令和の時代に源平合戦が始まっている。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が好評だ。脚本はこれまでも「新選組!!」「真田丸」と大河ドラマでヒットを飛ばしてきた三谷幸喜。
三谷が描く大河は思わず笑ってしまう独特の軽みがあるので、ふだん時代劇を見ない層にも見やすい。歴史好きの三谷が本気で歴史エンタメをやってやろうという熱い思いが伝わってくる。
鎌倉殿とは鎌倉幕府を開く源頼朝(大泉洋)のことだ。主人公は後に第二代執権となる北条義時(小栗旬)。北条氏が源氏を支え、平家を打倒し幕府を開いていくまでを描く。義時は佐殿=頼朝や父、兄、姉(北条政子)など癖の強い登場人物たちの間に挟まれ困り顔で奔走する中間管理職のような立場で、世のサラリーパーソンたちの共感を得やすいだろう。
鎌倉殿の13人「スリルと興奮の幕府誕生物語」編(1分) https://movie-a.nhk.or.jp/sns/otU/n33824d7.html
まだ2話までの段階でもかなり面白いので、これからの展開が楽しみだ。こちらのドラマは源氏サイドから描かれた平安時代の話だが、実はフジテレビの深夜にアニメ「平家物語」が放送されていることを知っている人は少ないのではないか。これが1話目からとてつもないクオリティと素晴らしさなので是非見てほしいのである。
監督は「けいおん」や「聲の形」「響け!ユーフォニアム」「リズと青い鳥」などの山田尚子。京都アニメーションのエース演出家だったが、今回の「平家物語」がフリーとなって初の作品だ。
主演の「びわ」(琵琶法師)を演じるのは「魔法少女まどかマギカ」まどか役などの悠木碧。PVを見てもらえれば分かるが、彼女が平家物語の一節を琵琶の音色とともに語り始めた瞬間、一気に物語に引き込まれた。彼女の演技は現場でも絶賛されており、特番で櫻井孝宏や早見沙織といった実力派声優も称賛していた。今後も節目節目で彼女の「語り」は登場するのだろうが、本当に「平家物語」全編を悠木碧が語ってくれるなら、いくら出してもいいと思うほどだった。
この作品を見て真っ先に連想したのが、高畑勲監督の遺作「かぐや姫の物語」だ。興行的には振るわなかったが、批評家からは高い評価を受け、特に女性からの支持が高い作品だ(フェミニズム論壇でもよく使われる)。通常のアニメーションとは大きく異なる、輪郭を描かない独特の淡いタッチで描かれた絵は一枚一枚が絵画のようであったが、そのこだわりゆえに制作費と制作期間を予定より大幅に超過し、スタジオジブリに大赤字をもたらした作品となった。
実は高畑監督には「いつか平家物語を映画化したい」という長年の夢があった。「かぐや姫」も時代劇を描くための準備作品といった側面もあったのかもしれない。「平成狸合戦ぽんぽこ」でも「那須与一が海上の扇を射抜くシーン」があるので、高畑監督の平家物語への熱は本物である。
今回の山田尚子監督の「平家物語」を見て、高畑監督がやりたかったのはこういうものなのではないかという気がした。フジテレビが「大河アニメ」と宣伝していたが、その宣伝に偽りなし。できるなら12話ではなく24話かけてじっくりと描いてほしい。そして、深夜だけでなく幅広い人に見られる時間でも放送してほしい。アニメファンのものだけにしておくには実に惜しい作品だ。ふだんアニメを見ない人でもきっと楽しめると思う。
このように何の因果かわからないが、令和の時代に源平合戦を描いた作品が同時に2つも放送されているというちょっとした異常事態が起きている。なぜ今「平家物語」なのか。時代を反映している部分があるのだと思うが、それは全話見終わった時に分かるかもしれない。
今回、もうひとつ紹介したい作品がある。NHK大河ドラマ「平清盛」(2012年)である。10年前の作品だが、今見ても色褪せない傑作である(私のオールタイム・ベストドラマでもある。ドラマでBlu-rayBOXを買ったのはこの作品だけ)。
放送当時は「歴代ワーストの低視聴率大河」などと視聴率しか見ない無能なメディアに叩かれていたが、一方で熱狂的なファンを生み、「ドラマのTwitter実況」「Twitterへのファンアート投稿」などの文化を生んだのは、このドラマなのである。主演の松山ケンイチは自身のベストアクトとして、この作品を挙げており、今年1月の「あさイチ」でも平清盛について熱く語っていた。この作品での演技を超えられないとまで言っている。下の動画を見ていただければ分かるが、実際に全編異様なまでの迫力に満ちているものすごい作品だ。
ちなみにこの作品の脚本は藤本有紀。現在放送中の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」や「ちりとてちん」を手掛けた脚本家だ。「カムカム」にハマっている人は、ぜひチェックしてほしい。見ていない人は「カムカム」も「平清盛」も両方見てほしい。
2022年、令和の世に源平合戦に注目が集まる今、早すぎた傑作「平清盛」とともに3つの作品で源平の世に浸り切るのはいかがだろうか?
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