狂言『因幡堂』ついに御対面が叶いまする
和ろうてござるか~
狂言の上演時間は短いもので10分足らず、長いと一時間を超すものもござるがそれも演じ手によって多少前後するものでござる
取り分け素人が演りますると狂言『因幡堂』の上演時間は10分から長うて15分を超えることもござろうか
おおかたシテの男のひとり喋りでござるによってせっかちな男でござればどんどん早うなってござる
中盤の盛り上がりどころの酒宴と申しましても、演出上女が黙ったままでござれば、謡を謡うことも、舞を舞うこともないまま進みまする
わたくしが演るならば、前半はたっぷりと見せ、女が家に来てからは調子を上げ、最後へ向けて残念な男っぷりを盛り上げていきたいものでござる
盃が済んでめでとうござる
観世音菩薩の御霊夢により授けられた
ご夢想のお妻様への期待が少し腰おられつつも
いよいよ対面となりまする
盃を三杯吞み干すあいだも小袖を頭から被いたままの女でござるが
いよいよ対面いたそうと申す男のことばに
大きくかぶりを振り、イヤじゃという仕草
いつまでもそのようなものを被いてはいられまいと
これから一緒に暮らすというのにそのままではならぬであろう
などと云い、いよいよ
「みどもが取ってやろう」と手を掛けるも
抵抗する女からようやく被いだ小袖をはぎ取ることができた男
さて御対面でござる~
いよいよ対面となり
正面向いて立つ女に向かって
静かに歩みを進める男、真横に着くとゆっくりと顔を挙げて…
女の顔を見るや、驚きの表情で後ずさってござる
なにもなかったかの如く立ち去ろうとする男に
ヤイわおとこ!
腰を抜かす男に
親里へ戻った隙に暇の状を送り付けたことを詰れば
あれはお前の安否を問うた文じゃと、苦しまぎれの返答でござる
そのあと余念もなく因幡堂の観世音菩薩に妻乞いの祈誓を掛けたと叱れば
あれもお前が息災なように祈誓を掛けたのじゃ、と言い訳にもならぬようなことを云いまする
このあとはお決まりのごとく
許いてくれい!許いてくれい!!と逃げる男を
「あの横着者、誰そ捕らえてくれい!、やるまいぞ、やるまいぞ!!」と女が追う、”追い込み留め”で終幕でござる
結局破れ鍋にとじ蓋であろうかと…
男が暇の状を送り付けて離縁するなど
この時代の常識にあったかどうかは存じませぬが
こんな思いやりのない男でもこれほど腹が立つと申すこの女のほうには
思いやりがあったと感じまする
因幡堂にて通夜する男の邪魔もできたでござろうが
いったん新しい妻を授けると観世音菩薩の振りまでし
その新しい妻として自分が成りすまそうというのでござる
男を罰したい気持ちもあれど、この追い込みの果ては
再び大酒を呑む女と暮らす男が見えるようでござる