『鏡の国のアリス』フィドルディディーの謎
第9章の女王たちの試験の場面で、赤の女王が「fiddle-de-deeをフランス語で言うと?」と問います。
fiddle-de-deeで始まるマザーグースがハエとハチが結婚する話なので「結婚」を暗示しているのだろうという程度に考えていたのですが、もっと深い仕掛けがありました。
(今回の関連記事として、「マザーグースの忘れられた謎々⑨」も参照して下さい)
詩文
まず、fiddle--de-deeで始まるマザーグースの5連バージョンを示します。
Fiddle-de-dee, fiddle-de-dee,
The fly has married the bumble bee.
この2行の繰り返し部分が各連の前後に挿入されます。(回数はまちまち)
①Says the fly, says he,
②"Will you marry me,
③And live with me,
④Sweet bumble bee?"
⑤Says the bee, says she,
⑥"I'll live under your wing,
⑦And you'll never know
⑧That I carry a sting."
⑨So when Joyce and Beetle
⑩Had joined the pair,
⑪They both went out
⑫To take the air,
⑬And the flies did buzz,
⑭And the bells did ringー
⑮Did ever you hear
⑯So merry a thing?
⑰And then to think
⑱That of all the flies
⑲The humble bee
⑳Should carry the prize.
(複数のウェブサイトを基に作成)
物語との対応
『鏡の国のアリス』の第3章、アリスが列車に乗り込んでから名無しの森に入るまで。
fiddle-de-deeの詩を逆に読むと、「第5連→第2・第3・第4連→第1連」の順で詩の文言と物語の内容が対応していると分かります。
第5連
⑳prize・・・1000ポンドの価値
⑳carry・・・carriageまたは「郵便で送れ」
⑰think・・・コーラスで考える
↓
第2・第3・第4連(注1)
⑭ring・・・汽笛
⑬buzz・・・エンジン音
⑫take the air・・・列車が跳び上がる
⑩joined the pair・・・アリスとgnatが残る
⑩joined the pair→in paper
・・・白い紙の服を着た紳士
⑨Beetle・・・カブトムシ(注2)
⑦⑧you'll never know that I carry a sting
・・・「刺す虫かどうか知りたい」(注2)
⑥live under your wing・・・Gnatが上からアリスを羽であおぐ
↓
第1連
③live・・・"What did it live on?"の質問3回
(注1)第2・第3・第4連はまとめて考えます
(注2)この場所にいるのはアリス、Gnat、カブトムシ、紳士、Goat。Goatはアリスに髭をつかまれてoの下部分が取れてnになり、Gnatになります(それまでGnatは声だけ)
(注2)gnatはイギリス英語では「蚊」、アメリカ英語では「ブヨ」です。
アリスはGnatが刺す虫かどうか知りたがったのですが、ハチやサソリが「刺す」ときはsting、蚊が「刺す」ときはbiteを使うのでGnatは「stingする虫」ではなかったというわけ。
回答
詩を逆方向に読んでいくと、最終的に①②のSays the fly, says he,
"Will you marry me,
に至ります。
flyは狭義ではハエ、広義では飛ぶ虫全般。
Gnatは蚊ですから、flyの一種ですね。
flyに羽であおがれるアリスはbumble bee。
物語のこのあたりはチェス手順では3.○d4に相当しますから、白のポーン(=アリス)の隣にいるのはe4の赤のキング。
Gnat、Fawn、眠る老いた男は、すべて赤のキングで、キャロルの分身と考えられます。
名無しの森の場面が、詩の①②に相当すると考えると・・・
Fawnはfawn→deer→dearですかね。
Gnatの小声の台詞にこんなのもありました。
"I know you are a friend, a dear friend, and an old friend. And you won't hurt me, though I am an insect."