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21歳大学生 スタートアップ大国エストニアに1年住んだら人生180度変わった
これはスタートアップに関心もなければ、英語も話せなかった平凡な大学生が1年間でグローバルスタートアップカンファレンス「Takeoff Tokyo」のStartup Operationsの責任者になり、スウェーデン、フィンランド、中国、韓国、さらにはY CombinatorのW25バッチにいるシリコンバレーのスタートアップなどから日本進出したいと相談され、彼らを日本に連れてくるまでに成長したお話。の序章。
エストニア。人口約130万人。ロシアと国境を接する小さな小さなバルト3国の一国。恐らくほとんどの人が名前を聞いたことあるかも怪しいエストニア。旅行先に選ばれることは99.9%あり得ない。ましてやエストニアに住む物好きな日本人なんてほとんどいない。そんな小国エストニアの第二都市・タルトゥに2023年から2024の1年間留学していた。
現在はTakeoff Tokyoという東京ビッグサイトで2000人規模グローバルスタートアップカンファレンスを開催したチームに所属している。国内外から次世代の象徴となるようなグローバルアンビションを持つスタートアップを集め日本からグローバル、グローバルから日本というスタートアップの国際ハブになるべく、3/25-26に3度目の開催に向けて四六時中世界中のスタートアップとのミーティングに勤しんでいる。
スタートアップ大国エストニア留学の裏側
当時「エストニアに行く」と友人に伝える度に、必ずこの質問をされた。誰かは「どこそれ、エチオピア?」などと聞いてくる始末で、多分100人くらいに同じことを聞かれた気がするが、全くもって彼らの何故という疑問には同意見だ。自分でもなかなか癖の強い選択をしたと今でも思う。この決断にはいくつかの背景があった。
1 退屈な日本
2 一生住まないかもしれない国に行きたかった
3 英語を話せるようになりたかった
4 エストニアがIT・スタートアップで世界のトップクラス
退屈な日本
2022年。当時大学1年生、18歳の久保田健介は、18年間の人生の14年間はサッカーボールと共に過ごし、大学入学後、体育会サッカー部に入部した。「なんとなく、体育会4年間頑張って、なんとなく、所謂大企業に入って、なんとなく、30歳で年収1千万!!」みたいな漠然とした薄い人生設計を描き日々過ごしていた。そこから楽しい大学生活はあっという間に半年が過ぎ、あることに気が付いた。刺激。そう刺激が全くなかったのだ。中高大一貫校に通い、周りの友人は既に家族より過ごしている友人ばかり、大学からの友人は軒並みバイトやサークルに明け暮れる者が大半。良いとか悪いとかではないが、人生に刺激が全くなかった。そんなとき、このままみんなと同じように大学4年間を修了し、大企業に就職し、終身雇用で終わる人生が脳をよぎった。やばい。こんな人生退屈すぎる。そんな思いとは裏腹に、何をするわけでもなく、部活では怪我を繰り返し、チームメイトのサポートに徹する億劫な日々を過ごしながらも、どこか諦めを抱いていた。
そんな2022年、大学1年時、もう1つ億劫な出来事があった。それは毎朝ラジオから流れる円安のニュースだ。部活のオフに、ニューヨークでクリスマス&正月を過ごす旅行が計画されており、逐一為替レートを確認していた僕は、円安とともに膨れ上がる旅費予算に頭を悩ませていた。円安。失われた30年。なんとなく鬱っぽい空気が蔓延する日本社会。毎日往復2時間山手線と田園都市線で通学を繰り返して約8年。これ見よがしに舌打ちをして、仕事のストレスや満員電車のいらだちを露にするサラリーマンもいれば、疲労困憊し起きて立っていることもままならないサラリーマンもいる。刺激のない大学生活、疲労困憊して覇気のないサラリーマンの姿。まるで自分の残り80年の未来予想地図が目の前で繰り広げられているようで、日本オワコンじゃんとまで思った。早くどこか、どこでもいいから日本ではない所に行きたいと強く願ったのを今でも鮮明に覚えている。
一生住まないかもしれない国に行きたかった
幸いにも、僕が所属する学部は卒業条件に留学が含まれており、1年間の留学は既に決まっていた。そんな時、中学からの友人がヨーロッパに協定留学で行こうと考えていると教えてくれた。今まで、アメリカ、オーストラリア、イギリスの様な「THE 留学先」の様な典型的な留学先を思い描いでいた自分には、その選択肢はすこし冒険、に聞こえ興味をそそられた。その後、大学の協定留学に関するパンフレットに目を通していると、ある一つの国が目に飛び込んだ。エストニア。どこそれ。正直どこにあるのかも見当がつかなかった。名前も恐らく初めて聞いた。だけど、なんか面白そうで、興味をそそられ、調べてみると「電子政府エストニア」「スタートアップ大国エストニア」「ジブリの舞台エストニア」。次々と魅力的な記事が出てくる。このタイミングを逃したら恐らく2度と住まない国。旅行先の選択肢にも挙がらない国。ここに決めた。そこから、留学に向けて英語の勉強を今まで以上に頑張り、春休みの2ヵ月は部活以外は家で文字通り家に篭り英語の勉強をしていた。
