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もっと強く 茨木のり子

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは明石の鯛がたべたいと
もっと強く願っていいのだ
わたしたちは幾種類ものジャムが
いつも食卓にあるようにと
もっと強く願っていいのだ
わたしたちは朝日の射すあかるい台所が
ほしいと
すりきれた靴はあっさりとすて
キュッと鳴る新しい靴の感触を
もっとしばしば味わいたいと
秋 旅に出たひとがあれば
ウィンクで送ってやればいいのだ
なぜだろう 萎縮することが生活なのだと
おもいこんでしまった村と町
家々のひさしは上目づかいのまぶた
おーい 小さな時計屋さん
猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ
今年もついに土用の鰻と会わなかったと
おーい 小さな釣道具屋さん
あなたは叫んでいいのだ
俺はまだ伊勢の海もみていないと
女がほしければ奪うのもいいのだ
男がほしければ奪うのもいいのだ
ああ わたしたちが
もっともっと貪婪にならないかぎり
なにごとも始まりはしないのだ。

茨木のり子『対話』1955年

「明石の鯛がたべたいと」で、にやり。

今蒸篭がほしい。
それで蒸し野菜を作ってもりもり食べたい。

2024/05/05
古本 天栖土食虫

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