「クリエイティブじゃない」という戦略
『クリエイティビティ』って、一般的にはポジティブな意味で使われます。
ただ、その定義を仮に『目的遂行のために創意工夫を重ねること』とするならば、ぼくはときには『クリエイティブじゃない』という選択があってもいいなじゃないかと思います。
『セイバーメトリクスの落とし穴』という野球について書かれた本があるんですが、そのなかでこんな一文があります。
ドラフトにも言えるが、野球全てに共通しているのは『王道から逃げてはならない』ということである。
ドラフトというのは、新しい選手を獲得するひとつの制度のことです。
プロ野球は全部で12球団あって、まずは全球団が1位指名する選手を発表します。
その際、他の球団と欲しい選手が重複した場合は抽選になり、外した球団はまた別の1位選手を指名するという流れです。
それでこのとき、なかにはクジで外したくないから、他の球団も指名しそうな人気選手を避けて、ちょっと人気くらいの選手を単独指名しようとする球団もあります。
このとき、他の球団も指名されるような人気選手を1位で獲りに行くことを『王道』とするなら、一芸に秀でた選手や独自に見つけてきた掘り出し物選手を指名するのは『クリエイティブである』と言えます。
日本ではこういった意表を突いた戦法や奇想天外な発想は『弱者の戦い方』的な文脈で特に好まれる風潮を感じますが、『王道』と『クリエイティブ』の間に優劣の差なんてものはなく、それはあくまでも選択肢のひとつに過ぎません。
確かに、『制限』は『クリエイティビティ』を生みやすいです。
お金がないから、人が少ないから、時間がないから、頭をひねり出してどうにかできないかと工夫を重ねます。
しかし、工夫すること自体はとても素晴らしいですが、それはあえて悪い言い方をすれば『苦し紛れ』とも取れるのです。
1位指名してもうちみたいな弱小球団に来てくれるか分からないから、あの人気選手の指名はやめておこう。
いま捕手が足りてなくて絶対に欲しいから、本来の実力的には3位くらいだけど、他の球団に取られるのがこわいから1位指名しちゃおう。
そうではなくて、あの選手が一番能力があるんだから、自分たち以外に何球団も指名しようとも、そんなの気にせず指名する。
たくさんの打つバッターがスタメンに並んでるんだから、わざわざ盗塁やバントといった小技は使わないで、とにかくみんな打つだけ。
あえて頭を使いすぎないことによる『王道』という道も立派な戦略のひとつであり、そしてもっと大事なのは『王道の戦略を選択できる環境』の構築です。
大手企業がとにかく人とお金をつぎ込んで派手にマスメディアへの広告を出す『王道』も立派な戦略のひとつです。
それに対抗してベンチャー企業が少ない予算と人でオウンドメディアを運営することはとても大事ですが、それと同時に『もっと業績を上げて、広報にもお金をかけられる環境を構築すること』にも意識を向けるべきということ。
『王道』と『クリエイティブ』がそれぞれひとつの選択肢でしかないのなら、応じてそれらを使い分けたり組み合わせたりできることが、一番強いと言えます。
そのためには、『両方を選択できる環境の構築』が大事なのです。
ということで今日は、『クリエイティブじゃない』ことも立派な戦略のひとつだという話を書きました。
そして『王道』を選ぶこと以上に大事なのは、『王道も選べる環境』を作ることへの意識です。