ある「小さな組織」で起きたハラスメント騒動-(3)加害上司が「サイコパスの特徴」を兼ね備えていた件について
(1)この記事の目的
① キッカケは、加害上司による仲間への陰口
これは、東京の、とある環境NPO(A社)で起きた「実話」です。
2021年6月末、同僚の女性スタッフ(Oさん)から、セクハラ被害の相談を受けました。加害者はA社の現場リーダー(事務局長)であるI氏でした。
それからまもなく、OさんはI氏から追い出されるように退職したのですが、そこからI氏による私への(報復の)パワハラが始まりました。無視や仕事を回さないといった陰湿なものばかりでしたが、そこには、私に関する(根も葉もない)陰口が含まれていました。
その陰口の1つが「〇〇(筆者)はサイコパスだ」というものでした。その場に居合わせた同僚からこの話を聞いたとき、私はI氏に対して強い憤りを覚えながら、「サイコパスってどんな意味だっけ?」と興味を抱きました。
「サイコパス」に関するいくつかの書籍に当たった結果、私のことを「サイコパス」と呼んだ当の本人(I氏)こそが、「サイコパス」の特徴を見事に兼ね備えた人(サイコパシー傾向の高い人)だったのです。
② あなたの理解が及ばない加害者は「サイコパス」かも!?
Oさんに対するセクハラ、私に対するパワハラ以外に、I氏は別の女性スタッフ(Hさん)に対しても、数年間にわたってセクハラ行為していました。
こうした直接的なハラスメントの内容だけであれば、(悲しいことに)珍しい事例ではないと思います。ですが、私や関係者が驚いたのは、被害者や周囲に対する、I氏の理解不能な言動の数々でした。
例えば次のような言動です。
堂々とした態度で、バレバレの嘘をつく
その嘘を暴かれても平然としている(逆ギレ・逆恨みに発展する)
(自分の加害行動による)相手の苦しみや悲しみに、理解を示さない
(明らかに加害者なのに)「自分こそが被害者である」と主張する
I氏によるこうした言動によって、被害者や、ハラスメントの事実確認にあたった関係者は振り回され、困惑しました。
当初は私も同じ状態でした。
I氏が上記のような応対をするたびに、「どのような目的・理由があって、この人はこんなことをするのだろう?」と、(怒りや困惑を覚えながらも)I氏の言動の「意図」を読み解こうと努めていました。ですが、全く「理解」できませんでした。
それもそのはず。I氏だけが「異なる行動原理」によって動いていたので、理解できないのも当然だったのです。
あなたの周りにも、あなたの理解がまったく及ばないような言動を取る方がいるかもしれません。そして、その方は「サイコパス」かもしれません。
③ サイコパスを「知る」ことで、「見える」こともある(★この記事の目的☆)
私が巻き込まれたハラスメント騒動の加害者は、サイコパスの特徴を兼ね備えた人(サイコパシー傾向の高い人)でした。この記事は、その実話に基づいて書いています。
私は脳科学者でも精神医学の専門家でもありませんので、「サイコパス全般」についてわかったような解説はできません(注:最後に参考書籍を紹介しています。興味のある方はそちらをお読みください)。あくまでも、サンプル数「1」のお話です。
また、「非サイコパス」の全員が「善人」ではないように、全ての「サイコパス」が「悪人や犯罪者予備軍」というわけではありません。この記事も、「サイコパス」=「悪者」と決めつけるような、そんな差別を助長する目的では書いていません。
精神科医・名越康文先生によると、その人が「サイコパス」かどうかは、少し会話したくらいではわからないそうです。「きちんと調べるのなら最低1年以上、できれば数年は必要(*1)」なのだとか。ですので、「自分が理解できない」相手だからといって、滅多矢鱈とその人を「サイコパス」と決めつけることは、極めて危険な行為といえます。
ですが、今この瞬間も、「自分の理解が及ばない言動を取る相手」に苦しめられている方は、現実として大勢いるはずです。
