
都市経営プロフェッショナルスクール開講式集中研修@北九州市(2)〜フィールドワークによるエリア分析の発表編〜
都市経営プロフェッショナルスクールの開講式集中研修が北九州市で開催され、初日は、フィールドワークを思うようにこなせず散々な結果となりました。
2日目は、各グループのフィールドワークによるエリア分析の発表と、個人事業の発表を行います。この日も多くの学びを得ることになりました。
フィールドワークによるエリア分析の発表内容
フィールドワークについて、事務局から出されたお題は以下のとおりです。
【課題】
なるべく多くのまちの特徴を探し、1メッセージにまとめて2日目の最初の時間に発表する
※特徴…公民連携事業の観点で、どんな可能性があるか、どう変化している町なのか
【目的】
まちを見て公民連携事業のヒントを見つける「まちにダイブ」の実践
このお題に対して、昨日のフィールドワークとグループ内で議論した内容に基づき、グループメンバーが各自作業をしながら、発表内容をまとめ上げました。発表内容の方向性としては、フィールドワークによって感じたことをベースに都市経営分析を行い、今後、小倉というまちが何で飯を食べていくのかについて提言するというものです。
資料の内容はこちらです。





今回の発表内容の前提として、小倉に対しての3つのマクロ的な視点がありました。
1つ目は、歴史的な視点として、小倉が元々は城下町であり、そこから形成された商店街が、官営八幡製鐵所を中心とした鉄鋼業によって急激に集積した人口の消費の場となったことで発展してきたこと。
2つ目に、産業的な視点として、かつては九州最大の工業都市と支店経済都市として栄えていたが、北九州工業地帯の相対的な地位の低下や産業構造の変化、市内にあった大企業の支店・支社の福岡市への流出などによって、産業基盤が停滞していること。また、増加した空きビルを活用して新たに産業を創出するため、リノベーションまちづくりによって飲食店などの都市型産業を活性化させてきた結果、地価の上昇とともにディベロッパーによる開発が現在進んでいること。
3つ目に、立地的な視点として、現在の福岡市や下関市との関係性を踏まえ、小倉は今後どのようなポジショニングをとる必要があるのかということ。
これらを踏まえ、まち全体として今後も飯を食っていくために、新たな主力産業の獲得と、既存の都市型産業の発展を目指すビジョンが必要だと考え、資料をまとめました。
まず、新たな主力産業としては、海のクリーンテクノロジーに着目しました。これは、北九州市は、鉄鋼業を中心とした重工業によって、海や川が汚染され、大腸菌すら住めない「死の海」「死の川」と言われていましたが、行政による環境規制と企業の努力によって、現在は大幅に水質が改善された稀有な存在であり、その文脈からクリーンテクノロジーを集積するというストーリーが合っていると判断しました。また、今後も世界的に市場の拡大が見込まれる成長分野であること、国際空港である福岡空港まで新幹線を使えば40分程度で行けるにも関わらず博多・天神エリアに比べて地価が安いことを理由に、行政と民間が連携して投資を呼び込む産業振興の可能性があると判断しました。
次に、飲食業を中心とする都市型産業を実施する際、福岡市の博多・天神エリアに比べると、小倉エリアの地価は安いという強みがあります。そのため、小倉エリアで起業して事業が拡大できた後に、博多・天神エリアにチャレンジするというストーリーを描き、起業チャレンジしやすい環境を売りとしてサービス産業のスタートアップを誘致することを考えました。これも、行政と民間が連携して既存のリノベーションまちづくりを推進しつつ、デベロッパーによる再開発によって新たな商業施設が建設された場合でも、上記のクリーンテクノロジー関連の企業のオフィスをテナントに入れることで利回りを向上させ、1階や地下階に飲食店をテナントとして入れることで、今の小倉魚町地区の面白さを崩さない仕組みができるのではないかと考えました。
最後に、小倉城・勝山公園エリアについては、紫川の西側に行政が投資して整備した公共空間があるものの、現状では利用者が少ないのが現状です。そのため、そこをさまざまな活動ができるよう市民に開放して、消費を伴わない集客装置として活用し、敷地内に商業施設を併設することによって借地料で維持管理費用を稼ぐといった、公民連携による新たな活用方法が必要なのではないかと考えました。
これらを踏まえ、まとめられた資料に対して、補足説明ができるよう自分なりに準備はしてきました。
