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いつか遠いところへ
いつか遠いところへ行きたいと思う。それは物理的な距離というより、心の距離だ。日常の喧騒から解放され、自分自身を見つめ直せる場所。そんな場所が、この世界のどこかにあるのだろうか。
子供の頃、よく家の庭で空を見上げていた。昼間の澄み切った青空、夜に瞬く星空。どちらも自分にとって「遠いところ」の象徴だった。鳥のように空を飛び、どこまでも自由に行けたら――そんな夢を描いていた。しかし成長するにつれて、現実の重みがその夢を少しずつ引き裂いていった。大人になり、仕事に追われ、責任という鎖が心を縛る。自由はどこに行ってしまったのだろう。
最近、ふと空を見上げることが少なくなったことに気づいた。視線はいつもスマホの画面か、目の前の仕事に向けられている。そんな生活の中で、「遠いところ」への憧れだけは消えずに残っている。旅をして新しい場所を訪れたとき、一瞬だけその感覚を思い出すことがある。でも、それは一時的なもので、戻ってきたときには日常が再びその背中を押し付けてくる。
「遠いところ」とは、本当に場所のことなのだろうか。あるいは心の在り方の問題なのかもしれない。今の私が望む「遠いところ」は、自分自身が素直になれる場所だ。誰にも邪魔されず、何にも縛られず、ただ自分の心と向き合える瞬間。それがたとえどんなに近い場所であっても、その感覚が得られるなら、そこは私にとって「遠いところ」になるだろう。
いつか、そんな場所へ行ける日が来るのだろうか。そのためには、まず自分を縛る鎖を少しずつ解いていかなければならないのかもしれない。日常の忙しさの中でも、心の奥底にある「遠いところ」への憧れを忘れずに生きていきたい。
その日が来たら、私はもう一度空を見上げるだろう。そして、あの頃のように自由に羽ばたく鳥の姿を追いかけている自分に気づくはずだ。