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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その76「ぶら下がる」

お兄ちゃんが鉄棒にぶら下がっている。そこから勢いをつけて、腕の力だけで鉄棒の上に起き上がった。

「すごーい!」
「だろ? 練習の賜物だよ」

お兄ちゃんはクルンと一回転すると、鉄棒から手を離して降りた。

「私も! 私もしたい!」
「クルミにはまだ無理だよ。もう少し大きくなって、もっと練習しないと」

悔しさで頬を膨らます。お兄ちゃんは楽しそうにははっと笑った。

「じゃあ、練習すれば、お兄ちゃんみたいになれる?」
「そうだな、きっとなれるよ。お兄ちゃんも待っているからな」

あれから10年が経ち、16歳になった私は女子体操選手になっていた。
お兄ちゃんも男子の体操選手として活躍し、巷では「体操兄妹」として話題になっている。
私が体操に興味を持ったもの、もっと上手くなりたいと思えたのも、お兄ちゃんのおかげだ。今でもその背中を追い続けている。

「次! オギノクルミさん、どうぞ」
「はい!」

右手をスッと上げながら返事をして、まばゆい照明が当たる体操の舞台へと足を進めた。

2025年1月20日 pixiv創作アイディアより

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