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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その85「振り向き」

幼なじみのタツキと、田んぼの畦道を通る。整備された大通りをグルッと通るより、ここを通った方がたしかに駅には近い。だがすでに夕闇が迫り、視界は暗くなっている。

「おいタツー、そんなに急ぐなよ」
「でも、あと15分で電車が行っちまうだろ。なら急がないと」

先を行くタツキや俺の足元は不安定だ。冬だから雑草はほぼ無いが、一歩踏み出すごとにグニュッという土が崩れる感覚が足裏に伝わる。
足元を見ていた視線を前に移した瞬間、タツキの体がぐらりと傾く。

「タツキ!」

体を支えようと前に出るが、タツキはどうにかバランスをとり体勢を保った。

「あぶねぇな。だから言ったのに」

タツキが振り向き、笑顔でピースサインをする。

「へへ、俺の運動神経が良いのはアイトも知っているだろ?」

不覚にも、その仕草が、その表情が、可愛いと思ってしまった。

『くそっ。どうしてこんな感情に』

タツキはすぐに前を向くと「急ぐぞー」と先へ行ってしまう。夕闇はさらに濃くなり、俺の心の不安定さを表しているようだった。

2025年1月29日 pixiv創作アイディアより

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