【TXT vol.2「ID」】実験は続くよどこまでも【舞台感想】
高橋悠也×東映シアタープロジェクト・TXT vol.2「ID」を見た。
ストリーミング配信で17日の夜公演を鑑賞したので、感想を書きたいと思う。なぜ今書くのかと言えば、私が書きたいというのと、それからこの舞台はまだ見ることが可能だから。少しでも鑑賞しようか迷っている人がここにたどり着いたのなら、背中を蹴り飛ばしてこの作品を見せたいのだ。
以降、対象として「鑑賞を迷っているので事前に情報を少し入れたい人」「見終わったので誰かの感想を読んでニコニコしたい人」を設定して書く。上演中の舞台のため、決定的なネタバレは避ける。避けつつも、見終わった人はニコニコできるというところを攻めていきたいと思う。全く情報を入れたくないという人はそもそもこの記事へのリンクを踏んでいないと思うが、自己責任で注意してほしい。それから、ストーリーのバレや偏った感想は後でどこか別の場所に書きなぐりたいと思うのでそういうのが読みたい人はそっちを選んでください。
※書きました。
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それでは、始めます。インタビューの類など事前情報を一切入れずに1度だけ見た上での感想なので間違っているかもしれない。その点ご了承ください。
公式ウェブサイトにあるイントロダクションが非常に抽象的なので、言葉を足してざっくりとどういう話か整理すると、こういう感じになる。
とある委員会が実験を行い、容姿を設計し、思考回路を組み込んだ男女をデザインする。彼らの人格や感情はプログラムされたもので、書き換えたり消去することができる。「アバター」と呼ばれる彼らを使って、委員会は人間の自我や感情について実験をしようと試みる。
舞台「ID」とは、この実験を描いた物語だ。
サイトのイントロダクションを読めば、自我や感情や自分らしく生きるとは何か、というようなテーマが展開されるだろうということは予想がつくわけだが、そうなると、あまりにもこの「自分らしく生きる」みたいな概念は手垢が付きすぎていて、どうせ穏当で平凡な着地点にランディングするんじゃないの?というような予想をするひねくれた御仁(私のような)もいるかもしれない。だが安心してほしい。この舞台はあくまでもその実験であって、人類ウン万年の課題にたった数時間で結論を出すような、そういう不誠実なことはしないのだ。高橋悠也は。どこから目線かよく分からなくなるのを許してほしい。
個人的には、TIGER&BUNNYや仮面ライダーエグゼイドなどを経て高橋さんには全幅の信頼を置いているのだが、賛歌を単純に賛歌で終わらせない、優等生と不良が同居するような、このバランス感覚が高橋脚本なんだろうなぁという感覚があった。
見終わった第一声が「エグゼイドじゃん!!!!!」だったので、エグゼイドが好きなら見て絶対に損はないと思う。あらゆる意味で。
印象的だったのは、「美しい」というワードの使い方だ。作中では正しいとか、間違っているとか、そういう価値基準を言葉にしない。美しいか醜いかで表現される。あくまでも委員会が美しさを彼らにとっての正しさの席に座らせているだけであって、概念と正義は直結しないのだ。結果的に、観客でや多くの人間にとってスパッと正しいと認識しがたいことも美しさとして処理され得る。それをあの世界の側では判断しない。それを私は誠実な態度だと見る。
また、アニメでもドラマでもない、舞台であるということが非常に生かされていたように思う。エグゼイドのマイティノベルX(小説版)を読んだ時にも感じたことだが、メタ構造をストーリーに生かし切っている。この作品は何日も繰り返し演じられる舞台でやってこそ意味があるのだ。
エグゼイドでもそうだが(何度目?)、序盤は鑑賞している最中に、「何か設定がおかしくない?」「言うてそっちもじゃん」というようなひっかかりが浮かぶかもしれない。だがそれは情報開示の順が練られているせいであって、後であぁこのためだったのかと気づかせる、回収車がやってくるのでそこは心配せずに身をゆだねて見続けてほしい。
キャストの皆さんも素晴らしかった。自我と感情がテーマに置かれていることもあり、基本的にずっと何らかの感情をふりかざして喋り、動かなければならないハイカロリーな舞台だった。あらすじでも書いたが、この舞台に出てくる人間は人格が書き換え可能なのだ。俳優たちの力量の見せどころといった場面も多くあり、ファンにとっては1粒で2度以上においしい構成だと思う。
SF的な、暗闇に光る舞台装置もクールだ。軍服調のデザインの衣装とのミスマッチも、ディストピア的異様さがあって良い。あの衣装とメイクで美形揃いの登場人物たちが人間を造っていると「ライチ☆光クラブ」などを連想するようなアングラの雰囲気もあった。しかし色調はあくまでもポップ。そういうバランスも楽しい。
この物語はあくまでも実験を描いたものであって、内容も思考実験的というか、あらゆる論点の提供がフルコースでなされているという感じ。人によっては重く見る部分が違うかもしれないし、何を是とするかも違うかもしれない。ついでに言うと、その問いに自分の中で答えが出たとて、それが社会的にどういう意義があるかとも直結しないかもしれない。そういうストーリーが気に入る人もいれば、後味の悪さを感じる人もいるだろう。
ただ、その実験の時間、この舞台を見てぐるぐると思索する時間は、決して無駄なものではないように、私には思える。
ストーリーの話をしたくなってしまうので、ここまでにしておく。結論から言うと、すごく面白い舞台だった。興味があって、チャンスがあるならぜひ鑑賞してほしい。
ご清聴ありがとうございました。