『アラスカ物語』:星野道夫のイメージを塗り替えた伝説の日本人
山田長政、ジョン万次郎、大黒屋光太夫、河口慧海など、歴史版「こんなところに日本人」とでも言うべき実在した人物を描いた小説はついつい読んでしまいます。
中でもアラスカの大地を駆け巡ったフランク安田の人生譚は星野道夫作品を通して憧れたアラスカの印象が塗り替えられるくらいの衝撃。ちょっとした建国神話と言っても決して誇張ではありません。何と言っても「ジャパニーズ・モーゼ」と言われていたくらいなのですから。
フランク安田は、宮崎県石巻に生まれ、120年以上も前に22歳でアメリカに渡り、消滅の危機に瀕していたイヌイットの村人たちを率いてアラスカの広大な大地を彷徨い、約束の地とでも言えるビーバー村を建設した実在の人物です。
物語はフランク安田が働いていたアメリカの船が、アラスカで寒波に巻き込まれ身動きが取れなくなったところにトラブルが重なり、彼がたった一人で吹雪の中、凍てついた北極海を200キロ離れた海岸まで救難を求めて歩いている場面から始まります。
ここまででも一冊の本となってもおかしくないような経験ですが、フランク安田の人生にとっては、まだまだ序章に過ぎません。その後の話については、ぜひ『アラスカ物語』を読んで欲しいと思いますが、イヌイットの指導者の娘との結婚、食糧不足や病気の蔓延による村存続の危機、村を救うための金鉱探し(発見!)、移住先を巡るインディアンとの対立と交渉、、、ともう現実とは思えないような冒険に次ぐ冒険。そして、彼の人生の根底に流れる哲学の如き強く真っ直ぐな精神に触れるのでした。
いつかこの本を片手に、アラスカを一年通して旅してみたい、と本気で思っているくらい、私の辺境癖には強いものがあります。同じ「アジア移住」や「アジア起業」であっても、すでに経済的には日本を追い抜いたシンガポールや香港ではなく、発展度合いと居心地の良さのバランスが抜群のタイやマレーシアでもなく、現在グングンと成長中のインドネシアやベトナムでもなく、ここミャンマーを選んだという背景には、この当たりの「癖」が関係していそうですね。「ラストフロンティア」という言葉の響きの力は絶大です。笑
さてフランク安田はイヌイットの一つの民族を救いました。放浪と刻苦の末に新しい土地に村を建設し、人々が経済的に自立できるように終生その身を捧げました。振り返って、ミャンマーに住む私はどうでしょうか? 己の存在の小ささを自覚しながらも、志だけは失わないようにしたいと思います。人々が誇りを持って自立できるように、雇用を生み出す、という原点です。その考えをより進め、小さくても、意義のある産業や経済が生まれるお手伝いを微力ながらしていけたら幸せだな、と思ったりしています。