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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その69「ほうき」

「……よし」
ビルの一室。その入り口前で気合いを入れる。今日から俺はここで働く。どうか、前みたいなブラックじゃありませんように。そう念じながらドアを開けた。
「お、おはようございま……す」
初日は始業時間の30分前に来てほしいとのことだったから、きっちり30分前に来たのだけれど。
誰も、いない?
「おはよう!」
背後から挨拶され、体が跳ねる。振り向くと、会社の社長がほうきを持って立っていた。
「おはようございます! あの俺、遅刻しましたか?」
「いやいや。まだ始業前だよ。ちょうど皆、掃除に出ているからね」
「掃除?」
「あぁ。ま、とりあえず詳しいことは後だ。ハナダ君もこれで、そうだな……とりあえず非常階段を掃除してもらおう」
社長が持っていたほうきが、俺の手に渡る。ほうきなんて、何年ぶりに持っただろう。
「わかりました」
「あ、荷物は俺が預かるよ」
社長に自分の荷物を渡し、俺はほうきを持ってビルの非常階段へ向かう。
「……スーツ姿にほうきって、微妙な組み合わせだよな」
誰にも見られなくて良かったと、内心ほっとしながらほうきで埃を掃いていった。

数分後、綺麗なお姉さんに微妙な組み合わせの姿を見られるとは思わず。

2025年1月13日 pixiv創作アイディアより

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