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比例代表制による議席試算

先に私が書いた新憲法試案の中では、国会議員の選挙制度として単独比例代表制を提案した。ここでは、その制度によると各党がどんな議席配分になるのか、2021年衆議院総選挙のデータに基づいて試算してみることにする。私の試案では総定数200議席の「ブロック単位非拘束名簿式比例代表制」を採用した。以下にその条文を引用する。

 

第72条(1)国会は一院制とし、国民から直接選挙された議員で組織する。

(2)国会議員の定数は、200名とする。

第73条(1)国会議員は、各道及び都を選挙区として選出される。

(2)各選挙区の定数は、5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、比例配分される。

(3)各政党は、選挙区ごとに順位をつけない候補者名簿を提出する。無所属の候補者は、1名で1政党とみなす。

(4)選挙権を有する者は、候補者1名に投票する。候補者への投票は、その所属する政党への投票とみなされる。

(5)各選挙区内の各政党の議席数は、各政党の得票数に基づき、比例代表の原則で配分される。

(6)候補者は、選挙区ごとに、その所属政党に配分された議席数の内で、個人名得票の多い順に当選とする。

 

・・・・これから、この方法に基づいて、試算してみる。ただし、選挙区の区域は、私の試案による道州制の区分け通りではなく、現行の衆議院議員比例代表選出の11ブロックをそのまま利用した。区分けを変えると計算が複雑になるし、現行の11ブロックで試算しても、全国で合計すれば、だいたい同じような結果になるからである。

 

1,総定数200を各ブロックに配分する

 

まず、2020年の国勢調査の結果に基づいて、総定数200を11ブロックに比例配分する。データ資料は全て、総務省のホームページから利用している。比例配分の方法には色々あるが、ここではアダムズ方式を使う。アダムズ方式は現在、衆議院総選挙の小選挙区定数を各都道府県に配分するときに使われている。アダムズ方式とは、以下のような計算方法である。

(1)各選挙区の人口をある一定数 X で割り、商の小数点以下を切り上げてそれぞれの定数とする。

 (2)各選挙区の定数の合計が総議員定数と一致するように X の値を調整する。

(アダムス方式による議員定数配分アプリから引用)

・・・・各ブロックの人口を「ある一定数Ⅹ」で割るのだが、合計が総定数200と一致するように調整してみたら、Ⅹを650000としたときに、合計がちょうど200になった。その比例配分の結果は、(表1)の通りである。



(表1)


・・・・現行の衆議院比例代表選出議員の総定数は176議席だから、これはそれよりも24議席多い。なので、各ブロックの定数は、現行よりも少しだけ多い数となっている。



2,ブロックごとに各政党へ議席配分する


次に、2021年衆議院総選挙の比例代表選出議員の得票結果に基づいて、ブロックごとに、各政党への議席配分を決める。これも総務省のホームページにあるデータを使用する。ここでは、ドント方式という計算方法で比例配分する。ドント方式は現在、衆参両院の比例代表選出議員の各政党議席数を決めるのに使われている。ドント方式は、各政党の得票数を1から順に整数で割っていき、その商の大きい順に議席を与える、という計算方法である。

ちなみに、このドント方式は、先ほどのアダムズ方式と比べて、大政党に有利な結果となる。アダムズ方式を選挙区への配分に使うと、地方の人口の少ない地域に有利になる。つまり自民党は、自分が地方の農村で強いので、少しでも自党に有利になるように、選挙区への配分はアダムズ方式にして、選挙区内の政党への配分はドント方式、というように「使い分け」をしたのである。よくもまあ考えたものだ。


以下に、各11ブロックの試算結果を記す。



(表2)


(表3)


(表4)


(表5)


(表6)


(表7)


(表8)
(表9)


(表10)


(表11)


(表12)


・・・・各ブロックの政党別議席数を全国で合計したのが、下記の(表13)である。参考として、全国一区でドント方式による配分をした場合の試算を、表の右端に記載した。


(表13)


