が(研修して)担っていたので、私もNさんの気管切開部からの吸引の対応教員になっていました。  Nさんの胸のあたりからゴロゴロと痰が上がってきた音が聞こえたら、Nさん

          聞いて欲しい

          心配なのはアナタ 2

           心配されるといえばMさんのことを思い出さないわけにはいきません。  Mさんはお話しして伝えることができるお子さんでした。  当初は一語で「ブーブー」といった幼児語でお話しをされていたのですが、それは言いやすいからだとわかり、私の方からはなるべく完成された文章でゆっくり話して返すようにしていました。そのような繰り返しの中で徐々に話す内容が長くなり、つなぐ言葉もうまくつかえるようになってきました。  Mさんはわたしのことを「かー」と読んでいました。「たかし」の「か」が一番

          心配なのはアナタ 2

          心配なのはアナタ

           小学部のある学年の担任をしているとき、お子さんの人数が多かったので学年担任も7名いました。  お子さんの中に見えにくくて聞こえにくい、盲ろうで肢体不自由のお子さんがいたので、記号としての言語を伝える手がかりとして指文字を担任全員で使えるようにすることを提案しました。  「覚えると(盲ろうのお子さんにために)役立つよ」では、なかなか仲間のモチベーションを上げることはできませんでした。そこで、学年の時間に「指文字タイム」を作って、「お題」のカードを子どもにひいてもらって指文

          心配なのはアナタ

          見ることを支えるシステムに関する資料

           全国で小中学生にタブレットやノートPCが配布されています。 運動に制約があるお子さんの中には、ご家庭で座位保持に座ったりベッドに寝た姿勢のままではタブレットやノートPCの画面を見ることができない方は少なくないと思います。 そういうこともあって、以前の同僚や保護者の方から、「前(奥山が)使っていたあれと同じものが欲しいのだけれど」とか、「iPadが届いたんだけど、前にカメラの画面をiPadに映して見せていなかったっけ」という問い合わせをいただくようになりました。とても嬉し

          見ることを支えるシステムに関する資料

          見ることを支えるシステムの広がり

          Lさんの「知りたい」に応えて考えた「見ることを支えるシステム」は、その後いろいろなお子さんに色々な場面で使われるようになりました。 Lさんが外出する際に周囲の様子がわかるようにと考えたシステムでしたが、色々な場面でLさんの困りごとに対応できる可能性があることがわかってきました。 例えば、Lさんがお母様と一緒に買い物に行くときに、スーパーの店内で陳列棚の方にカメラの向きを変えれば、何を買うのかということを見られるわけです。 「体の取り組み」でLさんの手足を触るとき、今まで

          見ることを支えるシステムの広がり

          見ることを支えること

          Lさんの多様で深い興味関心のひとつひとつが、私をいろいろな気づきに導きました。 私は見ることの支援に興味を持ってきました。お子さんを取り巻く環境を工夫することによってお子さんが直面している「見えにくさ」が軽減されていく過程に、ヒトの可能性の大きさも感じていました。 Lさんは自分で姿勢を変えたり頭を動かすことが難しかったので、興味関心の塊のLさんにとって「周囲」は「知りたい」で満ちているだろうな思うようになりました。Lさんが私に提示した課題だと感じていました。 ある日、L

          見ることを支えること

          Lさんの興味 その2 テロ事件に

          ハリーポッターの読み聞かせに、身をよじって興味を示してくれたLさんは、実に多様なことに興味を持つ方でした。 ある年、アメリカで爆破テロ事件が起き、ニュースで状況を伝えている時のことでした。 Lさんのお母様から、テロのニュースが流れるたびにパルスオキシメーターのアラームを鳴らしているので事件に興味があるようだということをうかがいました。そこで、授業の中でその事件のことを説明しようと思いました。 ここで私は知識や情報の海をなんとなく漂っていることを突きつけられます。テロの何

          Lさんの興味 その2 テロ事件に