そして、自分を苦しめる相手が「サイコパス」である場合、「非サイコパス」であるあなたが、「自分と同じ」価値観や判断基準によってその相手を理解することは、(ほとんど)不可能だと思います。「サイコパス」から受ける理不尽な被害を避けるためには、「サイコパス」の行動特性や、その行動の背景を知る必要があるのです。
私の場合、たまたま「サイコパス」という言葉に興味を持って調べたら、私のことを「サイコパス」呼ばわりした相手が、「サイコパスの特徴を兼ね備えた人(サイコパシー傾向の高い人)だった」、というオチでした。
書籍などを通して「サイコパス」という存在やその特徴を体系的に知るまでは、加害者であるI氏の言動は、私には全く理解が及ばないものでした。ですが、「サイコパスの特徴」という「知識」を通すことにより、それらの言動が、「(理解や共感はできないが)道筋の通ったもの」として見えてきました。「サイコパスの特徴」を知り、観察を重ねることで、I氏の反応や行動を先読みすることも、(ある程度は)可能になりました。
この記事では、ハラスメント上司が「サイコパシー傾向の高い人」だったという実話と、そこから得られた教訓を綴ります。身近にいる「サイコパス」という存在を知るための、その「きっかけ」にでもなれば幸いです。
(2)「サイコパス」の特徴
①「サイコパス」の特徴
「サイコパス」には、次のような特徴があるそうです。
こうした(反道徳的な)行動パターンを取る人々の存在は、古来から認識されてきました。ですが、このような行動の原因が「脳」にあることがわかってきたのは、画像研究の発展などによって脳科学が大きく進歩した、ごく最近のことです(*2)。
「サイコパス」の思考や言動は、「非サイコパス」とは別の基準で行われます。この記事では、上記の「特徴」に該当するような言動を、「サイコパシー傾向の高い言動」と表現しています。
②「サイコパス」とは?
精神医学の世界には「サイコパス」という診断名は存在しません。精神医学の世界標準とされる『精神障がいの診断と統計マニュアル』の最新版(DSM-5, 2023年現在)には「サイコパス」という診断名はなく、「反社会性パーソナリティ障がい」という診断基準となります。
「反社会性パーソナリティ障がい(以下、便宜的に「サイコパス」と表記)」の人々は、「他者に対する共感性が低い」という特徴を有しています(*3)。
「他者に対する共感性が低い」ので、他人が「悲しんでいる」「苦しんでいる」ことはわかっても、それに「自分自身が共感する」ことはできません。心が痛まないのです。そのため、自分の都合や利益だけを目的として、(その結果、他人が悲しんだり苦しんだりするような)反道徳的・反社会的な行動を、ためらうことなく選択できるのです。
③ 身近に存在する「サイコパス」
「サイコパス」(サイコパシー傾向の高い人)は、おおよそ100人に1人はいると言われています。日本の人口は約1億2千万人なので、日本にはサイコパスが約120万人はいる、という計算になります(*4)。
また、「サイコパス」は、一般的にイメージされるような「冷酷な殺人犯」のような犯罪者ばかりでなく、高いプレゼン能力や大胆な決断を必要とされるような職種(大企業のCEO、弁護士、外科医など)の人々にも多いと言われています。たとえば、スティーブ・ジョブズ(アップル共同創業者)は、「世界でもっとも洗練された勝ち組サイコパス」だったのではないか、と考えられています(*5)。
「サイコパス」とは、珍しい存在などではなく、われわれの身近に存在しているのです。
(3)ハラスメント上司が「サイコパスの特徴」を兼ね備えていた件について
ハラスメント被害の概要
私が2020年3月に入局した環境NPO(A社, 東京都)は、常勤スタッフ5〜6名の「小さな組織」でした。その「小さな組織」において、事務局長(I氏)によって、次のようなハラスメントが発生しました。その内容としては、(優越的地位から行われた)典型的な職場ハラスメントです。
女性スタッフ(Oさん)に対するセクハラ
筆者に対するパワハラ
女性スタッフ(Hさん)に対するセクハラ
ハラスメントの内容そのものは珍しいものではありません。ですが、ハラスメントの事実確認や、そこでI氏が取った言動などを通して、周囲の人々は少しずつ、I氏の異常性を認識するようになっていきます。
