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日本におけるフィットネスの関心度とトレーニング実施率:年代別動向と海外比較
年代別のフィットネス関心度とトレーニング実施率
日本人のフィットネス(運動・スポーツ)への関心は全体として高いものの、実際の運動実施率には年代によって大きな差があります。10代では特に関心・実施率が高く、82.4%が「運動・スポーツが好き」と回答しており (数字でみるスポーツライフ 子ども・10代 - 調査・研究 - 笹川スポーツ財団) 約5割以上が週5回以上も運動を行っています(全く運動しない人は13.2%に過ぎません) (数字でみるスポーツライフ 子ども・10代 - 調査・研究 - 笹川スポーツ財団) しかし、学校卒業後の20代~40代になると生活環境の変化から運動習慣が大きく減少します。多くの若年・中年層はフィットネスに興味は示すものの、定期的な運動習慣(「週2回以上30分の運動を1年以上継続」など)の保持率は低いのが実情です。実際、最新の調査では運動習慣者の割合は男性30代で23.5%、女性20代ではわずか14.5%と各性年代で最も低い水準でした (運動習慣のある人は、男性で36.2%、女性で28.6%。男性30歳代、女性20歳代が最も低い 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」の結果より | 生活習慣病の調査・統計 | 日本生活習慣病予防協会) 一方、50代は働き盛りで依然として運動習慣者が少ない傾向が続きます (令和4年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果について:スポーツ庁) 、60代以上になると健康志向から再び運動実施率が高まります。男女ともシニア世代で運動習慣保持者の割合が最大となり、例えば70歳以上では男性の42.7%、女性の35.9%が定期的な運動習慣を持つというデータがあります (運動習慣のある人の割合はどれくらい?|より豊かな人生に向けた生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター) こうした傾向から、若年層・高齢層はフィットネス関心・実施が高く、20~50代の働き盛り世代で関心と実践とのギャップが大きい状況が見て取れます。
フィットネスの対象範囲には、ジムでのトレーニング(筋力トレーニング等)、ランニングやジョギング、ヨガやピラティス、自重を使った体操、ウォーキング(散歩)など様々な運動が含まれます。日本人が日常的に行う運動種目をみると、男女とも**「ウォーキング」が最も多く、約6割の人が1年間にウォーキングを実施しています (女性が好むのはどんなスポーツ? 年代別20種目ランキング(10〜70代) | 女性ヘルスケア専門のビジネスメディア「ウーマンズラボ」) その次に人気の種目は男女で傾向が異なり、女性では「体操(ストレッチやラジオ体操等)」や「エアロビクス・ヨガ・バレエ・ピラティス」といった比較的軽めのエクササイズが上位に来るのに対し、男性では「ランニング(ジョギング)」「サイクリング」「筋力トレーニング」といった積極的な有酸素運動や筋トレ、さらには「ゴルフ」などが多く実施されています。年代別に見ると、若年層ほどランニングや筋トレの比率が高く、高齢層ほど体操や散歩といった軽めの運動の比率が高まります(例えば18~19歳では最も実施率が高い種目が「筋力トレーニング」であるのに対し、20~40代や60代では「散歩」が1位、50代と70代以上では「ウォーキング」が1位という調査結果があります (スポーツライフ・データ 2022 コロナ禍を経験した「スポーツライフ」の現状と今後 前回調査から運動・スポーツ実施率は横ばい、観戦スタイルなどに変化。 IT×スポーツの価値も。 - 調査・研究 - 笹川スポーツ財団) 。このように、日本では幅広い運動形態が行われていますが、特にウォーキング**は全世代を通じて手軽なフィットネス習慣として定着しています (女性が好むのはどんなスポーツ? 年代別20種目ランキング(10〜70代) | 女性ヘルスケア専門のビジネスメディア「ウーマンズラボ」)
フィットネス業界の市場規模推移
