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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その47「ヴァンパイア」

そのヴァンパイアは、ゆうに500年を生きているらしい。月が赤くなると、周辺の町や村に住む人々を無作為に遅い、血を飲む。いつしか畏怖を込めて「赤き夕月」と呼ばれるようになった。

そんな恐ろしいヴァンパイアを、齢25の私が祓えるのかな……?

「へぇ。まさか人間の方から、僕の家に来てくれるなんてね」
夕方、ヴァンパイアの家に入ろうとした時、背後から声がした。思わず振り返ると、そこには農作業着姿の青年が立っていた。
「……え。あなたが『赤き夕月』?」
「そうだけど。何か問題でも?」
「いや。ヴァンパイアって言ったら、マントを翻して、目つきが鋭くて、こう、いかにもって感じじゃ」
「悪かったね『いかにも』じゃなくて。普段は畑仕事をしているんだよ。とりあえず入ったら?」
「じゃあ、お邪魔します」

なんだか調子が狂う。もっと悪者を想像していたのだけど。でも油断しちゃいけない。

「で、君は僕を祓いにでも来たの?」
「そ、そうよ! これ以上、人に危害を加えさせないために」
「あー、やっぱり。これ、歴代の祓い師にも言ってんだけど、僕が襲っているのは犯罪者だけなんだよね」
「……え」
「犯罪者の血って、ドロッとしていてコクがあって美味しいんだよ。だから」
「普通は若い女性の血じゃ?」
「それはおじいちゃん世代のヴァンパイアの常識だね。少なくとも今は、犯罪者の血が人気なんだよ」

手際よく農具を片付ける目の前の青年に、一気に力が抜けてしまった。

2024年12月22日 pixiv創作アイディアより

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