ゲーテに心を寄せて
2週間半に及ぶフランス・ドイツへの旅ももう終わりが近づいてきました。
ドイツではフランクフルトに4泊しようと宿を取ったものの、ヨーロッパの中心と言われる大きな空港を擁する都市の反面、街の見応えはいまいちでした。
確かにヨーロッパの金融センターとして高層ビルがいくつも立ち並ぶ姿は圧巻だし、クリスマスシーズンのためマルクト(マーケット)が盛んではあります。
しかし、それらはこの寒い冬に何時間も費やせるようなものではありません。
高層ビルは観光地ではないから遠目から見て満足するだけだし、マルクトはストラスブールで世界一を見てしまった以上、雰囲気だけ味わえれば十分だと思ってしまいました。
近隣の都市、ケルンやドゥッセルドルフで宿を取れば良かったと後悔しつつありますが、来てみないとわからなかったことなのでそれは仕方ないと割り切ることにします。
だから、このフランクフルトならではの楽しみ方を見つけていこうと思いました。そして見つけたのが「ゲーテハウス」です。
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ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテは、ドイツを代表する作家です。
僕はかつてゲーテの長編小説『若きウェルテルの悩み』のマンガ版を読んだことがあります。主人公ウェルテルが婚約済みの女性シャルロッテに恋をし、叶わぬ恋に絶望して、最後はピストルを使って自害してしまう悲しい青春小説です。
失恋をメインに、感受性豊かな少年を主人公にして描かれた作品は、悲劇の終わりを迎えるものの、その描写やストーリーから長年多くの人から愛されています。
ゲーテの代表作であるこの作品は、ゲーテの実話をもとに描かれたと言われています。シャルロッテという女性に恋をしたウェルテルのように、ゲーテは実在の婚約済みの女性シャルロッテ(同名)に恋をして、思い悩むことになります。そんな頃、ゲーテの友人の一人がピストルで自殺をしてしまいました。
そこから着想を得て書かれた作品が、この小説です。
この小説の執筆に没頭したおかげで、ゲーテは自殺を思い止めることができたし、作家として一躍有名になりました。そして、この小説の執筆をした場所が、フランクフルトのゲーテハウスなのです。
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フランクフルトで生まれ育ったゲーテは、途中他の都市へ引っ越しを経験するも、のちにこの地・この家へ戻ってきました。そして失恋の最中をこの家で過ごしていました。
ゲーテハウスは、ゲーテが生まれ育ち、そして再び戻ってきた家です。第二次世界大戦でフランクフルトの街は壊滅的な被害を受け、この家も同様に崩壊してしまったものの、戦後文化財として再建されたものです。
ゲーテ自身は裕福な家庭に育ったため、フランクフルトの旧市街から程近く、家自体も比較的大きいものでした。その4階の一室がゲーテ自身の部屋でした。
僕は昨日、今は文化財として保存され、一般公開されているゲーテハウスに行ってみました。
外は気温-1度という気温ながら、保温性に優れた家は窓が開いていても暖かいものでした。丁寧な暮らしが垣間見えるバロック様式のつくりは、広さに余裕があり、大きな家でした。
ゲーテが過ごした部屋は、南側の道路に面していて、晴れていれば日当たりが良さそうな立地でした。部屋には当時の机と椅子が載せられ、壁にはシャルロッテのシルエットを模した紙が貼られていました。
ゲーテはここでどんな気持ちで小説を書いていたんだろう。自分なりに考えてみました。
婚約済みの女性を愛してしまったもどかしさは、相当な苦しみだったに違いありません。一時は窮地に追い込まれていたゲーテが、自殺を思いとどめた執筆活動は、想像以上の集中力だったでしょう。
この部屋の中でいろんなことを考えてみました。
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束の間の体験でした。
実話を元にした小説『若きウェルテルの悩み』の執筆の舞台に来て、彼の体験した感覚を自分に投影して感じてみました。けれど、結局特に何も感じることはありませんでした。
人の気持ちを察するのは難しいものです。
それでも長年多くの人に読まれ、愛されている小説には、もっとその追体験ができるような手がかりがあるような気もしました。僕はまだマンガであらすじをなぞっただけで情報量が少な過ぎたのます。
実際のシャルロッテはどんな女性だったのか?
ゲーテとウェルテルに共通する感情と共通しない感情はどんなものなのだろうか?
それらを読み解く鍵は、実際の小説であったり、ゲーテにまつわる伝記にあるのでしょう。
フランクフルトに来て、ささやかながら縁をもったヨハン・ヴォルフガング・ゲーテという一人の作家。今後、時間を作って彼の世界にもっと触れてみたいと思いました。
それだけでもフランクフルトに来た甲斐はあったのかもしれません。
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それでは、また明日お会いしましょう!