日本のフィットネス業界(主に民間のフィットネスクラブ・ジム市場)は、ここ数十年で徐々に拡大してきました。2010年代には緩やかな成長が続き、ピーク時の2018年にはフィットネスクラブの売上高が約3,372億円、会員数が約336万人に達しました (フィットネス業界の動向は?まだまだ伸びる市場を徹底解剖 | ビジネスチャンス) これは人口比で約3.3%の成人がフィットネスクラブ会員になっていた計算で、日本としては過去最高水準でした。しかし、2020年に新型コロナウイルスの流行で大打撃を受け、市場規模は2,235億円まで急減します (フィットネス業界の動向は?まだまだ伸びる市場を徹底解剖 | ビジネスチャンス) その後、制限緩和に伴い徐々に回復し、2023年には売上高2,784億円・会員数279万人程度まで持ち直しています。それでもピーク時の9割程度で、利用者数はなお低めです (〖業界研究〗フィットネスジム業界のトレンド情報~2023年調査版~ | 販促の大学で広告・マーケティング・経営を学ぶ) 。長期推移で見ると、2010年代まで右肩上がりだった市場はコロナ禍で一時落ち込み、現在はコロナ前の水準に近づきつつあるものの完全回復には至っていません。
市場の利用者構成を年代別にみると、特徴的なのは若年男性と高齢女性の利用率の高さです。ある調査では、「現在ジム等を利用している」人の割合は全体で12%程度ですが、年代・性別で見ると60代女性(21%)や20代男性(19%)が高く、次いで30代女性(15%)などが上位でした (フィットネスクラブ | 市場調査データ | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]) このように、定年後の健康づくりとしてジム通いをする高齢女性層と、筋力トレーニング志向の強い若い男性層がフィットネスクラブ市場を支える重要なセグメントとなっています。また近年では、都市部を中心に24時間営業のジムや低価格の無人ジムが増加し、仕事帰りの若年~中年層が通いやすくなる環境整備が進みました。女性向けには短時間で手軽に運動できるサーキットジム(例:Curves〈カーブス〉)が中高年女性に大ヒットし、日本全体のフィットネスクラブ会員数を押し上げた要因ともなっています。こうした新業態の台頭により、コロナ後はコンビニ型ジム(24時間・低価格)や女性専用フィットネスが市場を下支えし、緩やかながら市場規模は再成長に向かうと予測されています (フィットネス業界の動向は?まだまだ伸びる市場を徹底解剖 | ビジネスチャンス)
健康意識やライフスタイルの変化による影響
日本人の健康志向は年々高まっており、それがフィットネスへの関心度にも反映されています。政府も「健康日本21」やスポーツ基本計画で成人のスポーツ実施率向上を掲げるなど、国民の健康づくりを推進してきました (令和4年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果について:スポーツ庁) その結果、「運動は健康に良い」という認識は広く浸透しており、ある調査では72.6%もの人がスポーツが健康・体力の維持増進に効果があると考えています (令和4年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果について:スポーツ庁) 実際に運動する理由でも、「健康のため」が圧倒的トップで約79.4%にのぼりました 。中高年層が定期的に体を動かす人が増えているのも、自身の健康管理や生活習慣病予防への意識向上が背景にあります。
しかし一方で、現代のライフスタイル要因が運動習慣の定着を妨げてもいます。特に20~50代の働く世代では「忙しくて時間がない」という声が大きく、運動頻度を増やせない理由のトップは「仕事や家事が忙しいから」(41.0%)となっています (令和4年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果について:スポーツ庁) 次いで「面倒くさいから」(29.4%)という意見もあり、関心はあっても実践に移せない人が多いことがうかがえます。実際、「現在運動をしておらず今後もするつもりはない」という運動無関心層は全体の16.6%に過ぎず 。裏を返せば大多数は何らかの形で運動への関心自体は持っていると言えます。にもかかわらず「関心はあるが改善するつもりはない」と答える層(運動不足を自覚しつつ行動に移さない層)が男性で23.9%、女性で26.3%と最も多いことが報告されています このような「興味はあるが時間・意欲がない」層が働き盛り世代に厚く存在することが、日本のフィットネス実施率を押し下げている一因です。
