【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
586.メメント・モリ
イーチが憤慨と軽蔑を面に浮かべて言う。
「ふんっ! 大方信仰を失ったのでしょう、情けない事この上ありませんなっ! 神が共にいないと言うだけで逐電するとはっ! なあ、ハミルカル!」
ハミルカルも同じような表情である。
「全くだ! 近しく在らせられない時こそ仰ぎ見て、己の中に輝く尊いお姿に思いを馳せるべきなのにっ! 似非信者めがっ!」
デスティニーが二人の狂信者を無視してコユキと善悪に言った。
「アレじゃね? サタンの正体に気付いた部下たちが離脱したとかじゃね? 前回も今回もオルクスが気が付いたんなら他にもいると思うけど? んで誰かが率いているとかさっ、どう? 思い当たる奴らとか居んじゃね?」
善悪とコユキは首を傾げて考えていたが、僅かな時間で顔を上げたコユキが口にするのであった。
「なるほど、第二軍団のアガリアレプトか第三軍団のルキフゲ・ロフォカレのどちらかでしょうね、それ以外だと――――」
「うん、遊撃隊を率いていたアンドロ・マリウスかストラスでござろうな、一緒に居るのかてんでバラバラか……」
「そうねえ…… アタシ達が後継じゃなくて純粋なルキフェルかそれに近い存在になれれば『存在の絆』で呼び寄せたり出来るんでしょうけ、ど…… っ!」
「ん? どうしたのでござるか? 下痢? ピーピー来ちゃった様な顔でござるよ? 頑張っておトイレね」
急激に黙りこくってわなわなし始めたコユキ。
善悪が言う通り素直にお花摘みに向かえばいいのに、何故か首を左右に振っている。
最早、人間の尊厳とかどうでも良いのだろうか? 終わってるじゃないの、一応未婚の女性なのにね。
そんな風に私が心配しているとコユキは覚悟を決めた顔で言うのであった。
「あれさ、アタシと善悪が当初の予定通りサタンちゃんに吸収されたりすればさ…… 若しかしてだけど、アガリアレプトやルキフゲ、ストラスに連絡できるんじゃないのん? アンドロ・マリウスの居場所は分かっているんだからさ、一気に動ける悪魔が三倍の二万四千になるんじゃん、捗るわよ、除染作業……」
折角周囲の全員がコユキと善悪の存命を認めたと言うのに当の本人が話を蒸し返したのである。
もう一方の当事者善悪も腕を組み目を瞑って考えていたが、やがて小さく何回も頷いた後口にしたのである。
「確かに僕チンとコユキ殿がサタンに吸収されればオリジナルルキフェルに限りなく近づくから可能かもしれないのでござる…… 万が一絆通信が出来なかったとしても、拙者達が世界を救う為に、進んでサタンに力を譲渡した、いいや吸収合体したって噂を聞きつけた誰かがアイツ等に伝えてくれるかもしれないのでござるよ! ねえバアル、魔界の週刊誌って読者の投稿ページとか無いの? 探し人コーナーやお便りコーナーとかあれば、そこで噂を発信すれば良いのでござるよ!」
勢い良く聞かれたバアルは溜息混じりに答える。
「いやあるけどさぁ、それに本気で探すんだったら広告で出すって手もあるんだけどねぇ、ねえ? 麻痺してるんじゃないの? 死ぬんだよ? というか消滅するんだよ? 『待機』じゃなくてアートマンとしては勿論、ブラフマンの一部としても残れない完全な消滅だよ、消滅! 人間なら勿論、妾たち悪魔ですら恐ろしくて恐ろしくて仕方が無い事だよ、それってさ、どう? 妾は怖い、恐ろしいよ?」
「我とても同じだぞ、止めとけって、シューニャ、無なんて…… 他の方法だってあるじゃないか…… コユキや善悪が幾ら主張したとしても、我は…… いや駄目だ駄目っ! そんな話は終りだ、我もう聞かないっ!」
駄々っ子の様になってしまったアスタロトと消滅の恐ろしさを伝えようと一所懸命なバアルに向けてコユキは言った。
「ありがとうね、アスタ、バアルちゃん…… でもさ、考えてみてくれない? アンタ達に今まで聞いてきた話だと、今みたいに生命、魔力が溢れ返った状態ってさ、どれほど多くの悪魔が除染作業に従事したとしてもさ、完全に除去できるまでどれ位掛かるのかな? 数百年? それとも数千年かな? 皆忘れているかもだけどね、アタシと善悪って人間なんだよ? そんなに長く生きてると思う? 思わないでしょ? 違う?」
善悪も続けた。
「そうでそ? んでも今回、サタナキアに吸収合併されれば数万年、いいや数千万年でも皆と一緒に除染を続けられるのでござるよ…… どう皆ぁ…… 未来に某やコユキ殿の力っていらないのでござるか?」
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