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多様な住宅空調設備を評価するための暖冷房負荷計算の開発(2) ~暖冷房負荷計算・建築物省エネ法における暖冷房負荷計算~

割引あり

前回からの続きです。

本記事は、令和4年度国立研究開発法人建築研究所講演会で講演した内容をもとにしています。講演会では時間的な制約があったため、この内容をもとに、大幅に加筆(&修正)しています。

講演会の動画はこちらから視聴できます。

住宅の暖冷房エネルギーの消費量の予測に暖冷房負荷計算は欠かせません。この記事では、新たに暖冷房負荷計算を開発する狙い・意義・概要について説明します。

暖冷房負荷計算

暖冷房負荷を決定する熱取得と熱損失

暖冷房負荷は室内が取得する熱と損失する熱を計算することから始まります。取得する熱が損失する熱を上回る場合は室温が上がり、取得する熱が損失する熱を下回る場合は室温が下がります。次図に、取得する熱と損失する熱の種類を示しました。

熱負荷に影響を与える熱の流れ

これらの熱の移動は、室外条件(気温や日射量など)や居住者のスケジュールなどに依存するため、時々刻々に解いていく必要があり、手計算でできる範囲を超えているため、コンピューターを活用して計算することになります。

取得する熱が損失する熱を上回ると室温が上がっていき不快になるため、一定の範囲で室温を涼しく保つためには、エアコン等の設備を用いて強制的に室内から室外に熱を移動させてやらねばなりません(除熱)。この熱の量を冷房負荷と言います。一方、損失する熱が取得する熱を上回ると室温が下がっていき不快になるため、一定の範囲で室温を暖かく保つためには、エアコン等の設備を用いて強制的に室外から室内に熱を移動、あるいはFF暖房設備など燃料を燃焼させて熱を発生させる等しないといけません(加熱)。この熱の量を暖房負荷と言います。

もし仮に暖冷房負荷を発生させなければ、熱取得または熱損失の程度に応じて室温が上下します。この関係を単純化した式で書くと次のようになります。

室温と負荷の関係式

$${\boldsymbol{T}}$$ は室温(正確には室温ベクトル)(単位:℃)を表し、$${\boldsymbol{L}}$$ は暖冷房負荷(正確には暖冷房負荷ベクトル)(単位:W)を表します。ベクトルという概念が難しい場合はあまり気にしないで読んでください。ここでお伝えする本質にはあまり関係ありません。とはいえ、ここでベクトルを持ち出したのは、部屋の数が複数あるからです。ここで部屋の数を $${n}$$ とすると、ベクトルは $${ n \times 1 }$$ の形をしています。その他の係数 $${\boldsymbol{C_T}}$$、$${\boldsymbol{C_L}}$$、$${\boldsymbol{C_C}$$ は、躯体の性能、換気量、室内の発熱、外気の状態などによって決定される値(ベクトル)です。ここで、室温 $${\boldsymbol{T}}$$ と暖冷房負荷 $${\boldsymbol{L}}$$ は未知数です。室温 $${\boldsymbol{T}}$$ を目標温度(設定温度とも言う。)に適当に決めてあげればそれを満たす暖冷房負荷 $${\boldsymbol{L}}$$ を求める式になります。一方で、暖冷房をしない、つまり暖冷房負荷 $${\boldsymbol{L}}$$ を0(ゼロ)とすれば室温 $${\boldsymbol{T}}$$ が求まります。このように暖冷房負荷の計算ができるということは、その暖冷房負荷を0とおくことによって室温計算ができるということと同じ意味になります。

躯体の熱性能を表す指標のうち、外皮平均熱貫流率(UA値)はこれらの熱のやり取りのうち、「①壁や屋根などを伝わって入ってくる熱」「⑥壁や屋根などを伝わって出ていく熱」を表しています。一方、暖房期または冷房期の平均日射熱取得率(ηAH・ηAC値)は、「①壁や屋根などを伝わって入ってくる熱」「②窓から入ってくる日射」「⑥壁や屋根などを伝わって出ていく熱」を表しています。暖房期(冬期)は室内外の温度差が大きいので暖房負荷低減には外皮平均熱貫流率を小さくすると共に暖房期の平均日射熱取得率を大きくすることが有効です。一方で、冷房期(夏期)は室内外の温度差が小さいので外皮平均熱貫流率の重要度は小さく、冷房負荷低減には専ら冷房期の平均日射熱取得率を小さくすることが有効です。そこで、建築物省エネ法に基づく外皮基準は伝統的にこれらの指標(外皮平均熱貫流率と冷房期の平均日射熱取得率)で判断されてきました(注5)。

熱負荷に影響を与える熱の流れ(再掲)

UA値やηA値ははあくまでこの①、②、⑥あたりの熱の流れをカバーしているにすぎないため、それ以外の熱のやりとり、あるいはここで表現されていない蓄熱などの熱のやりとりを評価しようとすると、負荷計算を行うことが必要で、負荷計算を行うことで様々な設計手法が評価できるようになってきます。

暖冷房負荷を低減させる技術

暖冷房負荷を低減させる技術を次図に示します。

暖冷房負荷低減に資する要素技術

この図は自立循環型住宅への設計ガイドライン(注6)で挙げられている省エネに資する15の要素技術の中から暖冷房負荷低減に関係するものを抜粋したものです。これらの要素技術は暖冷房負荷を減らすために前述した熱取得あるいは熱損失を増減させる技術です。厳密には暖冷房設備の方式によっても体感温度や湿度が変わるなど暖冷房負荷の増減に影響を与えるため、ここに含めることにしました。また、ここに挙げた技術以外にも熱交換型換気の導入や照明・家電発熱の低減なども、暖冷房負荷に影響を与えます。

外皮平均熱貫流率と平均日射熱取得率を超えた評価

建築物省エネ法で採用されている外皮性能を表す指標、 外皮平均熱貫流率(UA 値) 及び、暖房期または冷房期の平均日射熱取得率(η AH 値・η AC 値) は、前述した要素技術の一部を評価しているに過ぎません。

例えば、日射遮蔽技術と日射熱の利用はどちらも重要な技術です。 冬のことを考えて日射熱を最大限に利用するように設計上配慮しつつも、そのままだと夏は室温が上がりすぎるためブラインドやルーバー等の開口部の付属部材を活用して適切に日射を遮蔽することが鍵となります。

時期によって開口部まわりの日射熱の取得・遮蔽を行うことが重要であると言えます。自然風の利用についても、窓を開けると室内外の空気が適切に入れ替わるように設計することはもちろんのこと、室外の温度が上昇する夏の日中などではあまり効果が得られないため、適切なタイミングで窓開けを行
うことが重要になります。こういった居住者の操作といった設計指標化しにくいような項目はシミュレーションを行って評価することになります。

もちろん、断熱や日射取得・遮蔽は外皮設計の基本、かつ最も重要な要素ですので、 設計順序として、最初に断熱・日射取得・日射遮蔽性能に配慮することが重要なのは言うまでもありません。その上でさらに暖冷房負荷削減を行うには、外皮性能を表す指標では表わされない多様な技術を評価すること が重要で、そのためには負荷計算を行い暖冷房負荷の多い・少ないを指標とすることが鍵となると思います。

暖冷房負荷計算法を開発するということは、このようにUA値やηA値にのりにくいような省エネ設計技術を評価できるような、いわば、プラットフォーム・道筋を作っているとも言えます。

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