狂言『二人袴』の四 ようやく聟は舅と対面でござる
和ろうてござるか〜
新婚の弟を連れてその弟の妻の父親、すなわち
舅さまの邸宅へ
この兄と弟は色違いの段熨斗目と申す着物を着付け
正装に履く袴は弟の分のみ携えてまいりまする
さて舅宅へ着き弟に袴を履くように言い付け
兄は案内を乞うて弟の元へ戻りまする
袴を着けるのも一苦労でござる
弟はこの間に袴を着けようとはするものの
普段は履かない長い袴に驚き、腕を通したり体に巻きつけたりと
履き方が分からぬ様子
戻って来た兄に「履かいておくりゃれ」と投げ出し
「ムサとしたことを…」と、いいつつも
「この中へ足を入れさしめ」と手伝ってやりまする
何を思うたか兄の持つ袴に向かって跳び込もうとする弟
いったん戻らせ「左の足から、片足ずつ入れさしめ」
言われる通り左足から足を入れる弟
「さても、聟入りと申すモノは 難しいモノでござるな」
聟と舅、御対面
出かける前に約束した通り
兄が付いてきたことは言わぬように、訊かれた時は家人じゃと云うように念を押し
いよいよ聟入りのご挨拶でござる
聟「これは無案内でござる」
舅「これは初対面でござる」
この後の聟は急にしっかりしたことを申しまする
「早々参ろうずるところ、わたくしの無音(ブイン)の段な、これのおごうに免ぜさせられてくだされ」
兄の云う通りには応えてござるが
舅に労われたところでひと段落
すると
舅の太郎冠者が舅に
「申し上げまする、兄御様(あにごさま)もおいででござる」
舅は太郎冠者に兄御様も呼んで来いと申し付けるも
聟はあわてて「イヤあれは兄どもではござらぬ、あれはウチトの者でござる」
うまく凌いだかと思いきや
太郎冠者「イヤ!わたくしがヨウ存じておりまする」
この家の太郎冠者はしっかり者のようでござる
太郎冠者が呼びに行こうとするのを制して
聟は自ら兄の元へ「エェィ!みどもが呼うで来る‼︎」
履きなれぬ袴を引き摺りながら兄の元へ急ぐ聟
「イヤ申し申し兄さま、こなたにも出い、でござる」