英語を話せるようになりたかった
英語は昔から好きだった。英語アレルギーもなかった。だけど、壊滅的に英語が話せない。授業で発音良く話すクラスメイトがいると「なんだこいつと」か普通に思っていたし、海外かぶれとか多分一番嫌いだった。だから洋楽でTaylor SwiftとかOne Drectionとかしか聞かない人を見て、「仲良くなれない」とかも思っていた。しかし、エストニア留学を決め、協定留学受け入れ条件を満たすため、英語の試験IELTSを受験することになる。結果はと言うと、、、さんざんなものだった。ヘッドフォンから流れるイギリスアクセントは訛りを言い訳にできないほど理解不能で、単純に当時の久保田健介には早過ぎて脳がついていけなかった。1時間かけて挑んだアカデミックの長文は、半分以上理解できない。ライティングは悪くなかったが、後に待ち構えていたスピーキングで秒殺。「hi, nice to meet you. I am Kensuke Kubota」とテンプレートを必殺技の様に試験管の顔めがけてブチかまし、その後何を話したのかは一ミリも記憶にない。
そんなこんなで3か月間勉強をし、週1のペースでIELTSを受験すると20万円があっという間に財布から湯水のように出ていった。今考えても非常に痛い出費を繰り返し、なんとか要件を締め切り2日前くらいに満たした。勉強方法は毎日朝起きると「BBC 6minutes English」を聞き、シャドーイング。視聴する映画やドラマ、YouTubeから普段電車の中で聞く音楽まで英語に変え、晴れて僕もSwifties(Taylor Swiftのファンの愛称)の仲間入りだ。
2023年8月。遂にエストニアでの生活が始まった。どんな生活が待っているのか。期待と不安で入れ乱れたよくわからない感情とともに大学生活が始スタートした。待ち受けていた現実は正直言って地獄。何が地獄かというと、英語。全く分からない。言葉が出てこない。理解してないのに理解した振りをする。愛想笑いは120レベル。カンストもいいとこだった。周りは優しいから僕を知ろうと質問するが、途中からもう心から話しかけないでほしいと思うくらいきつかった。
しかし、日本から乗り継ぎ含め24時間もかけて辿り着いた北欧の地で、寮に引き篭り泣いている暇はないわけで、とりあえず毎日お酒を片手に友人と出かけては下手な英語を駆使し、わからないことは全部聞いてメモし、馬鹿の一つ覚えの様に20回連続で覚えるまで使用し、英語を感覚的に体に染み込ませた。別に元々英語が喋れたわけではない。本当に1から勉強して現在のレベルまで持ってきた。シリコンバレーから、フィンランドから、スウェーデンから、韓国からえくせとらのスタートアップを日本に連れて来られるまでに成長した。話を戻すと、エストニア留学が3ヶ月が過ぎた頃には、友人のサポートや自分の努力の甲斐もあり、快適に日常会話や冗談ができるようになった。6ヵ月も経つと、今まで理解不能だった授業が80%くらい理解できるようになったりもした。その辺りから、漠然と英語が出来るだけの人間ではなく、英語はあくまでツールで何かスキルを身に着けたいと意識し始め、インターンやボランティアを1月くらいから探し始めた。
エストニアがIT・スタートアップで世界のトップクラス
2024年1月。エストニア・タルトゥの街は年始から国内外から来た多くのスタートアップで活気に満ち溢れていた。どうやらsTARTUp Day という毎年1月にタルトゥで開催される目玉スタートアップイベントがあるらしい。何それ。美味しいの。本当にこれくらいスタートアップの知識がなかった。しかし、振り返ればエストニアを選んだ理由の一つは「電子政府エストニア」、「スタートアップ大国エストニア」であった。何となく楽しそう。そんな幼稚な動機でタルトゥで行われるイベントのボランティアに参加し始めた。既に起業していた友人は僕にハッカソン(Garage48)に出ることを勧めてくれ、ハッカソンなんかにも参加した。そしてここらへんから色々自分の将来のキャリアを真剣に考えるようになる。このハッカソンをきっかりに賞を二つほど頂き、Latitude 59というエストニアで最大のグローバルスタートアップカンファレンスに参加するチケットを手に入れた。そしてこのカンファレンスが僕の今のTakeoff Tokyoの活動に繋がっている。
