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建設DX研究所 交流会レポート(前編)~災害対応時のスタートアップ技術の活用~

はじめに

みなさん、こんにちは。
12月5日に、建設DXのさらなる推進に向けた交流を図ることを目的とした「建設DX研究所 交流会」を開催しましたので、その様子を前編、後編と2回に分けてダイジェストでお届けします!
建設DX研究所は2023年1月の任意団体としての発足以降、情報発信や勉強会、政策提言を中心に建設DXの推進に向けて活動してまいりました。今回の交流会では、大手建設事業者・建設テックスタートアップ・国土交通省・学識経験者・学生などにお集まりいただき、70名以上の方に建設DXの最前線を体感いただく機会となりました。

交流会 プログラム

まずはじめに、建設DX研究所 代表の岡本杏莉より建設業界の直面する課題や外部環境の変化等を共有するとともに、建設DX研究所の活動概要を紹介いたしました。また、建設DX推進にはスタートアップ・大手含む建設事業者・官公庁・アカデミアなどとの垣根を超えた連携が不可欠であること、本交流会が建設DX推進にむけた新しい学び・発見や交流の場となってほしいといった、本交流会開催の趣旨をご共有いたしました。

建設DX研究所代表 岡本杏莉より挨拶

続いて、国土交通省 住宅局 参事官付 建築デジタル推進官の藤原健二氏より「建築分野におけるDXの目指す方向性」と題して、建築分野におけるDXについて国土交通省の取り組みを紹介いただきました。BIMデータ審査、建築確認のオンライン化の推進をはじめとした取り組みについてご紹介いただいた他、多様なデータを連携・活用できる社会に向けた産学官の連携の重要性についてもお話いただきました。

国土交通省 住宅局 参事官付 建築デジタル推進官の藤原健二氏より講演

その後、建設テックスタートアップ3社より「災害対応時のスタートアップ技術の活用」、大手建設事業者2社より「スーパーゼネコンにおける建設DX~設計・施工における最新事例~」と題して、パネルディスカッション形式のセッションを行いました。
建設DX研究所 交流会レポート(前編)の本記事では「災害対応時のスタートアップ技術の活用」をピックアップして様子をご紹介できればと思います。

「災害対応時のスタートアップ技術の活用」

今回このテーマを取り上げるきっかけともなったのが、今年1月に発生した能登半島地震です。11月26日にも最大震度5弱の余震が発生するなど、まだまだ油断できない状況であり、復興の道のりも険しいものがあります。
能登半島地震における災害発生後の初動や復興の現場、またその他の風水害等の発生時などにおいて、迅速な情報共有や、人材・資源の最適化が不可欠であり、そうした場面における新しい技術の活用はもはや必須と言えるのではないでしょうか。
本セッションでは、災害対応時における建設DX、スタートアップ技術の活用状況やその可能性について、建設DX研究所のスタートアップ3社よりお話しいただきました。

登壇者は
・株式会社 アンドパッド 社長室 コミュニティマネージャー 兼 ANDPAD ONE 編集長 平賀 豊麻 氏
・セーフィー株式会社 経営管理本部 サステナビリティ推進部長 中内 陽子 氏
・株式会社 Polyuse 代表取締役 岩本 卓也 氏
の3名です。

まずは、登壇された各者より自社の取組みや具体事例についてご紹介いただきました。

①株式会社アンドパッド(登壇者:平賀 豊麻)
株式会社アンドパッドは、クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を通して建設業界のDX化を推進しています。平賀氏からは、「有事の際にもスムーズな情報連携が図られるためには、DXツールを平時から活用していることがとても重要な役割を果たす」との認識のもと、ANDPADが災害復興にどのように貢献できるのかについて、2つの事例をもとにお話しいただきました。

まず初めに、雹害(ひょうがい)発生時におけるリフォーム企業でのANDPAD活用事例をお話いただきました。
2022年、埼玉県北部を中心とする北関東地域では広範囲にわたる降雹により、多くの建物が被害に遭いました(上里・北関東集中雹害)。同地域にあるこのリフォーム企業には、雹害発生直後の短期間に800件もの問い合わせが殺到したそうで、被害状況を迅速に把握することが喫緊の課題だったそうです。
通常ならば、被災地全体の被害状況を調査するためには人力による現地調査が必要で、多大な時間と労力がかかってしまうものだそうですが、このリフォーム企業では平時からANDPADを施工管理に活用していたことから、雹害発生直後にもANDPADを活用して情報共有を行われました。平時の何倍もの写真や対応履歴情報などを、雹害直後でも会社全体で共有することができ、苦労しながらも迅速な対応を可能にしたそうです。
副次的に、このリフォーム企業の地域からの信頼感が一層強まり、その後の受注にもつながったというお話もありました。

