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離れゆく秋〜星の下で眠る2人

秋風が肌寒さを増す中、柚木涼太は学校帰りの道で鈴木ハルカと並んで歩いていた。2人は中学3年生。受験を控えた焦燥感が周囲の空気を支配していたが、涼太とハルカにとって、それはどこか遠い話のようだった。今はただ、この時間が大切だった。

「涼太、ねえ、覚えてる?」
ハルカが少しはにかんだように問いかけた。
「何のこと?」
涼太は首を傾げながら、彼女の顔を見た。薄いピンク色の頬が、夕陽に染まっている。

「ほら、小学校のとき、星を見に行ったこと。あの時、夜の公園でずっと話してたよね。」
「覚えてるよ。ハルカが星座の話をしてくれたやつだろ?それに夢中になりすぎて、帰るの遅くなって怒られた。」
2人は顔を見合わせ、笑い合った。幼い頃から一緒に過ごしてきた記憶が、心の中で温かく蘇る。

しかし、そんな楽しい会話も長くは続かなかった。ふとハルカの表情が曇る。
「ねえ、涼太。私、春から遠くの高校に行くかもしれない。」
唐突な告白に涼太は足を止めた。いつもは明るいハルカが、どこか不安そうな顔をしている。
「……遠くって、どれくらい?」
涼太の声は少し震えていた。

「新幹線で2時間くらい。お父さんの転勤が決まったの。」
言葉の重さに、しばしの沈黙が流れた。涼太は何か言おうとしたが、言葉が見つからない。風が2人の間を吹き抜け、枯れ葉を巻き上げていく。

その夜、涼太は一つの決意をした。ハルカとの思い出の場所、あの夜の公園に誘おうと。どうしても最後に、一緒に星を見たかった。

翌日の夜、2人は公園の芝生に寝転んでいた。冷たい空気の中、手をつないで星空を見上げる。
「ねえ、涼太。星って、私たちみたいだと思わない?」
「どういう意味?」

「見てると、全部近くに見えるけど、実際はすごく遠い。でも、どんなに離れていても、夜空で一緒に輝いてる。」
涼太は黙って、彼女の横顔を見つめた。ハルカの瞳は星明かりを映して輝いている。それは、これからも離れていても一緒だと言っているようだった。

「ハルカ、俺、ずっと応援するよ。どんなに遠くても。」
涼太の言葉に、ハルカは静かに微笑んだ。

夜風が2人の頬を撫でる中、時間が静かに流れていった。星空の下、2人はそれぞれの未来を思い描きながら、最後の秋を共に過ごした。

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