心疾患と口唇口蓋裂の息子 おぎゃーの日
こども病院に入院しながら来る日も来る日もエコーをしました。産婦人科の先生をメインに、いろんな科の先生が、かわるがわる来てはぐるぐる無言のエコー。私も無言。
赤ちゃんになんらかの心臓疾患と口唇口蓋裂があるのは間違いないが、出産が近づいてからもろもろ伝えます、とのことで、入院中の3週間弱は疾患に関して新しい情報はありませんでした。
こっちも、早く知りたい!どころか、人と喋る元気もないし、この不安は不確定な情報では拭えないし、先生が無言を貫いてくださり助かりました。
2週間もすると、入院生活にほとほと疲れてきて「カロリーのある食べ物の買い食い禁止」「病棟から出るの禁止」を破って、1階のコーヒーショップでデカフェのカフェラテを買って、病院の玄関を出てすぐ隣のベンチでくさくさしながら飲むという、1日15分の不良妊婦をやるようになりました。
そんな中、神様がちょっとご褒美をくれました。夫がお見舞いに来てくれたので、またベンチでデカフェラテの不良妊婦をしながら入院の愚痴を吐きまくっていると、遠い向こうの方から、後光指すメガネの美女があらわれました。それは女優のあのお方でした。
ま?!まぶしい!!あまりの美しさに一瞬で全てを忘れて幸福に満たされ、何も気づいていない夫の肩をバンバン叩きました。やはりテレビに出る人たちは一瞬で人を幸せにする力があるんだなぁと、私の汚泥レベルのくさくさカフェラテタイムが救われたのでした。
そしてとうとう、おぎゃーの瞬間が来ました。
帝王切開なので予定日が設定されていたものの、それより5日も早く陣痛が来たのでバタバタっと出産になりました。
出産前に診察結果を教えてもらうことになっていたため、3人ほどの医師+看護師がとんで来てくださり、可能性のある疾患が伝えられました。心臓疾患と口唇口蓋裂以外にもずらずらとあり得る可能性が並べられ、その場の空気がどんどん深刻さを増した最後、
「睾丸ホニャララ小ホニャララです」
「つまり、ペニスがとても小さいかもしれません」
と言われ、ブーと吹き出しそうになりました。心臓の異常、口の奇形の次にペニスの小ささはどーでもえーわーい!と。今思うと、つまり赤ちゃんの生殖能力に問題があるかもという深刻な意味だったんだろうと思いますが、その時は大喜利にしか聞こえませんでした。
その後、まな板の牛の気分で手術室に運ばれ、先生や看護師さんの華麗な連携プレーを目の当たりにしながら、下半身麻酔なので意識はバッチリある中お腹を切る感覚や、産まれるという事実!など、初体験の詰め合わせでパニックから自分を落ち着かせるのに必死になっていました。
不思議だったのは、赤ちゃんがお腹から出た瞬間、時を止めたような静寂が一瞬、おとずれました。
「産まれましたよ!」とその次の瞬間、先生がカーテンの向こうからにゅっと赤ちゃんを見せてくれて、私は無意識に泣きながら「大丈夫だからね、大丈夫だからね」と繰り返していました。それも30秒くらいで、息子もまな板の上の金魚の様相でNICUに直行し、私は泣きながら先生に「ありがとうございました」と言っていました。よかった、ありがとう、よかった、全てもう大丈夫なんだという絶対的多幸感に包まれました。
出産体験は他に変えがたいとは聞きますが、確かにそうでした。