フィリピンの心地よい美術館に行って感じたこと
ここ3年くらいアート作品を見にいくのが趣味です。その個性的な作品を見てぼんやり作者の伝えたいことを汲み取ったり、じっくり考え事をしたり、時には無になることもあったり、アートを通じて作者との対話をしつつ、自己を深めたりもしています。
また、作品を見るだけでなく、美術館という施設そのものも好きで、アートな空間に360度包まれていることで心からエネルギーが湧いてくる感覚もあります。だから、僕にとって美術館はいろんな意味を持った神聖な場所だと思っています。
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僕が住んでいるフィリピンのマニラには、東京ほど美術館がたくさんあるわけではないので、マニラに来てからあまりアートに費やす時間を作っていなかったものの、かねてより行きたかった「ピント美術館」に行ってきました。
今日、実際に訪れてみてその素晴らしさに感動しました。これまで行った美術館とはまた違った体験があったので、それについて書いてみようと思います。
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ピント美術館(Pintô Art Museum)は、マニラ首都圏の東側アンティポロの山の中に位置する美術館で、2010年のオープン以来じわじわと来客数を伸ばしてきています。
注目のポイントは多くの展示作品がフィリピン人のアーティストによるものであること。フィリピンには美術館があまり多くなく、アートというと専らカトリック教会の絵画のイメージが強くあるため、現代アートの美術館としては数少ない展示場となっています。また、2018年には東京・渋谷で展示会を行うなど、海外でも個展を開くまでになっており、フィリピンを代表する美術館とも言えます。
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今回訪れてまず思ったのは、施設全体が自然と調和しているということです。小さなギャラリーがいくつかあり、それを囲うように森や庭が周囲に広がっています。実際、美術館の門を抜けてから出口に至るまで一度も「部屋」に入ることはなく、それぞれのギャラリーは外とシームレスにつながっていました。施設内には扇風機以外の空調が一切なく、訪れたのがお昼の時間で暑かったものの、入り口や窓には扉がないため涼しい風がギャラリーを通り抜けます。
作品は現代アートが中心なため、僕のような外国人にも響くような興味深い作品が多くありました。フィリピンならではの文化を表したものもあれば、摩訶不思議な印象を与える抽象的なものまで、とても面白い作品がありました。人の器官(脳とか筋肉とか)を描いたようなグロい作品が多くあったのは、何かのトレンドなのでしょうか。
施設自体が屋外と直結しているため、窓の奥に遠くの高層ビル群が臨めたり、施設内のカフェでローカルフードを食べているお客さんが見えたり、美術作品自体が風化しているものもあったりします。でもそれらも含めてこの美術館での体験と受け止められました。それは、この施設が、人為的なものが自然と共生する際にできるいろんな障壁をなくしていたり、あえてそこで生まれるギャップをアートと捉えていたからだと感じました。
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年間を通して気温差が激しい東京では、同じことをやろうとしても難しいと思います。これはフィリピンだからこそできる美術館の展示だと思ったし、地の利を最大限に活かした素晴らしい施設だと思いました。
今回訪れて心地よさを感じ、よりフィリピンという国の文化を肌で感じることができたと思います。それは市井のものとは少し違うかもしれませんが、これもやはりフィリピンらしさだと思うし、マニラの喧騒では絶対に知ることもなかったものだと思いました。
フォトジェニックが大好きで人目をはばからずパリコレモデルになりきるフィリピン人のお客さんたちがどこまで気づいているかはわかりませんが、ピント美術館はフィリピンでしかできない素晴らしい体験を提供してくれました。
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残り2週間を切ったマニラでの生活の中で、最後にこのような体験ができて嬉しく思います。今回、バスとジプニーを乗り継いではるばる遠くの地へ訪れましたが、そこまでしなければたどり着けないこの体験すらも良いものに感じました。
また世界で素晴らしい美術館に出会える日まで。