読書メモ20年17
概要
(題):無形資産が経済を支配する-資本のない資本主義の正体-
(著):ジョナサン・ハスケル, スティアン・ウェストレイク
(翻訳):山形 浩生
おすすめ度
★★★☆☆
サマリ
先進国では「無形資産」への投資が増えている。無形資産とは、物理的なモノではなく、アイデアや知識、社会関係でできた資産のことである。そんな無形資産の特徴を述べながら、その拡大が世の中の『長期停滞』を起こしているのかもしれないという論拠を述べる。一般的に信用経済の冒頭などよく言われるが、その本質となる背景が書かれており興味深かった
抜粋
無形投資には、次の4つの特性が存在する
①サンクコスト(埋没費用)
無形資産は目に見えないため、売却することが難しい。
そのため、サンクコストと呼ばれる回収不能な費用が生じやすい。
Weworkやラッキンコーヒーの株価下落時の回収不可能等もここから生まれている。
②スピルオーバー(波及効果)
無形資産は、他社が比較的簡単に活用できる。
例えば、ほとんどのスマホは、アップル社のiPhoneを真似ている。
③スケーラブル(拡張可能)
無形資産はスケーラブルであることが多い。例えば、いったんチェーン店のマニュアルを作れば、それは全店舗で使える。
④シナジー
無形資産は、組み合わせることで価値が高まる。
こうしたシナジーは、しばしば革新的で予想外の規模になる
無形資産が長期停滞を招いているのかもしれない
「低投資」1970年代に投資は下がり、1980年代半ばに少し復活した後、金融危機で激減した。そこから回復していない。
「低金利」長期実質金利は1980年代半ばから低下を続け、金融危機以降は特に低水準になった。そこから回復していない。
理由は、
①「計測ミス」
無形資産は普通、企業のバランスシートには現れないため、無形投資は計測しにくい。そのため、国民会計にも十分に反映されていない。
②「利益分配の集約」
無形投資の特性により、極めて大規模で収益性の高い企業が台頭しつつある。(a)価値あるスケーラブルな無形資産を持ち、(b)他の企業からのスピルオーバーを獲得するのが上手い企業は、生産性が高く、利潤を上げ、競合他社の投資インセンティブを下げる。
③大不況の後で、無形資本形成の成長速度は低下
スピルオーバーも減り、企業のスケールアップも以前より遅くなった。
このように、有形投資から無形投資へのシフトが、長期停滞を引き起こす原因になっている可能性がある。