「小さいiPhone」と「足の速い馬」~ "顧客の声"の本質を探る
弊社(スペクティ)の社内ではプロダクを開発するとき、しばしばこの「小さい"iPhone"」と「足の速い馬」の話をする。
2021年発売のシリーズ13を最後に廃止になった「iPhone "mini"」。
iPhone miniは「小さいiPhoneが欲しい」という多くのユーザーの声を受けてた誕生したもので、筐体のサイズとしては2012年に登場した「5」及び翌年の「5s」と同じ大きさ、画面サイズは「6/6s」と同じ4.7インチの"小さな"iPhoneである。
iPhoneはシリーズ6以降、画面の巨大化が進み、現在発売されているiPhone 14シリーズは画面サイズが6.1インチ~6.7インチ。Androidスマホも同様に大きな画面の端末が主流となっている。
スマホが巨大化する一方で、2016年のCNETの記事によると、画面サイズの大きい「iPhone 6」シリーズの発売以降、手のひらサイズの小さなiPhoneを望む声は大きくなり、筐体のサイズが比較的小さい「5/5s」シリーズからの乗り換えがなかなか進まない状態が続いていた。
当時のCNETのアンケートでも、現行のサイズの大きいiPhoneと、サイズの小さいiPhoneのどちらを好むかと聞いたところ、「小さい方」を支持した人が圧倒的に多い結果となっていた。
【参考】「iPhone」は小さいほうが好き? - CNET Japan
失敗に終わった「小さいiPhone」
「iPhone mini」は、そんな「ユーザーの声」を受けて、満を持して登場したプロダクトだった。
しかし、多くの支持を受けて開発されたはずの「iPhone mini」は、発売当初から厳しい船出となった。
発売後しばらくして、iPhone miniの販売不振のニュースが伝えられるようになり、新製品を紹介するブロガーからも厳しい記事が飛び交うようになった。その後も販売不振は解消されず、iPhone miniはシリーズ14からはその姿を消した。
当然、Apple社も開発前に様々調査を行い、多くのユーザーの声を集め、まさにニーズを捉えて開発したはずの「iPhone mini」であったが、結果は「ユーザーの声」とは真逆となってしまった。
「足の速い馬が欲しい」
「人々に何が欲しいかと聞いたとしたら、彼らは『もっと足の速い馬』と答えただろう」・・・これは自家用自動車を世界に広めたフォードモータースの創業者ヘンリー・フォードの言葉である。
馬車が主要な交通手段だった時代、自動車を知らない人々は自動車を作ってくれとは決して言わない、人々は足の速い馬の馬車を要望し、そして馬車事業者もこぞって「足の速い馬」を手に入れることにやっきになった。
顧客の声の本質
「足の速い馬が欲しい」・・・これは確かに顧客の声であり、顧客のニーズである。しかし、果たして本当に顧客が解決したかった「課題」なのだろうか?
顧客が本当に求めていたものは「足の速い馬」ではなく、「目的地にできるだけはやく移動すること」である。「はやく移動すること」を解決できれば、それは馬でなくても良い。
iPhone miniの失敗も「足の速い馬」と同じだったのではないだろうか。顧客が本当に求めていたことは、「小さいiPhone」ではなく、「持ち運びしやすい」「手が小さくても操作しやすい」そう言ったiPhoneだったのではないだろうか?
iPhoneをはじめとしたスマートフォンは当時画面の巨大化が進んでいった。
スマホでやれることがどんどん増えていき、動画配信なども活況となり、画面が大きい方がメリットが大きく、ニーズにも合っていた。
一方で、筐体サイズもどんどん大きくなった結果、ポケットに入りづらいなど携帯性が悪くなったり、片手操作が難しくなったりしていた。
そんな中で出てきたのが「小さいiPhone」を求める"顧客の声"である。でも人々は本当に「小さいiPhone」を欲していたのだろうか?
実際は、"携帯性"や"片手操作"の問題を解決できれば、画面は大きい方が良い、画面が大きい方がお気に入りの映画もiPhoneで楽しめるというのが本音だったのではないだろうか。
顧客の声の裏側にある「本当の課題」を探る努力
人は今あることの延長線で物事を想像する。馬車で移動している人が、早く目的地に着くためには「足の速い馬」が欲しいという。でも、その裏には必ず本質的に解決しなければいけない「課題」がある。
顧客が言ったことをそのままプロダクトにしても、実は何も問題解決になっていないことは多い。その声の裏側にある「本当の課題」を見つけ出し、その課題を解決するプロダクトを提供しないと顧客は買ってくれない。
「顧客の声」を分解し、顧客が本当に解決したい真の課題を見つけること、スペクティではこれを徹底的に行うように心がけている。真の課題を見つけるまでは何時間でも時間を使う。真の課題を見つけ出し、それを解決することで顧客に本当の価値を提供できると考えている。
筆者について
村上 建治郎 / 株式会社Spectee(スペクティ)代表取締役CEO
米ネバダ大学理学部物理学科卒、早稲田大学大学院(ビジネススクール)修了 MBA / 防災士
ソニーグループにて、オンライン・デジタルコンテンツの事業開発を担当。2005年米医薬品開発会社Charles River Laboratoriesに入社し、日本企業向けマーケティングに従事、2007年シスコシステムズに入社、パートナー営業などを経験。2011年東日本大震災の発生直後から災害ボランティア活動を続ける中で、被災地からの情報共有の脆弱性を実感。被災地の情報を正しく伝える情報解析サービスの開発を目指し、ユークリッドラボ株式会社(現・株式会社Spectee)を創業。著書に『AI防災革命』(幻冬舎)
https://spectee.co.jp
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