時間的にあまり大人数で発表するのに向いていませんが、コーチ陣の質問に答えられるよう、各エリアを見て回ったメンバーがいた方がスムーズに対応できると判断し、発表者は3名としました。
昨日のグループ内の議論で消極的な態度をとってしまった負い目もあったので、発表者を自ら引き受けることにしました。そして、開始前の限られた時間で練習を繰り返します。全体の流れを調整しながら、各パートの発表内容を調整していきます。
開始直前の調整と練習であり、褒められたものではありませんが、何とか形にすることはできましたので、後は発表に臨むまでです。
ただ、この時の私は、この発表内容と発表に対する心構えが、後で問題になることに少しも思い至ることはありませんでした。
自分でお金を出す気のないプレゼンは無責任な提案に過ぎない
フィールドワークについての発表がAグループから始まり、Cグループは3番目です。他のグループの発表は自分たちとは違う視点で行われているため、どの発表も面白いです。ただ、発表資料を夜通しで作ったこともあり、発表練習は全然できておらず、つい自分の発表資料に目が行ってしまいます。
どのグループの発表にも、プロのコーチから的確に指摘が入ります。そのため、指摘に応えられるよう、可能な限り補足説明資料に目を通します。
いよいよ発表となり、声が震えながらも、なんとか発表しましたが、発表時間を少しオーバーしてしまいます。ふと、コーチ陣の顔を見ると不穏な空気が流れています。

まず、Cグループのコーチからコメントをいただきましたが、Cグループがどのような課題設定をして、どのように考えてきたのかについて、助け舟としてのフォローが入りました。その上で、以下のように続きます。
答えがある話ではないものの、自分たちが「株式会社小倉」の社長になったときに、こういうまちになったら、ここに住む人たちやここの地域が最大利益を取れるようなものになっていくんだな、精神的にも豊かになっていくんだなという、ビジョンを持ってほしい。
ここに住む人が、どう幸せに、楽しい日常が送れるのか伝わってこない。そこの部分がネットで調べた言葉を、響きの良い言葉だけ持ってきた感がある。
コーチの指摘を受けて、ハッとしました。全くそのとおりです。コーチからアドバイスをいただきながら、考えてきたはずなのに、発表内容にはそれが表れていないのです。
その後、他のコーチから以下のように厳しい指摘が入ります。
日頃どういう仕事をしているかが現れている資料。考えてないように僕は感じる。みんながコメントしづらいのもそのため。
「ウォーター・シティエリア」、「サービス産業スタートアップエリア」、「プレイスメイキングパークエリア」とあるが、まちにそんなゾーンあります?リアリティがない。具体とかリアリティを感じるためにまちに歩きに行っているのに、なんか上っ面のバズワードみたいなのだけを入れた資料をつくって、やった感だけ出している。
ビジョンだったら1個にまとめる。3発打てば当たるみたいなやり方しているのも、包囲網を広げれば文句言われないんじゃないかというやり方を日頃からしているような、仕事の癖を感じる。
みなさん自分のお金をかけて、いくら出します?自分のお金を出すっていう発想でビジョンを立てなかったらただの無責任な発言を他人に提案するだけ。
3つの内から1つに絞ってもらって、自分だったらこういうふうにできるんじゃないかっていう、主体性のある議論をやってほしい。
自分の金を使ってやるのが本来のまちづくりなんですよ。人の金だけでやろうとか、他人にただ提案して、それから先は、自分は責任を取りませんっていう考えでやっているうちはプロにはなれない。
チームでダメ出しがない。ホワイト化し過ぎ。別に人格否定ではない。これは本当にそれでいいのかっていうことに対して真剣な議論をしないと。「ウォーター・シティエリア」って言われて、「何それ?」って言う人がチームにいないとすれば、全員がだらけている。
もっと喧々諤々でやっていく。やる気のない奴らが集まってやる会議とは違う。本当にそれでうまくいくのかっていうことを、他人がやる事業に対しても、自分が金を出す投資家だと思って聞く。
自分たちで主体性を持ってやらないとプランは練られないし、面白いものにはならない。そういうふうにまちを見ないと、「こんなふうになったらいいな」みたいな小学生でも話すような内容になる。
ガンガン議論して、思考の階層を深める。これから個人事業の発表もあるが、そういった視点でやってもらいたい。
ぐうの音も出ません。発表の中身にも多くの問題がありましたが、そこに至る考えの甘さを見透かされていました。
