ほぼ毎日ほぼ500字短編:その63「流し目」
その人は麗しい人だった。
目鼻立ちがはっきりとしていて、唇は整っている。
手入れされているであろう長い髪は、仕事の邪魔にならないよう後ろで1つに縛られている。
すらっとした背丈と、痩せすぎない体。
お客に向ける笑顔は、まるで花が咲いたようだった。
彼女に見惚れてから、用もないのに毎日デパートの化粧品売り場に通っている。おそらく、傍から見れば異常な客だと思われているだろう。
不意に、彼女と目が合う。黒目の大きな瞳に吸い込まれそうになる。
彼女は俺に流し目をして、少しだけ微笑んでくれた。
馬鹿にされたのか、挑戦的なのか。どちらとも取れる表情だった。
1月だというのに、顔が異常に熱くなる。
俺はまた声をかけることもできずに、デパートを後にする。
「……高嶺の花だよなぁ」
空を見ながら呟く。コートをしっかり着込んで、家路についた。
そんな麗しい彼女と付き合い始めるのは、約1ヵ月が経った頃。
さらにその1年後には彼女と結婚するなんて、今の俺は思いもしなかった。
2025年1月7日 pixiv創作アイディアより