※こちらの事例について、詳しくは下記記事にてレポートされております。

次に、能登半島地震における、地元の解体事業者の事例をご紹介いただきました。
この解体事業者では、本来の業務である解体の現場においても、ANDPADを活用され、日頃取り組んでいたDXの成果を発揮されているとのこと。能登半島地震では、被災した建物を申請に基づき市町村が所有者に代わって解体・撤去する制度(公費解体制度)が実施されており、地元の解体事業者の方々がその業務を担われているそうです。公費解体の対象となった家屋等は32,410棟にも上り、被災から約1年が経過した今でも21,390棟の家屋等の解体が残っている状況です(R6.11月時点)。
この解体事業者では、自治体から委託を受けた公費解体を進めるプロセスの中で、ANDPADを通してステークホルダーとの迅速で漏れのない情報共有を行うことで、効率的に復興工事を進めることができているそうです。解体申請者とともに解体現場に立ち会い、申請者からの「家の中にある大事なものを見つけて取っておいてほしい」などといったヒアリング記録を、ANDPADのクラウド上にアップロードし、関係者間で共有することで、その後の協力会社による解体工事着手へもスムーズに移行できているそうです。
また、公共の委託事業であることから、廃棄する際には搬出記録の提出が必要とのこと。ここではANDPAD黒板機能を活用して効率的に写真台帳を整理するなど、事務所業務の遂行にもDXツールを役立てているそうです。この解体事業者も、平時からANDPADを協力会社との情報共有ツールとして使いこなしていたからこそ、災害後のような混乱した状況下でもDXツールの効果を発揮させることができ、今現在も公費解体を進められているとのことです。

能登半島地震 家屋被害の様子(左)公費解体の様子(右)

②セーフィー株式会社(登壇者:中内 陽子)
セーフィー株式会社は、クラウドカメラを活用した防災DXを推進されており、「家から街までをデータ化し、インフラとし、あらゆる人やモノの意思決定に役に立つプラットフォームに」をビジョンに掲げています。
セーフィー社のクラウドカメラは、災害発生時の状況把握、情報共有、復旧活動支援などに活用されているそうです。具体的な事例としては、能登半島地震地震発生後にクラウドカメラを含む映像資機材の支援を実施されたとのこと。支援物資を運ぶ際などに事前にカメラで道路状況を確認し、混雑していないルートを選ぶことで、迅速な物資提供を支援されたそうです。また、道路の混雑状況や損傷状況、復旧状況などを関係者間で共有することで、早期復旧のための情報提供にも寄与したとのことでした。

その他にも、横須賀市消防局と連携し、災害現場と指令センター間での情報共有、消防活動の事後検証、教育資料としての映像活用などを行っているとのこと。また、新潟県村上市とは「災害時における映像資機材等の供給支援に関する協定」を締結し、令和4年8月豪雨の被災地へのカメラ設置や防災訓練での活用を進められているそうです。

防災DXにおける今後の課題として、災害対応スピードの向上や多様化するニーズへの対応、平時からの備えの重要性を挙げられていました。

③株式会社 Polyuse(登壇者:岩本 卓也)
国内では唯一の建設用3Dプリンタメーカーとして、国内3Dプリンタ施工シェア約90%を占める株式会社Polyuseは、災害現場復旧工事への3Dプリンタの活用を推進されています。
まずは3Dプリンタの建設業への活用について、従来の工法との比較からご説明いただきました。

従来の現場打ちとプレキャストは、それぞれにメリットとデメリットがあるとのこと。建設用3Dプリンタは、現場打ちのように自由な形状をプレキャストのように誰でも簡単に作製することができ、施工現場の省人化と工期短縮を実現できるそうです。
活用推進のため、国土交通省や地方自治体、民間企業など、様々な工事発注者と連携して建設用3Dプリンタの活用事例を積み重ねているそうです。例えば、山形県新庄市の落石の災害現場復旧工事において、建設用3Dプリンタを活用することで従来工法と比べて工期を約半分に短縮し、工数も100人日以上削減することに成功したという事例をご紹介いただきました。