私自身の考えにも大きな甘えがありました。そもそも、自分のお金を出すっていう発想でビジョンを立てておらず、無責任な提案をしていました。プレゼンテーションとは自分自身を営業することに他なりませんが、全くその気がなかったのです。
また、上っ面だけの言葉を使用していても、私自身は違和感を感じていませんでした。「日頃どういう仕事をしているかが現れている資料」と言われても無理はありません。自分でお金を出して事業をするときに、リアリティの感じない言葉を使って営業していては、相手に伝わらず全く話になりません。
しかも、自分のお金を投資するのであれば、限られた資金の中で、最大限の投資効果を得るために、事業を一本に絞って資源を集中させるはずです。それなのに、ビジョンを複数示すことで逃げ道をつくり、フィールドワークをしたのにもかかわらず具体の話がないのです。
この資料に違和感を感じなかったという事実は、私が前職の公務員時代に何も考えないで仕事をしてきたことを如実に現していました。
完全に頭の中が真っ白になりました。
フィールドワークに対する講評
エグゼクティブコーチの清水義次さんの講評
各グループの発表も終わり、全体の講評を兼ねてエグゼクティブコーチの清水義次さんからお言葉をいただきます。
残念ながらフィールドワークの本当の価値をわかっていない方が依然として多いのが実感。
フィールドワークは、実際に都市のいろんなところを眺め、どんな人たちがどんな暮らしをしているか観察ができると言うのが一番の特徴なのだが、その感じが現れていない。ただ歩いただけって感じ。
目玉の好奇心がすごく大事。自分の好奇心に基づいて、街を歩いて、街でいろんなことをやっている人に焦点を合わせてやってほしい。
このまま、これでフィールドワークをした気になるのは、非常にまずい。フィールドワークって毎日繰り返しまちを歩いて自分のものにしていかない限り、フィールドワークの意味はない。ただ簡単にまちをさらっと見ましたではフィールドワークでもなんでもない。ただのお勉強のための遠足。そんな感じになってしまうと意味のない行為になるので、フィールドワークの本当の意味を自分なりに噛み締めてもらいたい。
表面だけさっと見たからまちがわかったというのはとんでもない考え。本気でフィールドワークしてみるという気が自分の中で生まれてきつつあるかってところをもう一度確かめてもらいたい。
自身の対象となるまちが今後も続いていくのかを決める、1番の決め手がフィールドワークにあると思う。真剣さと面白さが同居するような長続きするフィールドワークを是非それぞれのまちで行ってほしい。
フィールドワークで不甲斐ない結果となってしまった私としては、言葉が胸に刺さり続けます。これも、日頃から実践していなかったツケが回ってきたのだと思います。
コーチ陣のアドバイスを聞いていたはずなのに、実際にフィールドワークを行った際、まちで活動をする人たちの具体について全く観察ができていなかったことを反省しつつ、実践したからこそ自分のできていないところがわかるのだということも学びました。
ただ、そもそものインプット量が少なく、コーチ陣の説明を本当の意味で理解できていなかったという問題もありますので、自分の活動するエリアだけでなく、様々なまちへ自主的にフィールドワークを行って、インプット量を増やしたいと思います。
また、エリアをきちんと読み取るためには鋭い観察が必要となりますが、自分の中に判断基準がなければ、まちを観察しても何も見えてこないということを今回のフィールドワークで痛感しました。そのため、事前準備としての定量調査とそこからの都市経営分析に基づく仮説が観察には必要となりますので、こちらも繰り返し実践しながら学びたいと思います。
知行合一のとおり、学ぶことと実践することは一体であり、実践したことによるフィードバックをインプットしなければ本当の意味で学ぶことはできないことがよくわかりました。まずは、自分のまちを歩き回ることから始めて、フィールドワークを日々実践することを習慣化しようと思います。
エグゼクティブコーチの木下斉さんの講評
続いて、エグゼクティブコーチの木下斉さんから以下のようにお言葉をいただきます。
フィールドワークで街を見ていくっていうところで、観察を普段よくしていないということがわかる。空虚なキーワードが一番ダメだというのも、具体の人にインタビューをしに行くみたいなことがほとんどなく、ただ建物を見ているだけ。
各チームでリーダーを決めているのか?リーダーがいない中で戦場に行って生きて帰ってこられる自信がありますか?
