『鏡の国のアリス』のチェス問題⑨(詩との関連5)
白の騎士の詩とチェス手順との関連です。
この詩も8行×8連+19行×1連+挿絵1枚→84で42や21の倍数になっていますね。
対応関係を見ていきましょう。
第1連=1~3手目
1・3・4行目→赤のクイーン、白のナイト、白のポーン登場
7・8行目のthrough→巻頭の問題図に添えられたチェス手順の2.Alice Through Q's 3d。→3.○d4
第2連=4~7手目
1行目butterflies、2行目wheat→4.Qc4(白の女王登場)
3行目mutton-pies→5.○Qc5(女王が羊に)
4行目sell→6.○d5(羊の店)
5行目I sell them unto men(品物は自分で)
6行目sail on stormy seas→7.○Qf8
第3連=8手目
7行目tell me how you live→Ways and Means(HD、詩を解釈)
8行目thumped him on the head→8.●Ng6
第4連=9~10手目
2行目I go my ways→9.○Qc8
4行目I set it in a blaze→10.●Ne7+
(目から火を吹くジャバウォック)
第5連&挿絵=11手目前半(11.○N×e7+)
f5にいる白のナイトは、f6にいる赤のキングを跳び越えてf5→f6→f7→e7というL字型の軌道で動き、赤のナイトを取ります。
挿絵では、e7のマスに相当する空間が画面の外側(左)になるので、本来ここにいるはずの赤の騎士が見えなくなるように計算されています。
第6連=11手目後半~12手目
白の騎士がアリスと話す場面。第6連のタラの目を捜して生計を立てる話が、白の騎士の台詞の中のWays and Meansと重なります。
第7連=12~16手目
4行目のwheels of Handsam-cabsが、白のナイトが円軌道を描く趣向手順を表します。
第8連=17~18手目
1行目I heard him~→17.○Kd6+(アリスがスズメバチの話を聞く)
3行目keep the Menai bridge→18.○Rf2+
第9連前半(1~8行目)=19~21手目
「糊の中に指を入れる」とか「右足と左足を左足用の靴に突っ込む」とか「足の指の上に大きな重りを落とす」とか。
そりゃ動けなくなりますよね。
もちろんステイルメイトを表現しています。
ここまでで、チェス手順との対応は完了。
第9連後半(9~19行目)は、チェス駒たちを紹介するカーテンコールになっています。
7つの関係代名詞が別々の対象を指すことで8個の駒を表現しているのです。
Whose look was mild,
「象蜜蜂と巨大な花」の場面の本文より。
①nobody ever saw bees a mile off,
(1マイル先の蜂を見た人なんていない)
②like cottages with the roofs taken off,
(屋根を取り去ったコテージのような)
①②からroofs, mile→look, mild
→白のルーク
whose speech was slow,
赤の女王の話はくどい。
→赤のクイーン
Whose hair was whiter than the snow,
灰まみれになった白の王の髪は真っ白に。
→白のキング
Whose face was very like a crow,
With eyes, like cinders, all agrow,
物語本編ではTweedledumがcrowと勘違いし、Jabberwockyの詩では目から火を吹くドラゴンのような怪物として表されたのは
→赤のナイト
Who seemed distracted with his woe,
強い悲しみに心を乱している「女王」は
→白のクイーン
Who rocked his body to and fro,
And muttered mumblingly and low,
As if his mouth were full of dough,
前後に身体を揺するような動きをする駒で、
練り粉を口に詰めたようにモゴモゴ呟く人は
→白のナイト
Who snorted like a buffaloー
野獣のような大きないびきをかいていたのは
→赤のキング
That summer evening long ago,
A-sitting on a gate.
一方の意味ではAged Aged manのAですが、
もう一方の意味ではAliceのAです。
→白のポーン
ちなみに手漕ぎ式のボート(rowing boat)にはgateという部位がありますが、座る場所としては少し微妙な感じかも。
やはりgateは「水門」なんでしょうか。
A-sitting on a gateは「ボートに座っていたアリス」であって欲しい気もしますが。
また、白の騎士の台詞でも、4つのtheが別々の対象を指しており、関係代名詞のパズルのヒントにもなっています。
①The name of the song is called 'Haddocks' eyes.'
②The name really is 'The Aged Aged Man.'
③The song is called 'Ways and Means'
④The song really is 'A-sitting On A Gate'
①白の騎士の詩のタイトルは「タラの目」
② Aという人の本名は'The Aged Aged Man'
③Jabberwocky第1連(第7連)のパズルの答の詩のタイトルは'Ways and Means'
④詩の真意は「gateに座っていたアリス」
今回の関係代名詞や定冠詞のパズルと同様に『不思議の国』の「署名の無い手紙」では、人称代名詞が別々の対象を指しています。
・・・いずれその時に。