スタートアップってめっちゃクールじゃん
Latitude 59
2024年5月22日。僕は部屋のベッドで考えていた。Latitude59に行くかどうかを。首都は自分の住む街からバスで2時間半。3日間のイベントと考えるとホテル代もバカにならないし、イベントに行く知り合いもいない。怠いから行くのやめようかなとか思っていた矢先、websiteでチケット代を確認するとおよそ€300(約4万5,000円)それを見た瞬間、現金なものでこんなラッキーな機会はないと思い、タリン行きのバスと2日分の宿を確保した。
迎えた当日、少し不安な気持ちを胸に、会場に赴くと独特の世界観が広がっていた。ビジネスカンファレンスとは思えない程陽気な音楽が流れ、エストニア人よりも国外から来ている人の方が多いのではないかというくらいの国籍の数。さらに驚いたのは、イベントの当日運営や会の進行を自分と同じ学生が担当していた。会場にはどこかお堅い雰囲気や年配の方で溢れる僕が勝手に想像していた典型的な日本のビジネスカンファレンスとは正反対に、グローバルで若いエネルギーで溢れていた。楽しい。5分くらい会場を回っただけで楽しいという感情で僕は満たされていた。近くにいたスタートアップや投資家に話しかけると、楽しそうに「君は何をしているの?」と聞いてくれる。学生かどうかは関係なく、真剣にそこでしか会えない世界中からくる人たちに興味関心を持ち、ビジネスに繋げようと資金調達や投資先を探す彼らの姿はもちろん、大量の海外からのデリゲーションを見て、これが未来が明るい国のビジネスカンファレンスなのかと本気で感動した。グローバル。若いエネルギー。そんなワクワクする空気で埋め尽くされた会場は驚くほど刺激的で、当時大学一年時私が求めていたものでもあった。このエネルギーを何とか日本にも持ち帰れないものか。そんな衝動に駆られ必死に調べた。「グローバル スタートアップ 東京 」 といかにもあほな大学生の検索方法だがこれで調べてみる。すると大量の投稿が出てきた。一つ一つ見ていくと全て同じカンファレンスに関するフィードバックやコメントだった。
日本の未来Takeoff Tokyo
これがTakeoff Tokyoを知ったきっかけ。全てのフィードバックは参加者がどれほどTakeoffを通してビジネスマッチメイキングが成功した、とか参加ボランティアのコメントで溢れていた。さらに、SNSのアカウントを見ても、半分程は外国人でボランティアや運営メンバーも学生を中心に構成されているではないか。
まさに自分がエストニアで見た姿。日本にこんな場所があるのかと興奮した。その後、よしみ(マーケティング担当のコアチームメンバー)にLinkedinで連絡をすると、Anttiとよしみと3人でミーティングをすることになった。それが2023年5月くらい。そこから6月の終わりにエストニアでの留学生活が終わり、そのまま日本に帰るかと思いきや、刺激に満ち溢れていたヨーロッパの生活から日本に戻るのはやはり憂鬱で、8月の終わりまで2ヶ月近く旅行し、7カ国10都市を回った。途中スペインで2週間ほどサマースクールに参加したのもいい思い出だ。
2024年8月。帰国して2日でAnttiに呼ばれイベントに参加し、Takeoff のコアチームメンバーとしての活動が始まった。ここから今に至るまでは皆さんの知る通りで、恐らくスタートアップ界隈でもトップ5に入るくらいには毎日イベントに行き、イベントに行くと顔見知りも増えてきた。ヘルシンキに行き本場のSlushも参加したし、Takeoff Tokyo、Venture Cafe、EY、 IVSという並びで話す機会や登壇の機会も増えてきた。学生が東京ビッグサイトで国内外からスタートアップや投資家を集め、数千人規模で運営するというと、少し懐疑的な反応が返ってくる。けれども、僕が見たエストニアやヘルシンキのイベントは若者が自分たちの国の未来は世界中から人が集まり、新しいテクノロジーやビジネスで溢れるワクワクする国になるべきだと、自ら社会を引っ張る若き社会起業家の集まりだった。
彼らにも出来るんだから自分たちが出来ないはずがない。3月25日と26日、東京ビッグサイトに世界中からスタートアップと起業家が集まります。多くの人に来てほしい、見てほしい、感じてほしい。こんな日本の未来が待っているんだという事実を。みんなで一緒にこのイベントを作り上げたいです。イベントまでもうすぐで30日を切ります。皆さん来てくれたら泣いて喜びます。100倍にして返すので是非!!
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