堀田昌寛先生の書籍『入門 現代の量子力学』に関する議論:これまでの経緯

この記事では,本タイトルに関連する記事について,歴史順にざっくりとまとめます。進展があれば,随時更新します。


'22/8頃:問題提起

堀田昌寛先生の書籍『入門 現代の量子力学』のまえがきでは,「情報理論の観点からの最小限の実験事実に基づいた論理展開で、確率解釈のボルン則や量子重ね合わせ状態の存在などを証明する」と書かれています。この「証明する」は「演繹的に導く」の意味であり,堀田先生が提示された前提(以下,『前提』とよびます)から量子論の数学的構造がただ一つに定まることを演繹的に導けるとのことです。

この議題に対して,とくに量子論の数学的構造を定める特徴的な性質である「任意の$${N}$$準位系$${Y}$$において$${\mathbf{St}_Y \cong \mathsf{Den}_N}$$を満たす」という性質に着目し,この性質を『前提』から演繹的に導けるか否かを堀田先生と何度も議論しました。便宜上,以降では$${\mathbf{St}_Y \cong \mathsf{Den}_N}$$を満たす$${N}$$準位系$${Y}$$を量子系とよぶことにします。また,任意の系が量子系であるような理論を量子論とよぶことにします。このとき,議題は次のようにまとめられます。

議題:『前提』を満たす任意の理論は量子論か?

この議題に対して堀田先生はYes,私はNoの立場です。私からは,

①堀田先生の記事では(Yesであることの)演繹的な導出が示されていない
②そもそも演繹的に導けないことを示せる

の2点を指摘し,次の記事にまとめました。

補足:もう少し詳しい経緯を述べておきます。次のX(旧Twitter)の一連のポストもご参照ください。https://x.com/KenjiNakahira/status/1565818932514025473('22年9月3日)
■'22年8月13日
私がnote記事『図式で学ぶ量子論 番外編 ~2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい~』を公開し,2準位系が量子系であるからといって,そこから一般の$${N}$$準位系が量子系であることを演繹的に導くことは,一般の書籍で扱えるような方法では困難であることを述べました。
■'22年8月13日~
上のnote記事に対して,堀田先生から反論がありました。その内容は,この2準位系から多準位系への拡張を堀田先生の書籍『入門 現代の量子力学』および彼のはてなブログで演繹的に導出できているというものでした。ここから,上の議題について議論されることになります。しかし,(このように主張されているにも関わらず)導出に用いた前提が明記されていませんでしたので,堀田先生に明記をしていただきました。
■'22年8月15日~
上で紹介したnote記事『図式で学ぶ量子論 番外編その2 ~堀田先生の書籍「入門 現代の量子力学」では多準位系の数学的構造を演繹的に導けていない~』を公開し,『前提』からは演繹的に導けないことを示しました。このnote記事では,公開した後で堀田先生と半月ほど続けた議論の内容もまとめています。

なお,この記事をまとめる途中で堀田先生から前提を勝手に変えられ,それに伴い過去の議論のいくつかが無駄になっています。私からは,前提を変えないようにお願いしました。

'24/10頃:堀田先生からの『最終回答』

私からの指摘に対して,堀田先生が『最終回答』をまとめられました。これに対し,私は『最終回答』でも上記の二つの問題がともに解消されていないことを次の記事で指摘しました。

とくに,この記事では,「①堀田先生の記事では演繹的な導出が示されていない」ことを具体的に説明しました。なお,この指摘に対して堀田先生からコメントをいただいており,次のnote記事で回答しました。
堀田先生のコメント('24/11/3公開)
中平の回答('24/11/3公開)

また,「②そもそも演繹的に導けないことを示せる」については,次の記事でていねいに解説しました。この記事では,過去の記事の内容を知らなくても私の主張を理解していただけることをめざしました。

なお,これらの指摘に対して堀田先生からコメントをいただいており,次のnote記事で回答しました。
堀田先生のコメント(記事の最後のほう)('24/11/3公開,'24/12/15更新)
中平の回答('24/12/16公開)

'24/12/16~:新たな問題1

上記のやり取りの結果,堀田先生は「②そもそも演繹的に導けないことを示せる」(つまり『前提』を満たす非量子論がある)ことを暗に認められたようです。
堀田先生のコメント('24/12/16公開)

ここで議論は終わりのはずなのですが,彼は主張を変えられたようです。上のコメントによると,彼の新たな主張は

堀田先生の新たな主張?:『前提』を満たすならば,たとえ非量子論であってもボルン則を演繹的に導ける

と読み取れます(または,「ボルン則」の部分を彼のコメントで述べられている「標準的な量子力学の公理系」に置き換えても構いません)。ただし,彼が議論の前提を変えないという性善説に立った場合です。このコメントに対する私の回答はこちらです。
中平の回答('24/12/16公開)

しかし,この主張にはいくつかの問題があり,とくにこの主張は堀田先生の書籍の内容と矛盾しています。このことを次の記事にまとめました。

なお,この指摘(および私の記事('22/12/15公開))に対して堀田先生からコメントをいただいており,次のnote記事で回答しました。
堀田先生のコメント('24/12/23更新)
中平の回答('24/12/25公開)

'24/12/25~:新たな問題2

この後,堀田先生から,合理的に考えると前提を変えられたとしか結論付けられないような発言がありました。前提を変えられると議論にならないことはこれまでに何度も指摘をしていましたので,もし今回も前提を変えられたのだとしたら,学術的にあまりに不誠実な行為ではないかと思います。

堀田先生に,もし前提を変えられていないのだとしたら釈明をするようにお願いをしましたが,釈明はないようです。このため,前提を変えられたのだと思います。これにより,堀田先生とのこれ以上の議論は控えさせていただくことにしました。

次のnote記事でこれらのやり取りが行われています。
堀田先生のコメント('24/12/25更新)
中平の回答('24/12/29公開)

'25/1:まとめ

次の記事にて,一連の議論をまとめました。

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