『不思議の国のアリス』署名の無い手紙⑤
「署名の無い手紙」第4連です。
第4連
If I or she should chance to be
Involved in this affair,
He trusts to you to set them free,
Exactly as we were.
もし、私か彼女が
偶然この件に関わっていたとしたら
王は、貴女が彼らを解放してくれると頼りにしたでしょう。
私たちが、まさにそうであったように。
第4連の話者は「庭師の中の1人」です。
I→3人の庭師の中の1人
she→料理人
he→ハートの王
you→アリス
them→片目のジャックたち
we→3人の庭師と公爵夫人の赤ん坊
場面特定
3~4行目の「まさに私たちが(彼女に)解放されたときと同じように」という文言から、アリスが3人の庭師を植木鉢の中に隠して庇った場面だと考えます。
(『地下』ではポケットの中に隠します)
すると「I」は3人の庭師のうちの誰か単数。
その庭師が期待しているのは、アリスが誰かを解放すること。
themという複数形から、♤Jの1人だけではなく♡Jも含めた「片目のジャック」の2人。
ジャック解放をアリスに頼ろうとする「he」はハートの王しか無さそうです。
確かに、王はクローケー場でも女王に死刑を宣告された者たちを赦していました。
今回も本心ではジャックを赦したいのかも。
王なんだから、毅然とした態度を取ればいいと思うんですが・・・恐妻家なんですかね?
そういえば、尻尾の詩のcurも「我関せず」という感じでした。
続いて1行目のsheですが。
庭師が「王はアリスを当てにする」と考えたからには、sheもアリスの人助けを知る人物のはず。
アリスの人助けといえば、公爵夫人の家から赤ん坊を連れ出した件が浮かびます。
あの場にいた女性は、公爵夫人と料理人の2人ですが、公爵夫人は赤ん坊を放り投げた側で、救出を目撃したのは料理人の方。
となれば、sheが指すのは料理人。
weが指すのは話者と仲間の庭師と赤ん坊(アリスに救われた人々)でしょう。
ちなみにcookは男女どちらにも使える名詞なので、料理人の性別は法廷の場面でsheが使われるまで「不明」なんですね。
挿絵があるので効果は薄いようですが・・・。
この仮説の難点は、庭師がいつ料理人のことを知ったのかということ。
(料理人の退廷直後に出会った、とか?)
第4連の見立て自体が間違っている可能性も現時点では否定できません。
とにかく、この2人のうちのどちらかが王にアリスの人助けを報告していれば、自分からはジャック解放を言い出せない王もアリスに頼ろうとするはず。
主人公アリスの優しさとか正義感とか権力に屈しない強さだとか、そんな要素を強調したエピソードだと思います。
つい忘れがちになるけれど、ヴィクトリア朝の7歳0ヵ月の女の子なんですよ。この子。
やっぱり、スーパーヒロインなんです。
・・・とまあ、第4連はこんな内容と考えたわけですが、どうでしょうか。