3,結果の分析


 この議席試算の結果から、以下のことが分かる。


(1)各政党の全国得票率と議席率を比べてみると、大政党にやや有利になっている。例えば、自民党の得票率は34.66%だが、議席率は40%となる。これに対して、れいわ新選組の得票率は3.86%だが、議席率は 2.5%である。社会民主党は得票率1.77%であるが、議席はゼロである。これは、選挙区の単位が11ブロック別なので、各選挙区の定数が少なくなるためである。もしこれが全国一区の比例代表だったら、自民党は9議席減って71議席(議席率35.5%)となり、社会民主党は3議席(議席率1.5%)を獲得する。もし各政党の得票率をできるだけ鏡のようにそのまま議席率に反映させたいのなら、全国一区にするのが良い。しかし、小党乱立を防止して政治を安定させたいのであれば、ブロック単位が良い、ということになる。ドイツの比例代表制には「5%条項」というのがあって、得票率が5%未満の政党は議席を獲得できない。もしこれをこの試算結果に適用すると、国民民主党や、れいわ新選組などは議席がゼロになる。しかしこれでは、小政党が納得しないだろう。やはり、単独比例代表制にするなら、ブロック単位が受け入れやすいのではないだろうか。

 

(2)今の与党である自民党と公明党の議席を合わせると106議席(議席率53%)となり、総定数200の過半数101を超える。つまり、単独比例代表制であっても、今の与党連立政権は維持できる、ということである。自公連立は、1999年から2009年までの約10年間、そして民主党政権の3年余りを除いて、2012年から現在までの約10年間、合計20年も続いている。自民党が単独過半数を維持できるようになっても、公明党との連立はそのまま続けている。日本において、連立政権というシステムは定着し、安定していると言えるだろう。これなら、小選挙区比例代表並立制ではなくて単独比例代表制にしても、連立政権で十分安定するのではないか。そして議席配分も、今のように与党の取り過ぎではなく与野党伯仲になって、政権交代への緊張感が生まれるだろう。「比例代表制にすると小党分立で政治が安定しない」という意見があるが、実際にはそうでもない。ヨーロッパの大陸諸国で比例代表制を導入している国のほとんどは、連立政権である。連立交渉に時間がかかるが、連立与党内で政策調整が行われるので、互いにチェック機能が働く。ドイツやオーストリア、北欧諸国などでは、連立政権でもそれなりに安定した政治が行われている。「比例代表制は政治が不安定になる」という固定観念を捨てて、日本でも単独比例代表制の導入を議論すべきだと考える。

 

4,比例代表制に対する誤解

 

今回の議席試算とは直接関係ないが、比例代表制に対する批判や誤解が他にもあるので、ここで論じておきたい。比例代表制の短所として、以下のように言われている。

 

政党の幹部に権力が集中しやすくなる。

特に名簿式では議員と選挙人との間に政党が介在することから、議員と選挙民の関係が希薄になり親密さを欠く。(選挙の直接性の問題)

(ウィキペディア「比例代表制」から引用)
 

・・・・しかし、これは今の衆議院の比例代表選出で使われている「拘束名簿式」にあてはまる欠点である。拘束名簿式では、政党幹部がリストの順位を決める。順位が上に決められた候補者は、何も選挙活動をしないでもそのまま当選してしまう。しかし私の試案は「非拘束名簿式」であって、政党名ではなくて候補者名で投票する。これなら、有権者は候補者一人一人の意見や人格を見て選ぶことができる。また、無所属での立候補も認めているので、候補者は政党に頼らなくても一定の得票数があれば当選できる。こうすれば、候補者は政党幹部の顔色を伺うのではなく、有権者からの支持を第一とするだろう。それから、今の参議院の比例代表選出方法も非拘束名簿式であるが、そこでは政党名と候補者名のどちらかを記入する。なので、ある党の候補者は少ない票でも当選し、ある党の候補者はそれよりずっと多く得票したのに落選する、ということが起こる。でも私の試案では候補者名だけに投票するので、当選ラインはほぼ同じになる。とにかく、比例代表制は、やり方によって色々と改善できる余地がある。比例代表制の一番の利点は、死票が少なく、民意をより正しく公平に反映させることができる、という点である。意見や価値観が多様化している現代の日本社会に適していると言えるだろう。

 

 

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