ライフスタイルの変化では、近年のテレワーク普及も運動習慣に影響を与えました。通勤が減ったことで日常の歩数が減少し(2023年の調査で男性6,628歩、女性5,659歩と有意に減少 (運動習慣のある人は、男性で36.2%、女性で28.6%。男性30歳代、女性20歳代が最も低い 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」の結果より | 生活習慣病の調査・統計 | 日本生活習慣病予防協会) 、コロナ禍で「コロナ太り」を実感する人が増えるなど、運動不足傾向が指摘されています。一方で自宅でできるオンラインフィットネスやYouTubeエクササイズが流行し、自宅トレーニング(宅トレ)を始める人が増えた側面もあります。また在宅時間の増加から「運動不足を解消したい」「体重が増えたので運動したい」という新たな健康ニーズが生まれ、身近で手軽に通えるフィットネス(例:自宅近くのジム、24時間ジム)に注目が集まりました (フィットネス業界の動向は?まだまだ伸びる市場を徹底解剖 | ビジネスチャンス) このように、健康志向の高まり自体は追い風ですが、それを実践に結びつけるには時間管理の難しさやモチベーション維持といった課題が残っており、ライフスタイルの変化に即したフィットネス機会の提供(短時間プログラム、職場での運動推進、オンライン指導など)が今後ますます重要になっています。
海外(米国・ヨーロッパ)とのフィットネス参加状況の比較
日本のフィットネス参加率や運動習慣は、欧米と比べるとまだ低い水準にあります。フィットネスクラブの会員率で比較すると、アメリカでは成人の約20%が何らかのフィットネスクラブに登録しており、ヨーロッパでもフィットネス先進国のスウェーデンは約22%と非常に高い割合です (日本と世界のフィットネス参加率の違いは? – 〖公式〗パーソナルトレーニングジムAid~エイド~) これに対して日本のクラブ会員率は成人の約3.3%程度に留まっており。先進国の中ではかなり低い水準です。この差は歴然としており、例えば米国では5人に1人がジム通いをしているのに対し、日本では30人に1人程度に過ぎないということになります。実際、世界各国の2023年末時点のフィットネス参加率を比べると、米国:23.7%, 英国:15.9%, ドイツ:13.4%など欧米諸国が軒並み10~20%台であるのに対し、日本は推計4~5%前後(公共施設利用者まで含めても8%程度)と大きな開きがあります (欧米のフィットネス市場は成長、日本は遅れるも、成長余地大 | Fitness Business) つまり欧米では人口の約1~2割がジムやフィットネスに参加しているのに、日本はまだ1割未満というのが現状です。
この背景には文化や生活習慣の違いが大きく影響しています。アメリカやヨーロッパでは、日常的に体を動かすことが社会的にも推奨されており、学校教育や地域コミュニティでもスポーツ・エクササイズが盛んです。また、多種多様なフィットネスのオプション(ジム、ヨガスタジオ、プール、スポーツクラブ、アウトドアスポーツ等)が身近に提供され、誰もが自分に合った形で運動を継続しやすい環境があります (日本と世界のフィットネス参加率の違いは? – 〖公式〗パーソナルトレーニングジムAid~エイド~) 政府や自治体による健康促進策も積極的で、例えば北欧諸国では国民の運動参加を支援する施策が充実しています。 一方、日本では昔からラジオ体操や部活動など体を鍛える文化自体はあるものの、「フィットネス」を日常生活の一部として捉える習慣が十分根付いてきたとは言い難い状況です 。 特に働き盛り世代では長時間労働や通勤などで平日に運動する余裕が取りにくく、結果として休日に運動しないまま過ごす人も多い傾向があります。このような社会的環境の差が、フィットネス参加率の日米欧格差に表れていると考えられます。
運動習慣の違いを見ると、欧米では日常的にジョギングやサイクリングを楽しむ人が多く、公園や街中で走ったり自転車通勤・通学をしたりする文化があります。またジムでの筋力トレーニングやスタジオでのグループエクササイズ(エアロビクス、スピンバイク、ズンバなど)も一般的で、個人でトレーナーをつけてトレーニングする人も珍しくありません。米国ではクロスフィットやオレンジセオリーのような高強度インターバルトレーニング(HIIT)系プログラムも人気です。一方日本では、運動習慣がある人でも「歩く」ことを中心とした比較的低強度の運動にとどまる場合が多くなっています。先述の通りウォーキングやラジオ体操が上位を占めるように、まずは無理なくできる軽い運動から始める傾向が強いです (女性が好むのはどんなスポーツ? 年代別20種目ランキング(10〜70代) | 女性ヘルスケア専門のビジネスメディア「ウーマンズラボ」) ただし近年は日本でも若者を中心に筋トレブームが起きており、SNSなどをきっかけに体づくりへの関心が高まっています。その影響で18~19歳では筋トレ実施率がトップになるなど (スポーツライフ・データ 2022 コロナ禍を経験した「スポーツライフ」の現状と今後 前回調査から運動・スポーツ実施率は横ばい、観戦スタイルなどに変化。 IT×スポーツの価値も。 - 調査・研究 - 笹川スポーツ財団) ウェイトトレーニングやプロテイン摂取が日常化する若年層も出てきています。ヨガやピラティスについても、日本では主に20~40代女性に人気がありますが、欧米では男女問わず幅広い年齢層で行われています。総じて、欧米の方が「鍛える」フィットネスが盛んで、日本はどちらかというと「健康維持・リフレッシュ」のための軽運動が中心という違いが見られます。
