猿原真一の話をさせてくれ【暴太郎戦隊ドンブラザーズ】
暴太郎戦隊ドンブラザーズについて、最終回を迎えての雑感は書いたんですけど、まだ書き足りなかったので、今日は猿原真一の話をします。なぜなら猿原真一のことが好きだからです。昨日お誕生日だったそうですね。おめでとうございます。
まず一番最初に言いたいのは、猿原真一という男は変身能力に関わらず、そもそもヒーローであったということなんですよね。
猿原教授は無職ですが、ご近所さんの知恵袋として暮らしていて、助けた人々からのお礼で生活しています。スタート地点から、自前の頭と人徳(あと空想の力)という能力でヒーローをしていたわけで、ドンブラザーズの変身能力を得たのは、その腕の届く範囲が広がっただけでした。実際、ドンブラザーズの力でも子供が河川敷に落としたボールを拾ってあげたり、車に轢かれそうな人を助けたりしている。こういう、「ちょっとした人助け、怪人によるものでない人命救助」も十分ヒーロー活動にカウントしていい、っていうのもけっこうドンブラザーズという番組の発明と言っていい気がしますね (その描写のために舞台である王苦市の治安は爆悪になったが……)
そして彼のあり方って、桃井タロウのヒーロー性のスケールダウンかつ理想像でもある。
人にかけた親切がきちんと巡る世界。人とのご縁で保つ生活。人間に奉仕していたわりに迫害されていたタロウとは対照的です。
俳句という趣味も、何それ……という感じで扱われてはいますが、目の前のやるべきことをやるのみ主義、休日何してるのか全然想像つかない感じのタロウを見ると、まぁ豊かではある……という気持ちになります。好きなことで生きている。
仙人みたいな見た目と言説があるから、おっコイツ思ったより俗っぽいな……というのが際立っちゃうだけで、人間平均から言ったらかなり無欲ですよ。むしろタロウに目をやると、本当に無欲なのも考えものだな……という気持ちになるので、あのぐらいの承認欲求と自己陶酔なんざ愛嬌の範囲ですよ。
私も俳句やる人間の端くれなんですけど、猿原教授の承認欲求と自己陶酔がもっと強かったらもっとなんていうか、いろいろできることがあると思うんですよ。そういう俳壇コミュニティ的なもの、もしくは他者評価的なものの描写が一切なかったので(尺のせいかもしれない)びっくりしてしまった。四季の移りを眺めて、それを書き留めて、いやぁいいなぁ……って言ってるだけで完結できるっていうのは凄いことなんです。大抵の人間はそれだけでは続けられなくなります。
それでいて、非常時にはそういうものを度外視して身体が動くレベルの善性は持ち合わせているのでこの辺に関してはあんまり心配していません。脳人との同盟にこだわっていたのも、メンツもあるだろうけど敵を受け入れる懸念という正論でもあったので。ムラサメを雑に手に取って秒で乗っ取られたのはよくないとおもいます。反省して。
さっき対照的と言ったけれども、厳密にはちょっぴり違う気もしています。桃井タロウと猿原真一の差はなんだか面白くて、正反対ってわけじゃないんですよ。むしろ方向性は一緒でもある。猿原の欠点に見えるところって、桃井タロウの方を見やると「いや……まぁアレはアレで……別にいいのかもしれない……」という気持ちになる。パラメータ振り切れてる例が隣に居るので。
公式でも言及がありましたが、猿原教授は案山子に似ています。神様の形をした、神様ではないもの。強大な力はないけれど、実際カラスは追い払ってくれるし、それなりに人の役には立っています。タロウは例えるならばマジで豊作をもたらしてくれる神様ですが、残念ながら人間は、自然の摂理以上の麦が本当に実ってしまうと、なんかキモいな……怖……と思ってしまう身勝手な生き物です。
案山子ぐらいのスケール感になる、というのは桃井タロウが人間の中でいい感じに生きていくための指針になりうるとは思うんです。ただ、そういうカウンターがいまいちタロウ本人に響かない。それは何故かって言うと、猿原教授はタロウが前にいると途端にポンコツになるからなんですよね……
猿原教授、単騎でも十分戦っていけるヤバさではあるんですけど、残念ながらやっぱり神様としてはタロウが上位互換として存在しているわけですからね。空想の力で幻覚を見せてヤ○ザ(的な人たち)を制せる人間なんだぞ。沢北がいなければどこでもエースを張れる松本みたいなものです(スラムダンク熱の高い今であれば通じると思って思い切って例えていきます)
タロウが不在のときの猿原真一って、そのほとんどの話でMVPものの動きをしてるんですけど、そのへんをタロウが全然見てない。なぜならタロウがいない時にそれは発揮されるから。タロウは今からでも遅くないからはるかちゃんの漫画を読み込んだ方がいい。もしくはTTFCに入れ。
というよりは、もしかしたらタロウにとって、猿原教授って「別に放っておいていい人」だったのかもしれませんよね。「守るべき人の子」にカウントしていない。なぜなら自分の足でしっかり立っている人だから。自己肯定感がしっかりあって人に頼られるのが好きな、ヒーロー向きの器が普段の延長でドンブラザーズをやっているので、目を離していても構わない。タロウにとってはたぶん雉野の方が、ちゃんと見ていないとダメな人だったのでしょう。実際その通りだと思うし……
