『不思議の国のアリス』署名の無い手紙⑥
「署名の無い手紙」第5連です。
第5連
My notion was that you had been
(Before she had this fit)
An obstacle that came between
Him, and ourselves, and it.
私が考えたのは、貴女が
坊やと、私たちと、猫との間に現れた
邪魔な人だったということです。
(公爵夫人が癇癪を起こすまでは)
第5連の話者は料理人です。
my→料理人
you→アリス
she→公爵夫人
him→赤ん坊
ourselves→料理人と公爵夫人
it→チェシャ猫
場面特定
4行目の「him, and ourselves, and it」からこの場面には男性が1人と、女性が複数と、中性扱いの存在が1体いると分かります。
公爵夫人の家の中ですね。
第4連でも触れた通り、料理人の性別は法廷で再登場したときのsheで女性と判明。
また、英語では普通幼児をitで受けますが、子守唄の歌詞にboyがあるので男性扱い。
残るitがチェシャ猫でしょう。
2人いる女性のうち、癇癪を起こさない方、すなわち料理人が話者となります。
癇癪の前後
これも第4連の話の続きなのですが、料理人は「公爵夫人が癇癪を起こすまでは」アリスを邪魔者と感じていたと証言しています。
逆にいえば「癇癪の後には」アリスの印象が変わった、ということでしょう。
公爵夫人が放り投げた赤ん坊を助けたアリスの姿が好ましく映ったのですね。
Alice's Evidenceが「アリスによる証言」であると同時に「アリスについての証言」でもあるというのは既に述べました。
庭師と料理人、アリスに助けられたりアリスの人助けの現場を目撃したりした2人の評価は、先の3人とは一味違う気がします。
余談。
辞書によるとhave a fit(かんかんに怒る)は口語のthrow a fitと同義なんだそうです。
公爵夫人が赤ん坊を「放り投げる」場面にはこんな言葉遊びも関係していたんですね。