二葉亭四迷が翻訳した「死んでもいいわ」が意味するものとは?
前回の記事で、夏目漱石が"I love you" を「月が綺麗ですね」と翻訳したお話を紹介しました。
一方で、「ваша(yours)」という言葉を「死んでもいいわ」と訳した人がいます。
夏目漱石と同時期の小説家・翻訳家である二葉亭四迷です。
二葉亭四迷が訳した「死んでもいいわ」
最初に、簡単に二葉亭四迷についてご紹介しておきます。
そんな二葉亭四迷が、ロシアの文豪ツルゲーネフの「片恋」(原題 Ася:アーシャ)という作品を翻訳した際に、作中に出てくる「ваша(yours)」という言葉を「死んでもいいわ」と訳しました。
前後の文脈を見ると、恋人同士の語らいの場面で、「yours」ということは直訳すると「私はあなたのものよ」ということになります。
これは、
という感じで、飛躍している気もしないでもないですが、わかる!と共感できる部分も多分にあり、単に「あなたのものよ」とするより、ヒロインの女性が相手のことをこれ以上ないくらいに愛している心情が読み取れます。
I love you too=「死んでもいいわ」は誤り
実はこの二葉亭四迷の「死んでもいいわ」は、先の漱石の「月が綺麗ですね」と対で語られることがあります。
「月が綺麗ですね(I love you)」の答えとして、「死んでもいいわ」が用いられるということです。
つまり、死んでもいいわ="I love you too"ということです。
しかし、これは誤用というか俗説が広まったもので、上で紹介したようにツルゲーネフの小説の中に出てくる「ваша(yours)」を翻訳したものになります。
「月がきれいですね」と「死んでもいいわ」を対で使うのは誤り
インターネットで調べてみると、「月がきれいですね」の回答として「死んでもいいわ」が紹介されている事例が散見されます。
少し「Yahoo!知恵袋」をチェックしただけでも、以下のようなやりとりが複数見られます。
ただ、これまで見てきたようにこれは誤用で、2つのエピソードはまったく別のものです(漱石が「月がきれいですね」と訳したという事実も定かではありません)。
さいご
高校生や大学生のみなさんが、課題やテストで英文を訳すのは、文芸作品の翻訳ではないので、二葉亭四迷の「死んでもいいわ」といったレベルの意訳をする必要はないかもしません。
ただ、そうした翻訳の可能性を追究することで、日本語と英語、双方の奥行が広がり、語学のスキルも向上するのではないでしょうか。
また、まったく別のエピソードである「月がきれいですね」と「死んでもいいわ」の翻訳の話が対で語られる事例が散見するなど、噂話のように間違った情報が拡散していっている現象もみられました。
この事例は、情報リテラシーの大切さを示すいいサンプルにもなりそうですが、どのような変遷をたどって同エピソードが流布され、いま認識されているような意味になったのか、それを調べるのも面白いかもしれませんね。
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