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掌編小説)魔王

魔王『「よく来た勇者よ。わしが王の中の王、◯王だ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れる事を…。
もし、わしの味方になれば世界の半分を其方に与えよう。どうじゃ?悪い条件ではあるまい?』

勇者『う〜ん。悪くはないんですけど、その場合にいくつか質問があります。
まず、世界の半分という事に関してなんですが、どのように明確に半分にされますか?
文字通りに、この星の半分の所に、境界線を設置してここから右は魔王の統治下、左は私の統治下という形をとりますか?
その場合は、双方で揉め事なりビジネス的な取り引きが発生した場合には、どうされますか?
揉め事が起こった場合は、戦争という事態を引き起こし兼ねないと思うのですが、その様な事態になった場合には、魔王自らがその場に出て場を収めてくれるのでしょうか?
また、ビジネス的な取り引きなどが発生する場合は、税金などのシステム構築が必須となりますし、取り引きが発生すれば貧富の差などによる問題も起こりうる訳で、その辺りはどうお考えなのでしょうか?』


魔王『その辺はおいおい考えていくとして、どうじゃわしの味方に…』

勇者『いやいや、おいおいって…。
世界征服後の明確なプランニングもままならぬままに、半分をやるからどうだ?って言われても、そんな絵に書いた餅みたいな話を気軽に承諾出来る訳ないでしょう。
貴方、よくそれで組織のトップが務まってますねぇ。どうせあれでしょ。自分の周りにはYESマンしか置かずに、面倒な事は部下に丸投げで、今迄やってきたんでしょ。
そんな事だから、相当数の頭数がいるにも関わらず、我々3人足らずに、自らの眼前にまで迫られてしまう脆弱な組織になってしまうんですよ…。』

魔王『…。』

勇者『はい。黙ったぁ。どうせこの後は、己、生意気なぁ。とかなんとか言って暴力に訴えてくるんですよねぇ。ただ、それをする前に一度考えてみて下さい。お決まりのパターンで我々を倒したとして、その後はどうするんですか?
好敵手が居なくなって、勧善懲悪の分かりやすい構図が消えた後は、結局、貴方が1人で世界を統治していかないといけないわけですよ。
そんな事がしたいんですか?違いますよね。
多分、取り敢えず自分が1番だって事を世に知らしめたかったんじゃないですか?
承認欲求を満たしたかっただけですよね。
そうならば、それはもう叶ったじゃないですか?
この上で、まだ私と戦って白黒をはっきりさせたいですか?もし、負けてしまったら貴方は全てを失う事になるんですよ。
それってリスクの割に得られるリターンがあまりに少なくないですか?
えっ?自分はいいんですよ。戦わなくても。
あなた方が来る前の暮らしに世の中を戻せたら、勝ち負けなんてものは…。
偉そうに貴方に言いましたけど、我々の世界も仮に魔王が居ないとしても、誰もが幸せで平和な世の中って訳でもないんですよ。
イザコザが尽きる事はないし、大なり小なりの問題は目白押しで、問題があるとわかっていても色んなしがらみなんかもあって、なかなか解決出来ないでいるし…。
寧ろあなた方が来た後の方が、人類は皆仲間で一致団結してって感じで纏まっているんで、前までよりもよっぽど健全な感じで…。
こんな事を貴方に言っても仕方がないんですけど…。』

魔王『うーむ。そう言う事を聞くと改めて自分のやっている事の意義だとか、目標だとかが曖昧になって、ちょっとどうしたらいいものかと考えさせられる…。勇者よ。どうしたらいいと思う?』

勇者『そうですねぇ。自分には、こうしたらいいって明確なアドバイスを貴方に送る事が出来ないんですけど…一度、見聞を広げる為にも身分を隠して旅をされてみたら如何ですか?
そうすれば、様々な出会いや経験が自身を知るきっかけになって答えが出るかもしれませんよ』

魔王『なる程。そうかもしれんな。それならお前の言う通りに旅に出てみよう…』

♫たたたったったたーん♪
♫たらたら、たらたらーん♪
こうして、魔王は自分探しの旅に出かけるのであった。〇〇〇〇クエスト、魔王の旅立ち。
近日公開…しない。

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