【小説】 桜の奏で その1
その1 埼玉県行田市にある埼玉古墳公園は広い。巨大な古墳に囲まれた上に、大きな空がある。
その空に向かって赤く彩られた西洋凧が強い風に煽られ、高度を上げ下げしながら舞っていた。
首に巻いたマフラーの緩みを直してから塚本裕樹は、西洋凧から視線を切って辺りを見渡した。空には茜色が浸食し始めていた。前方後円墳が並ぶ公園で散策やボール遊びにふけっていた人たちは、すでに、帰路を取りはじめていた。凧を見る子供たちの好奇心はすでになかった。
「もう、帰っても、いいあんばいだね」風が冷