この項では、I氏が取った特徴的な言動(サイコパシー傾向の高い言動)のうち、特に私が気になったもの(つまりは周囲が大きく困惑した言動)を取りあげます。
【参考】
A社という「小さな組織」で巻き起こったハラスメント騒動の顛末は別記事に整理しました。興味のある方は、こちらもお読みください(※前編・後編に分けています)。
(サイコパシー傾向の高い言動①)息を吐くように嘘をつく
I氏の言動に特徴的なのは、「息を吐くように嘘をつく」ことでした。
通常、「嘘をつく」という行為には、様々な「感情」が付きまといます。例えば、嘘をつくこと自体に対する「後ろめたさ」や「罪悪感」、または、嘘がバレることに対する「恐怖感」などです。また、自らの嘘と、それ以外の言動との整合性を取り繕う必要もあります。
「非サイコパス」であれば、「嘘をつく」ためには、こうした様々な(負の)感情を引き受ける必要があります。こうした感情の「負荷」を予測できるからこそ、嘘をつくこと自体にブレーキがかかったり、思わぬところで嘘がバレたり、さらには自ら嘘を告白したり、といった結果につながっていきます。
ですが、「サイコパス」にはそうしたブレーキが働きません。そのため、自分の都合のために、平然と嘘をつけるのです。さらには、その嘘がバレたり、過去の自分の言動との矛盾を追求されたりしても、「サイコパス」は平然と開き直ります。
あまりにも堂々と嘘をつくので、事情を知らない人などは簡単に騙されてしまい、サイコパスの味方になってしまうことも多くあります。I氏の場合もそうでした。
ここで、I氏がついた「嘘」を紹介します(※あまりにも嘘が多いので、2例だけ取りあげます)。
Oさんが辞めた理由は、I氏によるセクハラでした。それについては、I氏本人も認識していました(筆者注:I氏本人が外部の仕事相手に、笑いながら話しているのを聞きました)。
その一方で、上記のような嘘を、(私のいない場所で)他のスタッフに向けて話していました。事情を知らないスタッフの何人かは、最初はこの嘘を信じたそうです。
続いて、I氏の嘘をもう1つ紹介します。
セクハラについて、I氏に対する事実確認のヒアリングが始まりました。そこでI氏は、事実確認にあたった担当者に、このように報告しました。
これも「嘘」でした(Oさん本人に確認)。
どちらも、真実を知る人(私やOさん)に確認すれば、一瞬でバレる嘘です。事実確認を通して、こうした(大小様々な)嘘を、I氏が(普段から)平然とついていたことが明らかになりました。ですが、嘘がバレたことを悪びれる素振りは一切ありませんでした。
「サイコパス」は自らの利益のためであれば、平然と、堂々と嘘をつきます。例えば、I氏は「事務局長」という立場を利用して、上部組織(理事会)に対して、仕事の成果は(ほとんど)自分の手柄であり、他のスタッフは全然仕事をしないと報告していました。その実態は、(お金になるような)おいしい仕事は自分が独占して、(お金にならない)業務を他のスタッフに回していただけでした。
(サイコパシー傾向の高い言動②)呆れた言い訳
前項では、I氏による「嘘」の実例を紹介しました。ここでは、その「嘘」がバレたときの、「呆れた言い訳」を紹介します。
前提として、行為者(この場合はI氏)の性的指向は、ハラスメントの悪質性には関係ありません。あくまでも、行為を受けた側が「嫌だ」と感じれば、それはハラスメントとなります。I氏が同じ行為を電車内で行ったらどうでしょうか。このような言い訳が一顧だにされないことは明白です。
ちなみにI氏は、髪を触る、腰に手を回す、(体を支えるふりして)お尻を触る、胸の脇をつつくなど、世間一般では明らかに「セクハラ認定」される行為を、長期にわたって繰り返していました。それを、(自分よりも立場が弱く)強く断れない女性スタッフだけをターゲットにして、人目がない場所を選んで行っていました(そのため、スタッフの誰ひとりとして、I氏のセクハラに気づけませんでした)。I氏の言い訳が何の意味もなさないことは明白ですが、I氏は堂々とした態度で、この言い訳を貫き通しました。
