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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その84「コーヒー」

「あれ、コーヒー買わないの?」

インスタントコーヒーの袋に伸ばした手を引っ込める。その様子を、買い忘れたみりんを持ってきたハヤトに見られてしまった。

「うん、高いから」
「え、でもサヨミ『毎朝のコーヒーが至福』って言っていたのに」

ハヤトがみりんを籠に入れながら心配そうな顔をする。

「いろいろ値上げだからさ。私も節約しようかなーなんて」

心にもないことを言う。本当はインスタントでもいいからコーヒーは毎朝飲みたいのに。
それを我慢させるほど、昨今の値上げラッシュは痛いものなのだ。

「うーん、それじゃ」

ハヤトがそう言い、私が手を伸ばしたインスタントコーヒーを手に取り、籠に入れた。

「え!? ちょっとハヤト」
「サヨミのためじゃないよー。俺が飲みたいんだよー」

ハヤト、本当はコーヒーが嫌いなはずなのに――。
下手なごまかし方に、思わず吹き出す。

「わかったよ、ありがとハヤト」
「……へへ、どういたしまして。俺だって牛乳で割れば、コーヒーは飲めるんだよ」
「そうなの? 知らなかった」

2人で談笑しながら、次の食品コーナーへ足を進めた。

2025年1月28日 pixiv創作アイディアより

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