見出し画像

ぼくらのプロダクトアウト 第一回

ぼくらのプロダクトアウト 連続4回 第一回
 
 今回はプロダクトアウトのお話。「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という言葉があります。字数の都合で、ここでは詳細には解説しません。お客様側に寄って、ニーズに応えたり、商品を魅力的に整えるのが「マーケットイン」。生産側の事情や問題解決に寄るのが「プロダクトアウト」、くらいにご理解ください。

 かつまたファームが新しい取り組みに進むに従い決めた方針は「プロダクトアウトを前面に出さない」ということ。例えば。かつまたファームは創業から、「障がい者福祉」「教育」の現場の課題解決に協力する、という方針を守ってきました。ごちそうピクルスの首下げタグは障がい者施設がお仕事として取り組んで作成してくれます。不登校から復帰した若者が就労して生産を担ってくれています。どの業界も、異業種の手助けなくては解決できない種類の問題は、必ずあります。
 しかし、そういった生産側の事情に基づいた取り組みを商品の付加価値と位置付けてトータルデザインを行うと、いわゆる「感動ポルノ」「お涙頂戴商品」になってしまい、結果購買者からの選択を、かえって遠ざける場面が目立ちます。特定の購買者の注目しか得られなくなる特性がある。だから、商品はあくまでマーケットインでデザインしていくべきだと考えている。これはこれからも変わらない。そもそも障がい者への配慮、教育への配慮、なんて、付加価値ではなく、当たり前の価値でなければならない。
 しかし、一方で私たち農業界の「プロダクトアウト」をもっと知りたい、という方も多数いるということは、今回のクラウドファンディングで明らかになった。ピクルス開発を初期から助けてくれた飲食店店主は、「もっと健太(代表)のプロダクトアウトを知りたい。自分も知りたい。お客様にも知らせたい。」「おそれずに、共感してくれるお客様を選抜し、残った皆様から得られる強い支援こそ営業の財産」と。概ねこう言った助言をいただき、深く考え直す部分もあった。
 商品はマーケットインの魅力的な構成を整える。だけど、プロダクトアウトもまた、恐れずに発信しよう。知って貰おう。そんな若干の方向修正でかつまたファームは進もうと思う。

 ここから本題

 2023年.農業の現場は焼け野原の様相です。2022年は、知らない人はいないウクライナ侵攻、中国輸出規制、歴史的円安が同時多発の災害級経済変化として農業界に押し寄せました。ともなう政府からの賃上げ要請。あらゆるモノの価格が暴騰したわけですが、農業現場のコストが、他のどの産業よりも突出して高騰したことまでは、あまり一般に知られていない。理由は簡単です。「野菜の価格はたいして上がらなかった為、消費者には伝わらなかった」からです。そしてまた青果物価格は落ち着いた。
 私たちが生産に用いる、結果皆さんの胃袋を支える食料生産は「輸入した肥料」によって生産されています。まずこれが知って欲しいプロダクトアウト。
食料自給が大事?いいえ。日本は私が生まれる前から「加工貿易」国です。製造業だけでなく、農業もまた、輸入原材料がその基盤となっているのです。
 2022年の農業資材高騰率は品目ごとに違いはあるものの最大180%近辺から(主に肥料)、低いもので130%(出荷資材など)。これはわずか1年の話。そして、資材高騰の傾向は10年ほど前から留まることなく押し寄せている為、10年前に比べると、価格高騰幅は最大220%から150%程度に上る。10年前とはちょうど私が農業の世界に飛び込んだ頃です。
 前提として申し上げるが、私自身は「本来物価上昇は悪ではなく、好ましいこと」と捉えている。これも詳しくはここでは述べない。値が上がり、給料が上がり、相対的に借金の負担感は減っていくことが経済的には好ましい。より前に、前向きに経済が進める。ビジネス投資もチャレンジングになる。暮らしも前向きに進める。簡単に言えばそういうことだ。
 
 ただし、これは「自分の手取りも同様に上昇した場合」に限る。
 野菜の価格は10年間どうであったか。
1月26日。かつまたファームは御殿場市役所で記者会見を行った。ひな壇に、静岡を代表する売上100億規模の青果市場から戦略担当を招き(ひな壇側に)、青果物の価格推移についてコメントを求めた。
「・・・10年変わりはありませんね」(市場戦略担当)
・・・。記者からは質問。
「それで農業って成り立つんですか?」
 この質問に、私からの回答が必要だろうか。それでもあえて回答するなら「成り立つわけがない」です。
 報道はスーパーの青果物が瞬間的な高騰をした瞬間だけを切り取る。これは長期相場とは関係なく、ものの多い、少ないで決まる「市場相場原理の生理現象」で、基礎価格とは関係のない話。一瞬で供給不足は解消し、もとに戻る。たいていは反動下落で帳尻があう。それが野菜の価格形成。相場の価格形成。
 野菜の値段。上がってないんですよ。生産コストは上がっている。つまりそこに含められていた生産者の利益がひたすらに縮んでいっている、ということなんです。あなたが手に取る野菜のなかには「生産者の利益」ではなく「生産者の持ち出し」という状態の品もあり得る、ということですね。

 

今日はここまで。ポイント整理。
①    農業の歴史上類を見ない生産コストの上昇がわずか10年で発生。(特にこの1年)
※物価上昇率を遥かに上回る上昇曲線を描く。
②    青果物価格は10年前から大きな変動なし。
③    →①②から生じるねじれは一体だれが吸収している?「農業は成り立つんですか?」
④    回答は改めて書きません。分かってください。知ってください。

2022年。から2023年のここまで。ネットワークは利用が容易になり、SNSを通じて全国の生産者とつながり、意見を交わしたり助け合ったりすることができるようになった。
 しかしこれほど頻繁に「仲間」「友人」の廃業の報せを聞いた年はなかった。廃業はまだ良い。「まだ良い」のであって、「良い」のではない。おそらく撤退の姿勢すら取れなかった「破綻」の場合、知己に廃業の報せを送る精神的、状況的余裕もなく、人知れず債務処理と戦っているのだろうと思うと、やはり胸が苦しくなる。

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?