能登半島地震の復興工事においても国土交通省と連携をとりながら、特殊な形状への対応力などといった3Dプリンタが得意とする面から継続的に支援をされており、施工はこれから本格化していくとのことでした。

後半は各社の発表を踏まえ、2つのテーマでディスカッションを行いました。
1つはスタートアップ技術を震災後速やかに導入できた理由についてです。
平賀氏からは、平時からANDPADを使用することで地域の建設事業者にDXを浸透させることが重要であるとのお話がありました。例えば、ANDPADというデジタルツールが災害発生後の混乱した状況の中で活用されるには、平時から使い慣れておく必要があるとのこと。実際に能登半島地震の地域においても、社員の安否確認など初期の連絡ツールとして機能したり、協力会社間との連携手段として活用されたりした背景には、平時から真剣に建設DXに取り組まれていたことが大きく関係しているとのことでした。
中内氏も、今回の能登半島地震の事例も普段から関係値を築いてきた経緯があったことから、平時からの関係構築の重要性を感じたとのことでした。行政にとってもカメラで撮影した画像が蓄積され、必要な時に確認するなどの活用が進むことで、意思決定の速さにつながるというメリットを実感してもらいたいと話されていました。

岩本氏は、現場でモノを作るという観点から、平時から実例がないと初動が遅くなると断言。実績を積み重ねることで災害時に事例を引き出し、検証不要で行政や事業者に提案できるとのこと。何より、そのためにはすぐに相談してもらえる人間関係が大事とも話されていました。

もう1つのテーマは関係省庁や自治体など行政との連携のあり方についてです。
自治体と協定締結されてるセーフィー社ですが、中内氏によると、具体的なユースケースを通じてメリットを共有できれば、自治体側も平時からのDX化に動きやすくなるのではとのこと。メリットを理解したうえでデータ活用の仕組み化を促し、EBPMのための根拠とすることで、事業策定やそれにともなう予算編成にもつながるのではないかとのことでした。また、能登半島地震の事例のように、行政からファーストコールをもらえるようなユースケースの共有や関係値構築を継続したいとのこと。
岩本氏からは、行政との日常的な連携を基盤に、新技術を積極的に導入しつつ、「よく分からない新しい技術だから」という理由で敬遠されないための説明や協議を重視しているとのお話がありました。普段の施工見学会も活用し、関係者との信頼構築を進めているそうです。
平賀氏からは、当たり前だが行政は発災時すぐにデジタル化に対応することは困難さが伴うとのこと。従前から自治体と連携し、地域での災害対応スキームを整備しておくことが重要であるとされた上で、2年単位で異動のある自治体関係各者と継続的に取り組みを続けていくためには民間サイドにもリーダーシップが必要であるとお話されていました。

こういったスタートアップ各社の取り組みは単独ではなく、掛け合わせることで、地域全体のDX推進を加速し、平時から災害時まで一貫した対応力を強化するのではないかとのお話もあり、スタートアップ各社による連携の必要性についても再認識することができました。

建設DX研究所 スタートアップ3社によるセッション
(左から(株)アンドパッド平賀氏、セーフィー(株)中内氏、(株)Polyuse岩本氏)

おわりに

いかがでしたでしょうか。初めての大規模イベントとして事務局としても緊張のスタートでしたが、建設DX研究所に参画するスタートアップ各社のセッションにより場の緊張も徐々に和らぎ、後半では登壇者同士での活発な意見交換が行われ、スムーズな走り出しとなったのではないかと思います。
後編では「スーパーゼネコンにおける建設DX~設計・施工におけるDX最新事例~」についてレポートします。ぜひお読みいただけると嬉しいです。

建設DX研究所では、今後もこうした勉強会・定例部会を定期的に開催していくほか、情報発信・政策提言等の活動も実施していきます。 建設DX推進のためには、現状の建設DX研究所メンバーのみではなく、最先端の技術に精通する建設テックベンチャーをはじめ、数多くの事業者の力・横の連携が不可欠だと考えています。 建設DX研究所の活動・定例部会などにご興味をお持ちいただける方は、ぜひプレスリリースを御覧いただき、お気軽にお問合せいただけると嬉しいです。



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