「ビジネスを学びたければ、パーティーを開け」
留学時代、隣町のMITビジネススクールに通う友人が目をキラキラさせながら興奮気味に語ってくれた話が印象に残っている。MBA生向けの講演の質疑応答の中で、ある経営者がビジネスで成功する秘訣を聞かれた際に、以下のように答えたという。
「ビジネスを学びたければ、ケースを解くのではなくパーティーを開け」
多くのビジネススクールでは経営に関するケースを読み込み「あなたならどうする?」という問いに対して議論を重ねていく。卒業するまで2年間で500以上のケースを解き、知的擬似体験をひたすら繰り返していくのだ。
そんな「ケース500本ノック」よりも「パーティー500本ノック」の方がよっぽどビジネスを成功させるために必要な力が身につくという。
同じパーティーといえど、人が全く集まらないパーティーもあれば、長蛇の列ができ、バウンサー(バーの用心棒)に媚を売ってでも入らずにはいられないパーティもある。
あなたがパーティーを開いたら、どちらの結果になるだろうか?
人が集まらなければ、その原因を考え対処せよ。そして、50人規模のパーティーを成功させたなら、その資金をもとにもっと大きなパーティーを仕掛けろ。雪だるま式にパーティーをより大きく、より数多く広げられたのでならば商才を身につけたことになる、とその経営者は学生に語りかけたという。
僕が通っていたビジネススクールのゲストスピーカーでも「ケーススタディの限界」という意味で似たような話をした人がいる。賛否両論あるが、20世紀最高の経営者とも言われた元GEの社長ジャック・ウェルチ氏だ。
学生が「ビジネススクールで学んだことは、実際の経営で役立ちますか?」という質問を投げかけると、彼は以下のように答えた。
「NO(いいえ)」(と言って、1000人を超える学生を笑わせた上で…)
「まぁ、正確に答えると、戦略・マーケティング・ファイナンスなどの授業で学ぶ知識はさほど役に立たない。しかし、世界中から集まった優秀な同級生と共に切磋琢磨し、学んだ経験が君たちの自信に少しでも寄与するなら、その自信は極めて有用だ。人をリードするため、そして挑戦をするためには、最終的にはこの自信があるか否かが肝となる」
そして、彼は「Pick every ounce of confidence(1オンスも逃さず自信をつける機会を貪欲に求めていけ)」と言ってスピーチを締めくくった。
僕はこの2人の言葉に賛同する。パーティーにはビジネスのエッセンスが詰まっている。そして、この世の中に欠けているのは、経営知識を持った人材ではなく、絵を描き、リスクをとってでも果敢に挑戦し、人を率いる自信を持った人材だ。そして、この訓練は、大人になってからではなく、幼少期から始めるべきだ。
こんな想いから、僕らはデルタチャレンジというプログラムを子どもたちに提供している。リアルな挑戦の場数を積みながら、考える力・伝える力・リーダーシップなど21世紀型スキルを磨いてもらうプログラムだ。
「ケースを解くのではなく、パーティーを開け」とある経営者が語ったように、小学校1年生から実際にパーティーを開いてもらう。そして、幼少期からウェルチさんが言う「Pick every ounce of confidence(1オンスも逃さず自信をつける機会を貪欲に求めていけ)」の機会を与えるのが狙いだ。
「大人は手助け厳禁。さぁ、みんなで2ヵ月後にパーティーを開いて!」とミッションを伝えると生徒たちは「本当に自分たちで全部企画していいの!?」と驚き、楽しそうに、必死になって取り組む。(そんな生徒たちの姿はこちら↓)
パーティー企画以外にも「はじめてのお使い」、「チャリティーオークション」、「100人前スピーチ」など様々な挑戦の場数を積むプログラムとなっているが、これらについては、またの機会に紹介したい。デルタチャレンジ のプログラムを卒業した生徒たちが将来、みんなをワクワクさせるようなデルタ(変化)を起こすことを楽しみにしている。
なお、ジャック・ウェルチ氏が先日亡くなった。講演前に廊下ですれ違ったのだが、想像以上に小柄だった。そして、エネルギーと自信に満ち溢れていた。ピリッと糊がきいた白シャツに眼が覚めるようなピンク色のネクタイ。僕が「あっ」という表情をしたからか、彼はすれ違い様に朗らかな表情でウィンクをした。30万人に近い社員を治め、大ナタをふるって構造改革を推進した人物が持つ、これまで感じたことのないカリスマ性を感じた。まさしく彼が説く「Pick up every ounce of confidence」を人生を通じて実践したからこそ培られたものであろう。
ご冥福をお祈りします。