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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その96「ビビットカラー」
見上げなければ、これまでと同じ毎日が繰り返されていたかもしれない。
でもその日の通勤電車で、俺は電車の中吊り広告を見た。
いつもはスマホをずっと触っているのに。
何の気なしだった。
電車内のアナウンス「一旦、すべてのドアが開きますのでご注意ください」がきっかけだったかもしれない。
目に留まったのは、ビビットカラーが眩しい、専門学校の入学案内。
蛍光色のピンク・グリーン・イエロー。
ただ、それらの色は互いに反することなく、入学案内の内容を一際目立たせる配色になっている。
広告を見続けるうち、心臓の鼓動が速くなっていく。
俺も、こんな広告が作りたかった。
こんな、印象的な配色を使いたかった。
ダメだ、と思い直す。
俺には仕事がある。
でも今の仕事を思い起こすと、灰色の日々が待っていることは明らかだった。
踏み出そう。
小さくてもいい。
一歩を――。
「――これが、私がデザインの世界に入り直したきっかけですね」
「なるほどー、電車の中吊り広告がきっかけとは。人生、どうなるか本当にわかりませんね」
「はは、本当ですね」
「では次は――」
世界的デザイナーとしてインタビューを受ける。多くの仕事を請け負ってきたが、私の原点は、いつだってあの広告だった。
2025年2月9日 pixiv創作アイディアより