ほぼ毎日ほぼ500字短編:その6「手」
私の手は小さい。
普通の女性と比べても、一回り小さい。
手が小さいと、何かと不便だ。
ピアノの鍵盤には指が届かない。
キーボードのブラインドタッチでは、手の可動範囲を広げなければならない。
仕事で書類の束を持つときも、手を思いきり広げないと多く掴めない。
なにより私自身が、手が小さいことにコンプレックスを抱いていた。
「……サマさんの手って、小さいっすよね」
仕事のお昼休憩時、急に後輩のセト君が話しかけてきた。隣でコンビニの焼きそばパンを頬張っている最中なのに。
「よく言われるのよ。でも小さいの、嫌なのよね」
食べ終わったお弁当を置き、右手を見つめる。
「そんなことないっすよ! 小さい手って、かわいいじゃないですか」
不意に、セト君の左手が私の右手に重なる。
「ほら! かわいいっすよね!」
セト君が無邪気な笑顔を見せる。
自分の手を初めて褒められたことに、セト君の笑顔も重なり、年甲斐もなく顔が熱くなった。
「あれ? サマさん、顔赤いっすよ。もしかして照れてる?」
茶化してきた。
「……だとしたら、どうするのよ」
なぜかセト君の頬も赤くなった。
2024年11月10日 pixiv創作アイディアより
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