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踏切は一方的に閉じられて去っていくのを待たされていた 鈍感なまま新宿を歩きたい絵画を模したセーターを着て 練習してきたような会話になってきて澄んだ瞳の奥はさざなみ 戦えば花占いが勝ち残る こころに負ける部位はないから ひとりの夜は隙間がおおく見つかってさみしいシャイン・マスカット・パフェ /伏見幸慈
忘れたいことを数える まだ生きていたい理由が数えられていく 僕の名を忘れた祖母が僕の名を抱きかかえている春の陽だまり 入院をしたら見舞いに来てくれるだろう友らの序列をつくる 五巡目のジェンガ静かに抜くような愛の伝え方で精いっぱい 前提として君の持つ正義には僕とは違うきらめきがある っぽいと言われたことのある服でなるべく遠い海に飛び込む 剥がせないガムのようだとプライドを定義してから履き替えた靴 蓋付きのごみ箱を買う 見たくないものはごみって決めてしまった 週末
旬があることの残酷 春雨で落ちた花片を避けるひとびと 今月になって一度も見ていない同じ号車にいたサラリーマン 雑草という草はないみんなっていう人はいる ひとりぼっちだ 裏表ないコイントス介入のできない意志が埋め尽くす街 「悪い人じゃないんだけど」と目の粗いやすりで撫でるような先輩 浴槽を繭に見立てて泣くことの権利きみにもわたしにもあり 本当のことを話す気のない人が主催の自己紹介のくるしさ やり込んだパズルゲームを消去して初夏に真顔を覗かれていた 火曜日に観るレ
掲示物すべて取られた教室は春の空気を蓄えだした 伸びすぎた枝が切られた通学路むかしはもっと冒険だった もこもこのダウンを着ない選択が次の季節を引き連れてくる 言い訳のように春だしねって言う 春なら仕方ないねと笑う あたたかくなった町では全員がスキップするのを我慢している きみだけが川面を見てるきらきらと揺れる車窓を独り占めして 終劇のあとの何より雄弁な沈黙みたいに話していたい はなむけの言葉がぜんぶ嘘っぽい 嘘っぽいってことはほんとだ 明日から来ない主任に渡さ
自由ってほんとうに気持ちいいものか聞く人がたまに夢に出てくる これも損、これも損って決めつけて何度も流れ星を見逃した 利己的という感情のない町で手前から取られていく牛乳 さみしさは色の濃い水 湖にくろい同心円がひろがる 全身を峰打ちみたいに叩かれて情けばかりのひかりを進む このくらい(私一人が泣かないでいれば)全然大丈夫です 重力に指を沿わせてエリンギを裂く 言えなかったことを数えて 夢でだけ心の底から笑えるという人を抱きしめて眠りたい 〈同じ夢 もう一度見る
どの人も冬になにかを期待して息が白くて泣いたりもする 持っているマッチすべてが濡れていて闇は意外とあかるいと知る ひび割れたグラスに水は溜まらない 素晴らしいってときどき呪い 心にも少しいびつな場所があり金平糖のとげを舐め取る どちらかのコードを切れば本当にきみは爆発しないのですか こうやって冬を味方にしていくの、ってきみが何度もはく白い息 久しぶりだねって言わずこないだの積乱雲の話をしよう 船を出す つまりここから先にある波止場すべてが私の味方 最後にはちっ
短歌を投稿するようになり、いくつか採用していただけるようになったので自分の備忘録的にまとめておこうと思います(随時更新)。 1.新聞歌壇ちょうどいい綺麗さだから盗まれるビニール傘も人の心も 読売歌壇 俵万智選 2021/3/1 深夜二時、律儀に赤信号を待つ Hey Siri, 生まれた意味を教えて 読売歌壇 俵万智選 2021/4/13 失恋のエンドロールに「この恋はフィクションです」と書いて強がる 読売歌壇 俵万智選 2021/5/3 ああこれはきみが最後に辿り着く