あとは単純に、そのカウンター的性質ゆえに、猿原真一の持ってるナイフが一番タロウに届くから……
これまで、タロウに面と向かって彼の問題点をぶっ刺してくる人間っていなかったと思うんですよ。なぜなら大抵の人間はまともにやり合う前にいなくなるか、一発殴ってからいなくなるか、そのまま無理やり関係を保とうとするだろうから(そして耐えられなくなって最終的にいなくなる)。問題点を、それもタロウがうっすら生きづらさとして感じていたものを明確な言葉にしてぶん殴り、かつ隣にいようとしてくれる人間って本当に貴重だったと思うんです。
出で立ちも態度も全然違っていて誰これ〜〜〜みたいな感じだった未来の「真ちゃん」でさえ、タロウを通り魔みたいにぐっさり刺していったので、たぶんそれが彼の一貫した役目なんだろうな。なんで主人公特攻持ちが自軍にいるんだよ。
まぁ問題はタロウがその傷口をなんとかしようと思った時に頼るのがソノイというところなんですが……なんでだよ!!!自分でアフターケアまでしろよ!!!なんで敵幹部への好感度上げに貢献してるんだ!!!!まぁ猿原教授はタロウが解決法まで聞きに来てくれたら治療を試みてくれたと思うんですけど、別にそれは求めてないのがタロウの弱いところであり、ひいては可愛いところなので仕方ないですね。痛いところばっかり突いてくる人間になついていけるかって言ったら微妙だよね。わかるよ。
そんなわけで、ずっとここまでずっと猿原教授のヒーロー性の話と対タロウの話をしてきたんですが……まぁはっきり言って彼の話をするとそこに終始してしまうんですよね。
視聴者のあいだでも、演者のあいだでも、「猿原って縦軸に絡んでいないよね」という話題はいつもありました。そういう見方もあるとは思います。というか、私も視聴中はそう感じていました。でも、個人的には終盤で、その見方は本当は逆だったんじゃないかと思うようになったんです。
暴太郎戦隊ドンブラザーズは「桃井タロウはいかに生きるべきか」というのが本筋だったのだと。
いわゆる「縦軸」と呼ばれていた、獣人の物語があります。犬塚翼が主人公だと言っていいでしょう。
並行して、脳人が人間の愛おしさを知るまでの物語がありました。ソノイが主人公です。
どちらの筋でも、桃井タロウは脇役です。もしかしたら大きな物語にとって、ある種のチートである桃井タロウはちょっと出てきて周りを動かすぐらいが一番魅力的にうつるのかもしれません。問答無用で片付いちゃうので。ギリシャ神話における、主人公がヘラクレスの神話あんまりない問題と同じです。
タロウが務めるのは、自分がどう生きるのか、周りは彼とどう生きたらいいのかという物語の主役でした。
46話で、タロウ犬塚ソノイが同時変身するシーンがあります。3つの軸が交差してゴールに向かう、熱い場面です。
2つの物語が終わったあと、最後に描かれるのは結局、桃井タロウのゴールでした。となると、この番組の本当の縦軸は、桃井タロウの物語だったのではないでしょうか。
猿原真一が所属していた物語は、桃井タロウの物語でした。となると、彼は本当はずーーーーっと縦軸に居座り続けたキャラクターだったのでは?
最終回のラスト、他のキャラクターのその後が描かれる中、猿原教授はただ、タロウに俳句(あとねじねじ)を手向けたのみでした。教授が向き合ってきた、ヒーローとしての桃井タロウはいなくなってしまったので、彼の物語もここで終幕なのでしょう。他に特筆すべきものはないのです。またご近所のヒーローとしての日々が続くだけなのだから。
結局、猿原真一が果たせたことって何だったんでしょう。傍目から見ていると、ヒーローというもののあり方について、本当は近くにいた青い鳥(猿なんですが)のような人であった気もするんですが、タロウがそこに気づくことはありませんでした。2人のそういう場面を見てみたかった気持ちもあるのですが、でも猿原教授はああいう人だからこそ、それでも自分自身に学びがあったのでよしと納得して頷きながら歩いていくのでしょう。タロウも、なんにも面倒見なくても自分の意志で最後まで自分と走りきってくれた人がいたということ、それで満足なのかもしれません。
以上が、私が猿原真一というキャラクターを1年間見てきて感じたことであり、私が思う猿原真一の好きなところです。1年間お疲れ様でした。私がご近所に住んでいたら野菜抱えて猿原邸に凸していたので画面の向こうで良かった。
こんなおかしなバランスの上に成り立ったキャラクターを生み出してくれた脚本監督スタッフ別府由来さん竹内康博さんに感謝を。顔とか声とかひょろっとした風貌とかちょっとした仕草とかが全部良いという話もしたかったんですが紙幅が……というかこの辺の話になると語彙がなくなり始めていいよね……(うなずき)しか言わない見苦しいオタクになるので割愛します。
できれば、できればでいいんですけど、桃井タロウが去った後のドンブラザーズも見せていただけないでしょうか……タロウがお休みかつソノイという話の通じる人材を得たチームできっと猿原教授はベストパフォーマンスを見せてくれると思いますので……!その上でドンゼンでタロウが戻ってきてやっぱり振り回されてポンコツになっている猿原真一を見てにやにやしたいんです……よろしくお願いしますッ……!
今日はここまで。お付き合いありがとうございました。