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ほぼ毎日ほぼ500字短編:その22「コート」

「――でさ、ミヤったら最後は教授のカツラ持ったまま『ありがとうございました!』なんて言っちゃったんだよ」
「はは! ミヤらしいっちゃらしいけど、教授は怒ってただろ?」
「それが、意外と朗らかだったんだよね。『柳君、後で教授室に来なさい』とは言われてたけど」
「うわー……。激おこコースだな」
「やっぱりそうおも……へくちっ」

くしゃみが出てしまった。

「大丈夫か?」
「うん。まさか寒くなるなんて思わなかったから、上着、置いてきちゃったんだよね」

鼻水をすすりながら答える。

「昼間は気温上がらなかったからなぁ。風邪ひいたか?」
「まさか! 元気だし」
「過信するなよ。ちょっと待ってな」

そう言うと、ヒロキは自分のダウンコートを脱ぎ始める。

「えっ。ちょっと」
「ほら、今だけ貸すよ」

ヒロキのダウンコートが自分に掛けられる。

「温かいだろ?」
「……うん」

ダウンコートの温かさだけではない、ヒロキの温もりも同時に感じられ、柄にもなく照れてしまった。

「おい、顔赤いぞ。本当に風邪ひいたか?」
「ち、ちが! これは、違うから大丈夫!」
「そうか? ならいい……ぶくしゅ!」

今度はヒロキが盛大なくしゃみをした。

「格好つけるから! ほら、半分入りなよ」
「いいんだよ俺は。ミユキが温かければ」

そう言ったヒロキの頬が、少しだけ赤かった。

2024年11月27日 pixiv創作アイディアより

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