日本と海外のフィットネス市場トレンドの違い
フィットネス産業の市場動向にも日本と海外で差異があります。欧米市場は既に高い参加率を背景に成熟市場に近づきつつありますが、それでもなお年5~10%前後の成長率で拡大を続けています (欧米のフィットネス市場は成長、日本は遅れるも、成長余地大 | Fitness Business) 例えば世界全体のヘルス&フィットネスクラブ市場規模は2024年の1,247億ドルから2034年には3,020億ドルへと倍以上になるとの予測があり、米国(年率+9.6%)、英国(+10.3%)など先進国でも高い成長が見込まれています。成長の原動力となっているのは、テクノロジーの活用とサービスの多様化です。海外ではウェアラブル端末による運動記録・健康管理や、オンデマンドのオンラインフィットネス(ライブ配信のクラスやトレーニングアプリ)が普及し、新しい体験価値を提供しています。またブティックジム(特定のプログラムに特化した小規模ジム)や高級志向のウェルネス施設など、多様な業態が生まれて競争が活発です。最近の世界的なフィットネストレンドを見ても、「ウェアラブルデバイスの活用」「自重トレーニング」「HIIT(高強度インターバル)」「パーソナルトレーニング」などが毎年上位に挙がっており、欧米発のこうしたトレンドが市場を牽引しています。
日本のフィットネス市場は欧米に比べると成長が遅れ気味ではありますが、裏を返せば大きな成長余地が残されているとも言えます 。前述のように参加率はまだ数%台に過ぎず、市場自体が小さいため今後取り込みうる潜在ユーザー層が厚いのです。国内事業者もこの機会を捉えて様々な戦略を展開しています。代表的なのは低価格・小型ジムの急増で、Anytime Fitness等の24時間ジムや、RIZAPが展開する低価格無人ジム「chocoZAP」などが次々と登場し、市場を活性化させています 。これらは忙しい人でもスキマ時間に通える利便性の高さで利用者を拡大しました。また、女性専用や高齢者向けなど特定ターゲットに特化した施設も増えており、例えば前述のCurvesはシニア女性を取り込み大成功しています。日本固有のトレンドとしては、温浴施設や銭湯とフィットネスを組み合わせたジムや、商業施設内に手軽な運動スペースを設けるなど、「日常の延長線上で運動できる場」を提供する工夫もみられます。総合的に見ると、欧米がテクノロジーや高度なプログラムで新規顧客を開拓しているのに対し、日本はまず参加率向上(市場の裾野拡大)が急務であり、価格や利便性でハードルを下げる施策に力が入っている点がトレンドの違いと言えるでしょう。
もっとも、近年は日本のフィットネス業界もグローバルな潮流を取り入れ始めています。オンラインレッスンやバーチャルフィットネスのサービス提供、最新トレーニング手法の導入(例:機能的トレーニングやバーチャルサイクリングクラス)など、欧米でヒットしたコンテンツが日本でも展開されつつあります。さらにフィットネスを「ウェルネス」(心身の健康増進全般)と捉えてヨガ・瞑想、食事指導、睡眠改善まで包括的に支援する動きも世界的に進んでおり。日本でもこうした総合ヘルスケア志向のサービスが徐々に増えてきました。日本市場は現在参加率5%未満→10%超へという目標が業界内で掲げられており (日本のフィットネス参加率が低い理由は? 対策や課題を詳しく解説) 官民挙げてフィットネス人口拡大に取り組んでいます。「スポーツ庁はフィットネス参加率3%→10%へのプロジェクトを始動」といった報道 (イギリス人のフィットネス人口は日本の5倍!!ダイエットだけじゃ ...) あるほどで、日本のフィットネス市場は今まさに変革期に差し掛かっています。今後、欧米並みに人々が日常的にトレーニングに励む社会が実現すれば、市場規模も大きく飛躍しうるでしょう。そのための鍵は、海外で成功しているような多様で魅力的なフィットネス体験を日本のユーザーにも提供しつつ、日本人の生活習慣に合った形で浸透させていくことだと考えられます。