みんなでゾロゾロ一つのグループで歩くということをみんなで決断したことも非常に不可解。1人で回って2人ぐらいインタビューしたり、観察したりしたものをそれぞれ持ってくれば、10人いれば20のケースがそのまちから見える。そういうチームワークに対する基本的なスキルが圧倒的に低いと見ていて思った。
チームで物事を解決していくことをやらないとまちの課題は解決できないので、フィールドワークをするときにも、もっと役割を分担する。
普段からやる作業が極めて個人的。やる気があるから自分でやるというのも当然大切だが、チームを作ってやらないと良いことはできない。
喧々諤々の議論をやってもらいたい。「アイツうるせぇなとか、いろいろ思われるからやらない」と言っているうちにやれなくなる。それはプロスクールでは解放してください。どうでもいいような話を何ヶ月もかけてやる必要はない。
他人がやる事業も自分が本当にやるならどうやってやるか考えて意見をする。コメントしない人間というのは会議に参加する価値がない。ここにはそういう人はいらない。
せっかく参加しているのだから真剣に議論してもらうことで、もっと面白いことができてくる。この後、個人の発表をやるが、それに対しても向き合い方を考え直して、今後のオンラインゼミに臨んでください。
幹事を決めたり、担当を決めたり、どういう形でやったら議論がもっと深まるのかというのをそこの段階から自分たちで議論して、チームのカラーを出してください。そのテーマをどういう方式で深めていくのか、チームの皆さんの中のそれぞれのスキルとか今までの経験を生かしてチームを盛り上げてもらえればと思う。
実際に一つでも形にしていくのが重要。だから、プロスクールの卒業生が100以上様々なプロジェクトを大小やっている。いいのもあれば、どうかなと思うものもあるが、やらないよりはマシ。
この後の時間を「他の人の発表だから適当に聞いていればいいや」じゃなくて、あなたはどう考えますかと質問されたらコメントできるような意思を持って聞いてもらいたい。
具体とかリアリティを感じるためにフィールドワークをしているはずなのに、まちで活動している人の具体を知ることが全くできなかったこと。そして、発表する内容も、「自分のお金を投資してここで事業をやる」という意識が欠如しており、リアリティのない上っ面なものになってしまったことを反省しております。
コーチから、都市経営課題に対するさまざまな視点について、アドバイスしていただいたのにも関わらず、それを発表に活かしきれなかったことからも、自分ごととしての意識が低かったためだと思います。
次回、11月に行われる秋季集中研修までに行われるグループワークにおいては、同じ過ちを繰り返さないよう、チームビルディングの在り方から見直すために、自分から率先して働きかけていきます。また、今後はグループ内で遠慮をせず、喧々諤々の議論ができるよう、自分として何ができるのかを常に考えながら行動したいと思いました。
全体をとおして感じたこと
今回の研修におけるフィールドワークの狙いは、まちづくりに必要な能力であるエリアをきちんと読み解いていく力と、このエリアはどうなっていったら面白いのかというビジョンをつくっていくための見立てを立てる力を身につけること。なぜなら、フィールドワークは、まちの未来を見通して、新たな事業を仕掛けていく上で、非常に重要な行為であるからです。
そして何より、フィールドワークは、自分のお金を投資して事業をやるという前提でまちを見なければ何も得ることができないと、まずは認識を改めるところから始めなければなりません。
また、まちを鋭く観察するために必要なのが、まちについての仮説をあらかじめ頭の中に入れておかなければならないということ。自分の頭の中に、仮説という「自分なりのまちを測る物差し」がないと、どれだけまちを歩き回っても、何をもって面白いとするのか、何をもって課題とするのか判断できません。自分の中の仮説を検証するために、まちに出て具体を探すので、さまざまな情報などを用いた定量調査をあらかじめ実施するのは最低限の作法だと認識しなければなりません。
ただし、そもそものインプット量が少なく、比較対象となるまちの情報が乏しいと、事前調査によって自分の頭の中に正しい物差しを用意できるとも限りませんので、自分の活動するエリアだけでなく、様々なまちへ自主的にフィールドワークを行ってインプット量を増やさなければ、フィールドワークから得られるものが少なくなってしまうことにも注意が必要です。
そして、その内容を相手に伝えるということは、「自分のお金を投資してここで事業をやる」という自分ごととして、相手に伝わる具体のあるリアリティを感じるものでなければ、ただの無責任な提案になってしまう。これはチームビルディングにおいても重要で、チームメンバーに自分ごととして意見できなければ、喧々諤々の議論もできず、事業内容がブラッシュアップできなくなることにも繋がります。
今回のフィールドワークを軸に、まちで事業を仕掛けていくための基本について、多くの気づきを得ることができました。ただ、本当に理解するためには、まずは使いこなせるようにならなければなりません。知行合一のとおり、学ぶことと実践することは一体であり、実践したことによるフィードバックをインプットしなければ本当の意味で学ぶことはできないことがよくわかりました。
今後は、自分のまちを歩き回ることから始めて、フィールドワークを日々実践することを習慣化し、自分なりに使いこなせるようになるところを目指します。
今回も、苦しいながらも、実りの多い時間となりました。
続いては、個人事業の発表です。こちらは一体どうなるのやら…。