本に包まれて
「百万石ビブリオバウム」というのが、その名らしい石川県立図書館。
加賀五彩を用いて館内を色分けしていたり、研修やものづくり体験スペース、イベントや講義などに使えるスペースや各種体験スペースが設けられている。
その上、会話も制限されず(気になる人向けにサイレントルームもある)撮影もでき、閲覧スペースでも蓋がついてるカップなら飲み物が持ち込める・・等々、かなりの自由度があるので、2022年7月に開館以来利用者が殺到した。
建物外観は普通の建物に見える(外観は本のページを開く時の期待感をイメージしている)のだが、中は面白い。
センターに大きな長円型の大きな空間を持ち、1階から3階までスロープで移動ができる構造で、円環状のブックギャラリーが設置されている。
その人気たるや凄いもので、開館した2022年度は通年開館ではなかったが来館者は78万人を超えて全国2位、そして2023年度は102万6千人を超えて全国の都道府県立図書館で最多となった。(100万人を超えたのは石川県のみ)
私自身はカード会社の月刊誌でその存在を知り、フォトジェニックな施設という事もあって興味を持っていたのだが、今回の旅行では休館の関係もあって最終日に訪れる事となった。
エントランスからして、その構造の特異性が見てとれる。
写真は基本的にOKだが利用者の迷惑にならないように、という注釈があった。
風景の中で写るレベルなら問題無いが、個人を狙った様な写真は不可という事。
期待して入ると、こんな光景が待っていた。
なるほど、これはちょっと面白い。
フォトジェニックだと称される意味が一目でわかる。
スロープで移動できる構造の上に4層のブックギャラリーがある回廊が見える。(一周160m)
ならばまずは、その4層へ上がってみよう。
エスカレーターで3層に上がり、そこから階段で4層へ。
知の殿堂として設計した仙田満氏によると、貸出中心ではなく課題解決型で、コミュニティ機能を持ち、地域の文化やコミュニティ、そして伝統文化とも連動する形を目指したとある。
行政に提案する場合によく使われる「文化的コモンズ」に質する設計ってヤツですな。
回廊には、こんな写真が撮りやすいようなスポットが用意されていた。
蔵書数が凄いだろうと想像できるサイズだが、開架冊数約30万冊で閲覧席約500席、書庫収蔵能力は約200万冊らしい。
私自身はそこまで本が好きなワケでは無いけど、想像力を刺激する文章を読むのは好きで、小説などは読み出すと途中で止められないタイプなので、時間に余裕が無いと恐くて長文は読めなかったりする。
4層のギャラリーにある本の並べ方がかなり面白くて、その本の合間に貴重文書(アクリルで保護された本棚にある)あったりして、見て歩くだけでも退屈しない工夫がある。
その回廊の中には、まさに「本に包まれる」という椅子がある。
回廊の中にさりげなくあるこの椅子で、本に包まれながら読む時間は、本好きな人にはたまらないだろう。
図書館としての人気が出るのがよくわかるし、PC利用もOKなのでレポートを書くにも有効で、自分が学生だった頃にこの環境があったらどんなに楽だったか・・と、羨ましくもなった。
おしゃべりOKとはあるけど、館内は静か。
あまりにも迷惑な会話の場合はスタッフが声がけしているとあるけど、空間の広さもあるのか、会話している人がいても気にならない。
「図書館では喋っちゃいけない」という常識が覆る設定ではあるが、2019年の図書館法改正によって公立図書館の所管を教育委員会から地方公共団体の長へ移す事が可能となり、地域の課題解決に向けた拠点としても使える様になってきた事で、こんなスタイルの図書館が実現した。
会話ができなかったらコミュニティなんて醸成されないし、観光政策としての位置づけだって難しい。写真撮影ができる事でSNSへの発信も期待できるし、私の様に写真を撮りたいだけで訪れる人だって出てくるはずだ。
そう考えての写真撮影可な設定だったら、観光政策としても成功と言えるだろう。
今回は、EF50mmを多用した。
こういった建築の場合、50ミリレンズの画角は有効で、スペース的に問題が無い限り標準から望遠で撮りたいと思って用意していた。
狙った通りの構図が得られ、自然な立体感が出るので被写体の大きさも見える。
50ミリって奥が深いってあらためて感じたけど、設計の巧みさが秀逸なので撮れる画と言うべきか。
そんな魅力的で面白い構造に目が行きがちだが、読書のために使う椅子の多様さも面白かった。
2011年に開館した「金沢海みらい図書館」が、開館翌年の2012年に「世界で最も美しい公共図書館25選」に選ばれた事はまだ記憶に新しい。
その建築コンセプトは「ケーキの箱」で、外壁は読書に適した自然光を館内に採り入れる丸い穴があるパンチングウォール。ただ、本棚の配置は従来の図書館と同様で、周りに読書用の机と椅子が用意されているので、光源の面白さはあっても配置的な面白さは無いだろう。
当然だけど、外観だけ撮って終わり・・・じゃ面白く無いので、今回はパス。
通常、撮影可となっている図書館でも申請が必要で、場合によって職員が付き添ったりネットに上げない事を条件としたりするので、この図書館の様に自由に撮れるのは珍しい。
かと言って、書架の前で記念撮影する人なんて入口付近にしかいないし、建築の構造や書架の様子等を撮る人なんてほぼいない。全体が撮れる4層のポイントでのスマートフォン撮影してい人は若干いたけど、レンズ交換しながら撮ってる馬鹿は私だけだった。
通常なら撮れない場所を撮る楽しさってあって、そういう意味ではメディア側の仕事をしていた時は楽しかった。
今回の撮影はそんな頃の事を思い出させもしてついつい撮りすぎてしまったが、逆に今は撮り損なう可能性を考えて2台カメラを使うとか、ダブルの記録媒体に同じ撮影データを保存する様な事はしないので、たまには緊張感ある撮影もした方が良い?って自問する。
まぁ・・写真なんてその日その時の記録でしかないので、撮れなかったり失敗しても「その日の自分」が写ったと思えば、笑い話で終われる。だから「緊張感ある撮影なんて必要無い!」って言える自分は、間違いなく幸せなのだろう。
それにしても、この図書館の椅子。
どの椅子も素晴らしくて、撮ってて楽しかったよ。