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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その72「フカン」

「うわ、デカ……」
「背、たっか」
すれ違う人の囁く声が、自然と耳に入る。
たしかに俺は、背が高い。195センチある。
学生時代はバレーボール部やバスケット部に引っ張りだこだったが、社会人になると背が高いのは不都合でしかない。
会社のお偉いさんや取引先の役員さんといった、地位が上の人でも自然と見下ろす形になって気まずいし、飲み屋では体が大きいせいで窮屈に感じてしまう。
『もう少し、小さく育ちたかった』
最近はそう思うことが多くなっていた。
「わっぷ」
背中に軽い衝撃が走る。どうやら子どもがぶつかったらしい。よくあることだった。
「大丈夫?」
振り返りながら声をかける。
「すみません、ありがとうございます」
そこにいたのは子どもではなく、スーツを着た小柄な女性だった。身長は150センチ台だろうか。
「あ、その、大丈夫でしたか?」
女性に問われるも、その意味を汲みかねる。
「えっと、俺はガタイが良いので」
「いえ。世の中には女性恐怖症という方もいるので、私なんかがぶつかって大丈夫かなと思いまして」
彼女の上目づかいをフカンで見た時、俺の心に矢が刺さった。
「……あの、連絡先交換しませんか?」
意図しない言葉が口から出る。はっとするも、彼女は不思議そうに笑いながら「いいですよ」と応じてくれた。

2025年1月16日 pixiv創作アイディアより

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