なお、I氏はこの言い訳を貫くために、「LGBTQ問題を専門とする弁護団体」に助けを求めたそうです。A社の上部組織に対して、「自分に処分を課すなら、法的に戦うことも辞さない」という揺さぶりをかけたのです。
結局、I氏が訴えたという「LGBTQ問題を専門とする弁護団体の名称」も、「担当弁護士の名前」も、「法的な書類」も、いつまで経ってもI氏から提示されることはありませんでした(推察ですが、I氏によるブラフ(ハッタリ・こけおどし)だったようです)。
私のメンタルが参っていたのは、I氏によるパワハラが主な原因でした(加えて、OさんへのセクハラでI氏に失望したことも要因です)。これに対して、I氏は言い訳の中で因果関係をすり替えました。私のメンタルが心配だったからパワハラ(と取られるような)行為をした、というストーリーにしたのです。I氏からこれらの言い訳を聞かされたとき、私は呆れて何も言えませんでした。
サイコパシー傾向の高い人の厄介な点は、(通常なら後ろめたさを感じるような)こうした言い訳や嘘を、「堂々と」語る点にあります。事情を知らず、I氏から都合の良い話だけを聞かされ続けたスタッフの中には、I氏のこうした言い訳を信じた人もいたくらいでした。
「サイコパスの特徴」として、このようなものがありましたね。
自分に都合の良い話を、(虚実に関わらず)「堂々と」語れるサイコパスは、一見すると能力が高く、魅力的に見える場合があります。そして、サイコパスに取り込まれた人々は、たとえサイコパスの悪事が明らかになったとしても、その擁護に回ることがあるのです。
(サイコパシー傾向の高い言動③)気に食わない相手を、平然と貶める
サイコパスは、相手の「苦しみ」や「悲しみ」に共感できません。そのため、気に食わない相手を、(でっちあげの)悪評などによって貶めることを、平然と行います。自分の行為によって引き起こされる相手の「苦しみ」や「悲しみ」には共感できないため、そうした行動にブレーキがかからないのです。
I氏もそうでした(ちなみに、I氏は自分で「人の気持がわからない」と言っていました)。
I氏にとって、Oさんに対するセクハラの事実を知る私(筆者)は、「都合の悪い相手」でした。その相手(私)を貶めるために、団体の上部組織(理事会)、同僚、さらには外部の仕事相手にまで(!)、「Oさんが辞めた原因は〇〇(筆者)にある」、と言いふらしていました。普段と何ら変わらぬ態度で、さもそれが真実であるかのように話すので、事実を知らない人たちは、I氏の話を半ば信じていました(もちろん、後で覆りましたが)。
私に対してだけでなく、I氏は、自分が気に食わない同僚や関係者を、巧妙に悪者に仕立てるのが得意でした。「閉鎖的なコミュニティ」では、ちょっとした印象操作によって特定の参加者を排除できるからです(*6)。
スタッフ5~6名という「小さな組織」であるA社の環境は、I氏にとっては「お山の大将」として意のままにコントロールできる、都合の良いサイズなのです。
(サイコパシー傾向の高い言動④)露悪的な言動
サイコパスは「恐怖」を感じにくいという特徴があります。自分の言動が引き起こす結果を予測できても、その予測に「恐怖」を覚えることが少ないので、言動にブレーキをかけられません
I氏の言動の中で、私が最もゾワッとしたのは「セクハラ報告」でした。
コロナ禍によってA社の受注業務が激減した頃(2020年春~夏)、A社の職場は、事務局長であるI氏と、事務全般を担当するHさんの2人だけ、ということが多くありました。そのような状況で、I氏によるHさんへのセクハラ行為が行われていました。
ちなみに、セクハラ被害を受けたHさんのお母さん(Yさん)は、その当時、A社の副代表理事を務めていました(今回の騒動を受けて退任)。そんなYさんに対して、I氏は次のようなメッセージを連日のように送っていました。
当然ですが、Yさんはこれらを「下品な冗談」と捉えて、適当に対応しました。ですが、そのメッセージは「事実」だったのです。I氏は、被害者の母親に対して、自身のセクハラ行為を報告していたのです(怖…)。
