学び方改革と学ばせ方改革の違いとは?LMSの導入における留意点
LMS導入の目的は、学ばせ方改革、それとも、学び方改革?
LMS(ラーニングマネジメントシステム)を導入するとき、その狙いは2つの方向があると理解しています。
一つは、学びの教材(コンテンツ)をデリバリーする業務プロセスを効率化するために新たにシステムを導入すること。もう一つは、学び方を変えるために新しいソリューションを導入すること。
この両者の違いを区別するために、前者はシステム、後者はソリューションと言葉を使い分けたいと思います。
前者は学習コンテンツを用意して受講させる側のオペレーションを改善し、効率化するのが目的なので、コンテンツ・ディストリビューションのプロセスをシステム化することで改善します(手間を削減する)。これは既存のプロセスのオンライン化みたいなものなのでデジタル・トランスフォーメーションではないです。学習する人にとっては、学習コンテンツの配られ方が変わるだけですから。分かりやすく言えば、こちらは学習する人が主体というよりも、学習させたい人の側からのシステム化と言ってもいいかもしれません。
一方、後者は学び手の学び方を変えようという視点に立って、いままで提供されていない学び方をデザインし、実現しようという意図を持つものでしょう。学び手の人たちの学び方に今までとは違う方法、いま風に言えば新しい体験方法(体験価値とも言いますね)を用意しようという意図があると思います。なので、これはソリューション。新しい体験方法を編み出す、普及させていくという変化を起こすことになるので、私はこちらはソリューションだと呼びたいです。
昨今のLMSは機能としては前者、後者の両方をカバーしてくれます。なので、導入の目的がどちらにあるかで、各機能の使いこなし方が変わってきますし、必要なデータが異なることにも気づきます。前者はサプライチェーンを考えるかの如く、コンテンツの配給ワークフローを捉えていけばいいのですが、後者はちょっと視点を切り替えてLMSの機能をうまく使い倒すセンスが求められてくる。そのセンスというのは、最近マーケティングで言われているDECAXになると考えています。
DECAXについては別途検索していただければと思いますが、「学び手の学び方を変える」のが目的の後者では、『消費者の「発見」から始まる、消費者視点が新しいプル型の購買行動フレームワーク』であるDECAXの視点を応用すると、ソリューションの各機能をうまく使いこなしていけると思います。
学び手はどのようにして自分の成長やより力を発揮するために役に立つ学習コンテンツや機会を発見するだろうか?
このようなシーンを想像して、ソリューションの機能を使っていく。そうすると、いままではあまり蓄積してこなかった(あるいは蓄積していたけれども活用してこなかった)情報を活かす道も見えてきます。
学び手は、どんな情報を見て受講を判断するだろうか?
この学習コンテンツって、どんな人が役に立ったと言っているのだろうか?このような情報が学び手がそれを受講するかしないを決めるときの重要な情報になるのではないでしょうか。
会社にとってコンプライアンス、品質マネジメントといった社員であれば誰でも理解し実践しなければならないことのための必須研修もありますから、学ばせる側の視点でそれを効率的に、確実に実施できるシステムも必要です。ですが、社員一人ひとりの成長につながる学びはそれだけでは十分ではありません。一人ひとりのキャリアや興味関心、今後の在りたい姿は様々です。故に、それを支援する学習コンテンツは必然的に本人の選択に委ねられます。これを「パーソナライズする」という言い方もしますが、結局のところパーソナライズとは一人ひとりが自分で考えて学びの機会を選択できる状態を実現することなのではないかと考えます。
学ばせ方改革はSOR(System of Record)領域の取組み、学び方改革はSOE(System of Engagement)領域の取組み。どちらも必要な取組みですが、学び方改革までを目指していて実は学ばせ方改革だけで終わってしまっていることはないでしょうか?
SOR領域の視点で取り組むとき、システム管理者はシステムの主な利用者として学習コンテンツを提供してくれるコンテンツ・オーナーをイメージしていると思います。一方、SOE領域の視点で変革するときは、コンテンツの学び手を中心にして新しい学び方のシーン(=ユースケース)をデザインしていると思います。
文化は人々の行動習慣の積み重ねであり、その逆でもあると考えると、学習する組織への変容を志向するならば、人々の学習習慣、すなわち学び方レベルまで新しいデザイン、ユースケースを創る発想が必要と考えます。それはいままで実現されていなかったものでもあるから、既存のプロセスを対象にしてシステム化するアプローチでは到達できないと考える次第です。
学びもキャリアも選択権は個人にある。
この前提とDECAXの発想を持てば「学び方改革」をデザインし、実装していくことができると思っています。。