Hさんはこの時点で、I氏から1年以上もセクハラを受けていました。I氏は、Hさんがお母さん(Yさん)に相談していないことを見越して、このような報告をしていたようです(怖…)。
これ以外にも、I氏には「露悪的な言動」が見られました。幼少期に、ある建物を焼失させたそうです(詳細は不明)。それを「完全犯罪」として、「自分は嘘が得意だからごまかせた」と、自慢するように話していました(そこは10名近くの同僚・知人が居合わせるランチの場でした)。
「明らかに反社会的」な行動であっても、「サイコパス」にとってはバレなければ(捕まらなければ)問題ありません。「非サイコパス」であれば「世間の常識」や「相手の感情」がブレーキとなって、こうした露悪的な言動を取ることをためらいます。ですが、I氏にはそうしたためらいがありませんでした。
(サイコパシー傾向の高い言動⑤)自分はいつも「被害者」
「サイコパシー傾向の高い言動②」として、I氏の「呆れた言い訳」を紹介しました。I氏は、自身のセクハラ・パワハラに対して、「悪いこと」だという認識がない(持てない)ので、「反省」することもありません。
それどころか、I氏は、「自分こそが不当に貶められた被害者である」と、(本気で)主張していました。ハラスメントの事実確認が終わり、I氏が他のスタッフから糾弾される場面がありました。そのときにI氏が放った次の言葉に、その場に居合わせた人間は唖然としました。
「自分の潔白を証明するため」ではなく、「他のスタッフによる冤罪を証明するため」に監視カメラを付けたい、ということでした。つまりI氏は、今回のハラスメント騒動は、(私を中心とする)周囲が、「I氏を貶めるために仕組んだ冤罪」だと認識していたのです。
I氏は、「自分こそが(不当に貶められた)被害者である」と、心の底から信じています(I氏の心は読めませんが、そのように見えます)。そのため、事実確認を担い、I氏に対する懲戒処分を決定した団体(特に代表理事)を逆恨みしています(事務局長であるI氏と、代表理事であるTさんとのコミュニケーションは途絶しているそうです)。
(4)今回の教訓と学び
① サイコパスに「勝つ」ことは難しい
今回のケースでは、I氏から直接的に被害を受けた3名の職員(Oさん、Hさん、私)だけでなく、I氏の不誠実な対応に失望した職員・理事・関係者などがA社を離れました。そんなことは意にも介さず、I氏は事情を知らない新入スタッフを雇入れ、事務局長として元気にA社で働いています。
理不尽な被害に遭遇したとき、被害者(とその周囲)は、加害者に対して「反省」や「謝罪」、または懲罰による「後悔」などを求めます。
仮に、加害者が「反省」したり「後悔」したりすることを、被害者(とその周囲)にとっての「勝ち」と定義してみます。
このとき、加害者が「サイコパシー傾向の高い人」である場合、「勝ち」は存在しません。なぜなら、「サイコパス」には、「反省」も「後悔」も期待できないからです(※自分の状況を有利に運ぶために、形だけの「謝罪」をすることはあります。また、悪事がバレたことについての「反省(次はバレないようにしようという)」もありえます。)。
さらに、「サイコパシー傾向の高い人」を不用意に追い詰めれば、逆ギレ・逆恨みに発展する危険性があります(I氏もそうでした)。「勝ち」にこだわるあまり、サイコパスの逆ギレ・逆恨みによってさらなる被害を受ける可能性があるので、この点にはよくよく注意が必要です。こうした最悪の事態を回避するためにも、加害者が「サイコパシー傾向の高い人」であるかどうかは、戦う上での重要な情報となるのです。
大犯罪が起きたとき、「被害者や遺族に対する謝罪」や「反省の弁」を加害者が口にしないことは、大きく報道されます(*7)。ですが、どのような状況に陥っても、「自分こそが(真の)被害者」だと考える人(つまりは反省できない人)がいるという事実は、もう少し知られても良いと思います。
②「遠ざかる・逃げる」ことも、大切な選択肢
自分や周囲の人を害する相手が「サイコパシー傾向の高い人」である場合、「勝つ」ことは難しい、と書きました。また、そうした相手の言動を、自分(非サイコパス)と同じ価値観・判断基準によって読み解こうとする努力も徒労に終わります。
私が「サイコパス」という言葉に興味を持ったきっかけは偶然でした。もしも、「サイコパス」という存在やその行動特性を知らないまま、I氏に「勝とう」として必死になっていたら、おそらく私の精神はすり減る一方だったとと思います。
私は早い段階で「勝つ」ことを諦め、「事実だけ」を見据えて、誠実に対応することを心がけました。そのおかげか、I氏の異常な言動が明らかになるにつれて、周囲の人々が大きな力になってくれました。そして、ある程度の落とし前がついたと判断できた時点でA社を離れました。いまは、(私を含む)A社を離れたメンバーは、(おそらくA社にいた頃よりも)元気に生活しています。
加害相手が「サイコパシー傾向の高い人」である場合、「勝つ」ことにこだわらず、「遠ざかる・逃げる」ことも、自分や周囲を守るための大切な選択肢となります(※もちろん、理不尽な犯罪に巻き込まれた被害者やその関係者には、その選択が難しいことも理解できます)。
被害が小さいうちに「遠ざかる・逃げる」という選択を取るためには、「サイコパス」と呼ばれる存在を認識する必要があります。そのためにも、誰の身近にもいる「サイコパス」という存在を、もっと多くの人に知ってもらいたいと感じたのでした。
(5)参考書籍
(非サイコパスである)私が「サイコパス」と陰口を言われたように、世間では「サイコパス」という言葉が、なんとなく使われています。
私も、自分が「サイコパス」呼ばわりされなければ、この用語について真剣に考えることはありませんでした。そして、ハラスメント上司の(一般的に見れば)異常な言動を、「サイコパシー傾向の高い人に特有のもの」と認識することもできず、ずっとモヤモヤした状態のまま、悩み苦しんでいたかもしれません。
「知識」がない状態では、他人を躊躇なく傷つける「サイコパス」の言動を理解することはできません。そんなとき、情報が整理された書籍は、「サイコパス」特有の言動や、その言動の背景を「読み解く」手助けをしてくれます(※繰り返しになりますが、「サイコパス」の確定には専門家でも長い時間が必要です。無闇に他人を「サイコパス」と決めつけない点には注意が必要です)。
以下は、私が参考にした書籍(の一部)です。自分(や周囲)を躊躇なく傷つけるこの人は「サイコパス」かもしれない。そう思ったときに、読んでみてください(そのような状況に陥る前に読めればベストなのですが。。)。
『サイコパス』(中野信子, 文春新書, 2016)
『サイコパスの真実』(原田隆之, ちくま新書, 2018)
『図解 サイコパスの話』(監修:名越康文, 日本文芸社, 2017)
(注釈)
(*1)『図解 サイコパスの話』(監修:名越康文, 日本文芸社, 2017, p32)
(*2)サイコパスの脳の働きには、次のような特徴があります。「非サイコパス」には理解できない「サイコパス」の行動パターンは、こうした脳の器質的な違いによって引き起こされていることが、明らかになってきました。脳の器質的な違いが原因なので、各種治療による「改善」は、(ほとんど)期待できません。
(*3)『サイコパス』(pp4-5), 『図解 サイコパスの話』(pp20-21)
(*4)『サイコパス』(pp5-7)…「人口に占めるサイコパスの割合」については様々な研究があります。男性の0.75%という研究結果や、アメリカの全人口の4%という研究結果、また、個人主義が発達している欧米には多いが、集団主義的な社会である東アジア圏では相対的に少ないという研究結果もあるそうです。
(*5)同書(pp183-184)
(*6)『図解 サイコパスの話』(pp48-49)
(*7)この記事の作成中には、京都アニメーション放火殺人事件(2019年7月)を引き起こした青葉真司被告が、公判において「謝罪の言葉はなかった」ことが報じられている(2023年9月6日, 中日新聞Web)。
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